美しき料理に潜む懐かしい味。唯一無二の鳥羽マジックを求め既に予約殺到のフレンチ・代々木上原『sio』

【連載】幸食のすゝめ #072 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2018年08月23日
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美しき料理に潜む懐かしい味。唯一無二の鳥羽マジックを求め既に予約殺到のフレンチ・代々木上原『sio』
Summary
1.食材も料理もカトラリーも音楽も、ここにある空間全てで表現。おいしさとセンスが邂逅する店
2.郷愁に満ちた味覚で、たちまち幸福感に包まれる。気鋭のシェフが料理にかける変幻自在の鳥羽マジック
3.完成されたシェフのレシピはスタッフに手渡される。開かれた厨房が育てるハイレベルな料理人たち

幸食のすゝめ#072、開かれた厨房には幸いが住む、代々木上原

「マルジェラ(※1)も着るけど、ズボンは実はユニクロで、足元はスタンスミス(※2)みたいな…。そんな人たちに集ってほしいんです。それって究極、ホントのお洒落じゃないですか」
開口一番、鳥羽(周作)シェフは言った。

コックシューズ用だろうか? 近くの床には『ビルケンシュトック』の「ボストン」の靴箱が無造作に積み重ねられている。
「コレね、ウチの店の考えに共鳴してくれて、メーカーから提供されたんです。値段は十分の一くらいだけど、いわゆる合皮のコックシューズってダサいじゃないですか。ウチのスタッフには、いい靴履いて、いい音楽聴きながら、いい気持ちで仕事してほしいんです」。

JBLのスピーカーから流れる音楽にふと耳を澄ますと、ダンサブルだがサンプリングでもマッシュアップでもない良質なトラックが流れ続けている。
「沖野修也さんに、ウチ専用に選曲してもらったんです。これからはクラブでも、ディスコでもなく、イケてる音楽はレストランで聞こうよ!って感じになってほしいから」。

こだわりは、音楽だけではない。新しい店『sio(シオ)』のロゴは『good design company』の水野学、有名なくまモンの考案者だ。そして、カトラリーは「Tokyo Midtown Award 2008」に水野学賞を受賞した鈴木啓太。スガハラガラスの「富士山グラス」などの日用品から、鉄道車両の「相模鉄道20000系」まで、幅広い領域でプロジェクトを手がける現代を代表するプロダクトデザイナーだ。
この3人が顔を揃えるレストランなんて、今まで誰が考えただろう。

「今、おしぼりをお出ししますから使ってみてください」、即座にスタッフが適度にウエットな肉厚のおしぼりを持って来る。通常デリバリーの丸められたものではなく、適度な水気を店で施し丁寧に畳まれている。
開いて、手を拭いたとたん、とんでもない幸福感に包まれる。
何だろう、この贅沢な肌触りは。まるで、一枚の布に抱擁されているみたいだ。

「今治タオルの最高峰『IKEUCHI ORGANIC』のものです。実は今治タオルって、100以上の会社があって、その品質は一つひとつ違うんです。おしぼりは、店に来て頂いた方が最初に触れるものだから、まず、ファーストインパクトで最上級のものを体験してほしいんです。それは、これから始まる時間のイントロダクションですから」。

まず運ばれてくるのは、「ぐい呑み」程度の大きさの食器に満たされたトウモロコシのスープ。
思わず一気に飲み干してしまうのは、量が少ないからではない。そのまま身体の一部になってしまうような澄み渡る味覚を、途中で止めてしまいたくないからだ。
聞けば、材料はトウモロコシと水、わずかな塩だけだと言う。もしかしたら、かき揚げを乗せた立食いそばより、原価率は安いかもしれない。でも、大自然をそのままかじっているようなトウモロコシそのものの滋味は、こどもの頃、もぎたて茹でたてのトウモロコシを畑の真ん中で頬張った日を思い出す。

