【禁断の平日昼飲み!】センベロのメッカ立石で平日の昼から飲み歩ける王道的5軒(イラストマップ付き)

【連載】幸食のすゝめ #027  食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2016年09月20日
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【禁断の平日昼飲み!】センベロのメッカ立石で平日の昼から飲み歩ける王道的5軒(イラストマップ付き)
Summary
1.「まちづくり」で今の景色がなくなる前に訪れたい立石
2.平日の昼だからこそ楽しめる「大人のワンダーランド」の楽しみ方
3.『宇ち多゛』に始まり『蘭州』で終わる王道コースを解説

幸食のすゝめ#027 立石の歩き方・平日編

「人にはいつも、おとぎ話が必要だ。リアリティーなんて、いつだってつまらないものなのだから」、そう教えてくれたのはザ・ビーチボーイズの「ディズニー・ガールズ」だった。
立石駅の駅舎から、なだらかな階段を降りる度に、優しいあのメロディーをハミングする。
そして、どこからか「シャラン」という音が聞こえるような気がする。

あれはティンカーベルが魔法の粉をかける音、そう言えば『宇ち多゛』の串はなんだかティンカーベルの杖に似ている。
容赦なく街を貫く幹線道路と、センスの悪い大型店が立ち並ぶこの国。全国的に街の均一化が進んで行く中で、古くから続く東京の街の商店街が人々の人気を集め続けている。

既に駅前が「まちづくり」という名の破壊行為でズタズタになった武蔵小山に続いて、とうとう「立石駅周辺地区まちづくり基本計画」がいよいよ動き始めた。

『宇ち多゛』のある仲見世側は、まだまだ大丈夫だが、呑んべ横丁がある北口は今年の末頃から少しずつメスが入って行く。スナックという昭和のレディたちの城の辺りには、葛飾区の総合庁舎が入った高層ビルが建設されるらしい。
でも、まだ今なら立石という大人のワンダーランドは元気に続行中だ。
街いちばんの酒場をアトラクションの入口にして、大人の遊園地を思い切りはしごして楽しもう。

前回、土曜編に続けてお送りする幸福なはしご酒指南。今回は平日の午後にスタートして、思う存分立石を楽しむ方法をお伝えする。全店をはしごできる理想的な候補日は「水・木・金」。平日にしか出逢えない『宇ち多゛』のお楽しみから始まって、当代随一の水餃子まで。今回も、首までどっぷり立石に浸かった東京自由人こと小西康隆氏がイラストを担当。渾身のイラストマップと共に立石行脚のお供にされたい。

最初にして最大の目的地、1軒目=『宇ち多゛』

大人の遊園地、立石を代表する名店と言えば、東京、いや日本のもつ焼き界の頂点に立つ『宇ち多゛』。「土よ宇」と呼ばれる土曜日の「宇ち入り」にも増して人気が高いのが、平日の「宇ち入り」だ。

目的はずばり、平日しかお目にかかれない希少部位との出逢い。

「ツル」と呼ばれる豚の陰茎、「テッポウ」と「コブクロ」をセットにした「シンキ」。その内、「テッポウ(1本限定)」だけはラッキーだと開店後にも出逢えることがあるが、「ツル」と「シンキ」は口開けに並ばなければ手に入らない。午後休か、直行直帰、有給休暇なども利用しつつ、まずは少なくとも13時前には『宇ち多゛』の行列に並ぼう。

ハードボイルドな男の世界に見えて、実は心優しきホスピタリティの殿堂である『宇ち多゛』。店の中と同じように、行列の際にも丁寧な采配が揮われるので、恐がることは何にもない。仲見世のメインストリート側は三代目のアンちゃん、『栄寿司』側は重鎮・ソウさんが、入店してからの席を決めて指示してくれる。その際、一緒に行った仲間は1つにまとめ、もし女性だけのお客さんがいたら、男同士に挟まれないように席を決めてくれる。

