「ボブ・ディラン」と「フルーツカクテル」というカルチャーに酔いしれる、文化人も愛す秘密の隠れ家

みんな大好き「お酒」だけれど、もっと大人の飲み方をしたいあなた。文化や知識や選び方を知れば、お酒は一層おいしくなります。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエによる「お酒の向こう側の物語」
♯6:「酒」と「音楽」というカルチャーについて

2018年03月16日
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「ボブ・ディラン」と「フルーツカクテル」というカルチャーに酔いしれる、文化人も愛す秘密の隠れ家
Summary
1.「酒」と「音楽」は切っても切れない関係。そんな“文化”なお店を東京で発見した!
2.スペインワインとフルーツカクテルとボブ・ディランが訊ける店とは?
3.お酒の知識がなくても、ボブ・ディランのことを知らなくても、心地がいい

「酒」と「音楽」というカルチャーについて【シャンパーニュ騎士団オフィシエ・岩瀬大二】

ワインと食の組み合わせは「マリアージュ」、つまり「結婚」と呼ばれる、という話を「シャンパーニュ×餃子」のコラムでしたが、このマリアージュ、酒と食だけではなく、もっと拡大解釈していいし、むしろそれが自然だろう。

あるシャンパーニュメゾンの当主はこういった。

「このシャンパーニュはどんな食事に合うのか? という質問は何度も聞かれたし、何度も答えてきたよ。でもね、肝心なのは、このシャンパーニュを誰と飲んでいるか。それが一番のマリアージュだと思うんだな」

映画とワイン、景色と日本酒、ウィスキーとスーツ……実はなんだって楽しくて、実は必要な関係。僕の開催するワイン会は時におかしなことをする。例えば「F1を見ながらワイン会」。豪州GPならもちろん豪州ワインだ。イタリアならもちろんワインはイタリア、中国GPなら紹興酒もありで、ベルギーGPならベルギービール。

4年前「ソチ五輪男子フィギュアフリー観戦会」。羽生結弦選手のSP曲「パリの散歩道」の作者者・北アイルランドの名ロックギタリストであるゲイリー・ムーアにちなんでアイリッシュウィスキーを用意。このとき引退を思いとどまり腰に爆弾を抱えながらも、地元ロシアのためにエントリーしたが、残念ながら途中棄権となった王者エフゲニー・プルシェンコ選手に敬意を表してのプレミアム・ウォッカでしみじみ乾杯。

プロレスの小橋健太引退試合を観ながらの会では彼の技やファイトスタイルにあわせたワインを、野郎が集まって、熱い涙を流しながら楽しんだりもした。

ここまでくるとマニアックと言われても仕方ないが、こうした酒を楽しむヒントはいくらでもある。中でも切っても切れない関係と思うのが「音楽」と「酒」だ。

今でもヒットソングをリリースし続ける、音楽史における伝説のシンガーソングライター

それをかなりとんがってやっている店がある。酒のメインは、美しく自然なエレガンスをまとった、ここ数年、世界的な注目を集めるスペインワイン。そして、オーナーの感性が生きるフルーツカクテル。カウンターで酒、料理に腕を振るうのはオーナー自ら。

60年代、日本でもフォークソングが流行し、そのフォークソングは大人社会への反抗のアイコンともなったが、そこにはボブ・ディランの色濃い影響があった。当時の代表曲「風に吹かれて」や「時代は変わる」などは日本の音楽の授業でも使われる美しいメロディながら、歌詞は、当時の世相や若者の気持ちを代弁するまさに時代のアンセムだった。

2000年以降、若いミュージシャンたちとの交流などからアメリカで再評価の動きがあり、現在も、一線でヒットアルバムをリリースし続ける、まさに生きた伝説。

フルーツカクテルとボブ・ディランに対する、オーナーの本気度はホンモノだった!