だからこそ、いつも、誰もが、最高の『宇ち多゛』を満喫できる。これから始まる大人のワンダーランド、立石の旅の幸福な1軒目のスタートだ。

席に着いたら、行列時に予約した「ホネ」注文の証しである割り箸がまず渡される。一杯目のビールが置かれ、各人の前に梅割りが用意されたら、「おかずはどうする?」というお店からのコール。
すかさず「シンキお酢」、「ツルタレよく焼き」と希少部位をオーダーしよう。(注文方法については、”都内最強『宇ち多゛』9つの掟&楽しみ方公式ガイド/”をご覧頂きたい)。

煮込みも口開け時なら、「ハツモト」など好きな部位を指定して装って貰える。後は、『宇ち多゛』スタッフの見事なオペレーションに身を任せるだけで、東京一のもつ焼きや煮込みを堪能できるはずだ。
もつ焼きと梅割りの最強コンビは、ついつい酒が進むが、ここは自省の念を忘れずにセーブ。これから始まるはしご酒の旅で、入場禁止のレッドカードを貰わないために、サッとお会計を済ませて『宇ち多゛』を出よう。

宇ち多゛

住所
店舗の希望により住所・電話番号は掲載不可
営業時間
14:00~19:30頃(売切仕舞)、土曜 午前中(不定)~14:00頃(売切仕舞)
定休日
定休日 日・祝

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

食堂飲みの隠れた名店、2軒目=『ゑびすや食堂』

『宇ち多゛』を出て、もう一度仲見世の入口まで引き返したら、左前方にあるイトーヨーカドーの先を左折。しばらくすると、小さな紺色の暖簾の一軒家、『ゑびす屋食堂』が見えてくる。朝8時半から開いている立石を代表する大衆食堂は、店入口のガラスケースに蝋細工の食品サンプルが並ぶ昔ながらの定食屋さん。

しかし、そこに立て掛けられた「酒酔の方 入店お断り致します」の看板とは裏腹に、店に入るとお客さんのほとんどがビールや酎ハイで和気あいあい。ここは立石観光の途中で立ち寄る、食堂飲みの隠れたメッカだ。

昼メシをパスして『宇ち多゛』の行列に並び、梅割りで高揚したハートと身体を、ハムエッグやハムカツで優しくクールダウンしよう。ここで酎ハイを注文すると、厚手のグラスに並々と注がれた焼酎と、炭酸がひと瓶、そして、氷とレモンスライス、マドラーの入ったサワーグラスが並ぶ。だから、自分の好きな濃さで理想の酎ハイを楽しめるという配慮。

実は限りなくストレートの焼酎である『宇ち多゛』の梅割りや葡萄割りの後は、『ゑびす屋食堂』の酎ハイやビールでゆっくりやろう。そのためにはお袋の味のおかずたちが絶好のパートナーだ。

もちろん、お腹に余裕があればここで定食を食べてもいい。カレーライスのルーのみや、あさり汁などをツマミにしてしまうという高等技も可能だ。しかし、ここはあくまでも大衆食堂。軽く食べて、軽く飲んで、次なる戦場のためにリフレッシュしよう。飲み過ぎるなんぞは愚の骨頂だし、お腹いっぱいになって睡魔に襲われるのも御法度。

ワンダーランド立石の旅はまだまだ前半戦が始まったばかりだ。ここ『ゑびす屋食堂』、冬になると出てくる「ふぐのひれ酒」や「湯どうふ」も名物。一年中楽しめる、立石の偉大な良心の1つだ。

ゑびす屋食堂

住所
〒124-0012東京都葛飾区立石1-15-11
電話番号
03-3692-1719
営業時間
8:30〜20:30
定休日
定休日 月曜

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

唐揚げと客捌きに心奪われる、3軒目=鳥房

大人たちのワンダーランド立石には、たくさんの不思議がある。その中でも有名なのが、立石にはケンタッキーフライドチキンが進出しないという噂。亀有や青砥には進出しても、立石には何故か出店がない。
ケンタッキーばかりか、一時からブームになり、東京中に出店した鳥の唐揚げ店の類いも悉く存在しない。

そのすべての解答としていつも登場するのが、立石を代表する名店の1つである『鳥房』の存在だ。
もつ焼きの名店が目白押しする中で、多くの行列を作る孤高の唐揚げ屋、ここも立石詣には外せない砦だ。

名店『宇ち多゛』と同じく、ここにもやはり守るべき掟が存在する。
その1、酔っぱらいはお断り。
その2、1人につき半羽分の若鳥空揚げを1皿ずつ頼むこと。
その3、4人のお姐さんたちには如何なることがあっても逆らわない。

まずは、その1をクリアするための『ゑびす屋食堂』挟みだ。食堂飲みでクールダウンし、ストレートの焼酎の上にハムエッグで蓋をしての、いざ『鳥房』。それでも「あんた飲んで来たでしょ?」と怒られたら、正直に「ほんの少し」と謝ろう。余程の泥酔や真っ赤な顔をしていない限り、「しょうがないね、今日だけだよ」とニッコリ笑って許してくれるはずだ。
ごめんなさい、お姐さん。

その2は、オーダー上のお約束。唐揚げを待つ間、「ぽんずさし」や「お新香」をつまみながら丁寧に3度揚げされるスターを待とう。

まずはその大きさにびっくりするが、衣なしの素揚げは予想以上に軽くペロリと完食できるはずだ。
解体が困難なら、お姐さんに頼もう。
「ちゃんと覚えて、今度からは自分でやんなよ」と30秒程度の神業で、目の前で唐揚げをバラしてくれるだろう。

仲見世とは反対側の南口の商店街にある『鳥房』は、表向きは純然たる鶏肉屋さん。でも、店左側の「呑んべ横丁」に続く小径を右に曲がると、時代劇に出てくるような居酒屋の入口が登場する。唯一無二の唐揚げと、元祖ツンデレなお姐さんたちのチャキチャキの接客。男の世界『宇ち多゛』の鉄壁のホスピタリティとはまたひと味違う、江戸っ子姐さんたちの客捌きがいつしか癖になってしまうはずだ。

鳥房

住所
〒124-0012 東京都葛飾区立石7-1-3
電話番号
03-3697-7025
営業時間
16:00〜21:00、日・祝15:00〜20;30
定休日
定休日 火曜

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

ここらで、ちょいとひと休み=立石的お惣菜

仲見世商店街の入口にある『鈴屋食品』は、古くから愛される立石を代表するおかず屋さん。特に、毎朝、店の外で切り分けられる新巻鮭は人気の的。『宇ち多゛』のアンちゃんは辛塩、『二毛作』の日高さんは甘塩がお気に入り。

新しいお店の代表は、呑んべ横丁に今年オープンしたばかりの立食い天ぷら屋の『れとろ』(map11)。夕方6時から夜中の1時まで開いてて、年中無休なので知っておくと何かと便利。実はこの店ができるまで、立石には立食い天ぷら屋がなかったというのも不思議。カラオケとおでんの呑んべ横丁巡りの新しいスボットだ。

避けて通れぬ立石の関所、4軒目=江戸っ子

『鳥房』から呑んべ横丁の緑に覆われた入口を過ぎ、右手に横丁を見ながら突き当たりまで行くと、『宇ち多゛』と並ぶ立石の人気店『江戸っ子』が見えてくる。

L字型とコの字型のカウンターが合体した変則カウンターの中を駆け回る、お揃いのTシャツを着た女性たち、その頂点に立って指示するのが有名な名物ママだ。
「座ったままでの接客をお許しください」という冷蔵庫前の貼紙の通り、今はまだ大病からのリハビリ中だが少しずつ現場復帰。相変わらず、孤高の幸せオーラを放ちながら店のアイコンとして、お客さんたちに慕われている。

ストイックにもつ焼きと梅割りを楽しむ『宇ち多゛』とは対照的に、多少の長居が許される『江戸っ子』はいつも開店と同時に満員。もちろん、私語も禁止ではない(※読書は禁止)のでカップルから仕事帰りのサラリーマンまで幅広い客層の人たちの笑顔が店を覆い尽くす。