オーナーが生まれたのは1970年代の大阪。ディランも、ディランの影響を受けた吉田拓郎や井上陽水の時代も過ぎ、同じく影響を受けた桑田佳祐も言ってみれば兄貴世代。音楽の洗礼を人生でもっとも浴びるであろう高校時代、友人たちが熱を上げていたのはTM NETWORKやBOOWYだった。

「みんな日本のロックばかりだったので、モテるには洋楽だろうという不純な動機があって(笑)。もちろん流行っていた洋楽はあったんですけど、どういうわけかディランにハマっちゃったんです」(オーナー)。

動機は不純でも、不純が本気になれば本物だ。オーナーは進学するが、ボブ・ディランを追いかけるために渡米。全米各地のツアーを追いかけ、ライブが跳ねればその地のライブハウスを巡るという日々を過ごす。そこで「俺はライブハウスをやろう!」と決意し帰国。修業のために生バンドのディナーショーがあるライブハウスに入店。

「バブルの勢いを知っている不良な大人が集まる場所で(笑)」という中で黒服も務めた。その後、縁あって、和食系のスタッフとして雇われるものの「いわゆる飲食ブラック。とにかく厳しい暗黒時代」を経てイタリアンで調理を学ぶ。そこで度胸と経験と小金をためて31歳、暗黒時代を共に戦った先輩シェフと小さな隠れ家的な店を出し、ここでスペインワインと出逢い、開眼。自分の売りに何かつかみたいと思って取り組んだフルーツカクテルが評判を呼び、スペシャリティに。こうした歩みを経て、ついに自分の城として開店したのが、こちらの店だった。

濃厚な味覚とじわじわとウォッカが沁みてくる「いちごカクテル」に合う曲調とは?

店はとにかく怪しい場所にある。東京・巣鴨の駅近くではあるが庶民的な飲み屋街。その雑居ビルの3階にあり、1階の大衆酒場、2階の昔はキャバレーだったノスタルジックな歌謡スナックという関門を抜けて階段をあがる。そして殺風景な廊下を進むと奥にようやく店はある。

入りづらいことこの上ないが、だからこそ一度入るとゆったりと肩の力を抜ける。

まずオーダーしたいのはフルーツカクテル。キラキラ系、派手な盛り付けのいわばインスタ映えするものではない。「いちごのカクテル」は、ウォッカにハイビスカスからエキスを抽出し、そこにレモンとともにイチゴを漬け込んだものをベースにする。とろっとしたいちごの触感から最初にエキゾチックなかわいらしさを感じるが、そこから濃厚な味覚とじわじわとウォッカが沁みてくる大人味。見た目は地味だが華やかさと深みがあるのはディランっぽい(というような気がした)。

そこでバーでBGMが流れているという感覚よりも一歩進んで積極的にボブ・ディランとお酒のペアリングを楽しんでみる。オーナーにこのカクテルと合うものを、と訊く。かけてくれたのは「メンフィス・ブルース・アゲイン」。軽やかなギターサウンドだけれどサビにかけて切なく、少し苦悩を感じられるような歌声は、確かにこのカクテルに良く似合う。

お酒の知識がなくても、音楽に詳しくなくても、楽しめるお店

続いて、スペインワイン。リアス・バイシャスという大西洋に面した北西部海岸エリアのアルバリーニョには「シルヴィオ」。激しめのギターのカッティング、切れ味ある歌いっぷりの裏に感じるセンチメンタルさ。これもいい雰囲気だ。

赤ワインは天才とも評され、オーナーも「スペインがフランス・ブルゴーニュに対抗できる1番手」と評するダニエル・ランディが手掛けるガルナッチャ。これにあわせてくれたディラン・ソングは「ジョアンナのヴィジョン」。ライブバージョンで聞くと、牧歌的だけれどシルクとベルベットのどちらの肌触りもあるような美しさ。まさにこのワインを口にしたとき、その余韻とシンクロする。たとえ、ディランのことを知らなくても、お酒の予備知識がなくても彼のサウンドで酒が実にうまく、心地よく感じられるだろう。

もちろん、料理についてもお手の物。お酒と一緒に日替わりで小皿料理が楽しめる。

「ワインとフルーツカクテルと食事、そしてボブ・ディランが聞ける店ですが、といっても、あまり音楽マニアが集まる店ではないんですよ」というオーナー。つけた店名は…

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須永久美
ライター