名物の酒は特製ハイボール、いわゆるボールで、これはハイボールの焼酎版と思えば間違いない。下町ハイボールと言う通称ができるほど、下町ではポピュラーな酒で各店その味付けで勝負する。
『江戸っ子』ではあらかじめ調合されたボールが、生ビールみたいにサーバーから注がれる。氷なしでほんのり甘く、さっぱりと飲み易いから自分のキャパを念じつつ飲もう。

名物のもつ焼きは、甘タレ、辛タレ、塩、3種の味付けでひと皿4本セット。ただし、「レバ」「シロ」「カシラ」「ナンコツ」「アブラ」などは、同じ味付けなら2本ずつのセットも可能だ。テーブルには串カツ屋みたいにザク切りのキャベツが置かれていて、もちろん食べ放題。ミニトマトのキムチやたぬきヤッコなど、居酒屋としてのツマミもたくさんあるから寛いでしまいたいお客さんは『宇ち多゛』より『江戸っ子』派という人たちも多い。

しかし、その両方の良さを知って楽しめてこそ、真の呑んべい、立派なはしご酒の達人だ。
「立石の関所」というキャッチフレーズそのままに、ここは避けては通れない名店。ママの健康を願いつつ、もう一杯だけボールをお代わりしよう。

江戸っ子

住所
〒124-0012 東京都葛飾区立石7-1-9
電話番号
03-3694-9593
営業時間
16:00〜21:00
定休日
定休日 日曜(月曜が祝の場合は翌火曜まで休)

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。

〆はやっぱり、ここの水餃子、5軒目=蘭州

さあて、そろそろ〆の時間だ。楽しかった平日の立石を、華麗に楽しく〆たい。しかし、今さら重たいものは食べれない。そんな胃袋に、ハートに、限りなく優しいのが『蘭州』名物の水餃子だ。
赤いカウンターの向う側で、ご主人夫婦の手で常に作り続けられ、息子さんの手で茹でられるできたての水餃子は、柔らかく、軽く、アッと言う間にひと皿完食してしまう。

プラス100円でパクチーを乗せれば、その爽やかさが餡のうまみと忘れ得ぬハーモニーを奏で始め、あちこちの席からリクエストのオーダーが繰り返される。
一つひとつ手作りの餃子は、水餃子のほか、サクッとした焼餃子、具にニラ玉が詰められた珍しい焼ニラ餃子もある。

皮から手作りで作り置きしない餃子の出来上がりを待つ間は、「牛すじ」や「烏龍茶玉子」で紹興酒かビールを飲んで待ちたい。2つとも、ご夫婦が本国そのままの味を持ち込んだもの。1人1個ずつ頼みたい「烏龍茶玉子」は、シンプルながら複雑な味わい。ほかの店ではまず見たことがない、ビーフジャーキー状の「牛すじ」はさらに趣深い。古くから西域、モンゴル地区に接する重要な場所、甘粛省の省都、蘭州の風がそのまま口いっぱいに広がり、まだ見ぬ大陸への淡い郷愁さえ抱かせてくれる。

そして、いよいよパクチーを纏った水餃子の登場だ。もつ焼きと梅割りで始まった魔法の1日を、爽やかに締めくくるパクチーの香りと、口中に踊る羽衣のような優しい皮の感触。もし、お腹にまだ余裕があったら何の変哲もない「ラー麺」と書かれたメニューを注文して欲しい。その昔、大陸から渡り、数々の文化を伝授して来た中国の先輩たち。今や国民食となったラーメンが、日本で始めて誕生した頃そのままの味が少し小ぶりの丼の中にある。支那そばと呼ばれ、やがて東京ラーメンの源流になっていくその味は、立石の街で秀逸な水餃子と共に脈々と息づいている。

さぁ、そろそろ、立石の魔法が解けてしまわない内に電車に乗り込もう。また、この街に来れる日まで、きっと元気で暮らせるはずだ。リアリティーなんて、笑い飛ばせ。現実なんて、ちっぽけな出来事に過ぎない。我ら呑んべいには立石という魔法の杖があるのだから…。

蘭州

住所
〒124-0012 東京都葛飾区立石4-25-1
電話番号
03-3694-0306
営業時間
18:00〜25:00、日・祝18:00〜23;30
定休日
定休日 月曜

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。