鳥羽シェフの料理は、シンプルなスープからスタイリッシュな一品まで、そのどこかに郷愁が棲んでいる。

「おばあちゃんやおじいちゃんと来たこどもたちも、若いカップルも、近くに住んでいるクリエイターも、誰もが食べておいしい料理を作りたいんです。いくらカッコよくても、おいしくなければ意味がない。おいしさあってこそファッショナブルなんです。センスとおいしさが共存しなければ、決して10年もたないと思う」。

言葉の通り、これほど斬新な外見と、どこか懐かしいおいしさがひとつになった皿には出会ったことがない。
それは、次に登場するフォアグラ、そして、馬肉のタルタルに集約されている。

3Dプリンターを駆使して造形された、強烈なインパクトを持った器に乗って登場するフォアグラは、アメリカンチェリーとべったら漬けが潜んでいる。

続いてのひと皿は、馬肉のタルタル。薄く伸ばした食パンを揚げ、ビーツとプラムで甘酸っぱさを演出し、小さな花で飾られる。外見はスタイリッシュ極まりないが、口に含んでみると誰もがおいしいと感じる味が構築されている。

こどもの頃、よく祖母が作ってくれた海老パンを思い出してなんだか目頭が熱くなる。海老のすり身と刻みパセリを和え、食パンの上に伸ばして揚げたお手製のおやつだ。

最先端を走りながら、個人個人の郷愁にいつか忍び込んで来る鳥羽マジック、その背景にはシェフ自身の思い出がある。

斬新な外見に潜む、誰もが郷愁を覚える味覚

「父がコックをやってて、ウチのご飯が、どこよりもおいしかったんです」。
おいしいウチご飯、その幸せな風景が原点にあるからこそ、斬新な外見とは裏腹に鳥羽シェフの料理は郷愁に満ちているのだ。

もうひとつのスペシャリテ、秀逸な脂に包まれたサバの干物は、アップルパイと林檎のジャム、ジャガイモのピューレとリコッタチーズを重層的に合わせた中に、ゴーヤのソテーとオカヒジキのサラダ、大葉が、青臭さとほろ苦さを添え、経験したことのない五味が口中に広がっていく。それでいて、昔どこかで出会ったような優しい慈しみに溢れている。

スタイリッシュでアグレッシブ、でも温かい気持ちになれる料理。それは、鳥羽周作という人物そのものかもしれない。

開かれた厨房から生まれる料理業界の眩しい明日

「もう気付いたかと思うんですが、店を代表するスペシャリテの2つとも、僕じゃなくてスタッフが作るんです」。
もちろん、メニュー開発から味の組み立てまで、シェフが完璧に創りげていく。しかし、完成されたものは後輩に委ね、自分はさらに先に歩み出していく。

「緊張感を持って店のスペシャリテを任されることで、若いコたちが育っていく。すべてをシェフが仕切り、独占しているレストランなんて、みんなを笑顔にできない。厨房の中が開かれていて、スタッフもお客さんと同じように笑顔になれなければ、この業界に未来なんてありませんよ」。

過酷な労働、徒弟制度、しばしばブラックなイメージをもたれがちな飲食業界を、きっと彼なら変えられるに違いない。


開かれた厨房には、幸いが住んでいる。

(※1)1988年に創立者マルタン・マルジェラが設立した『メゾン・マルタン・マルジェラ』は、ファッションの歴史に最も大きな影響を持つブランドのひとつ。2014年からはジョン・ガリアーノがクリエイティブ・ディレクターに就任し『メゾン・マルジェラ』に改名。モードの先端でありながら、時代を越えたクラシックな造形を持つシルエットは秀逸。特に定番のセーターは幅広い層に愛されている。

(※2)往年の名プレーヤーをモデル名に持つ「スタンスミス」は、世界一売れたスニーカーとして、ギネス世界記録にも認定。白を基調としたクリーンな配色と、特徴的な空気穴、スムースレザーの質感。どんなスタイルにもマッチする唯一無二の個性で愛されている。近年はベルクロタイプの「コンフォート」が高い人気を呼んでいる。


【メニュー】
ディナーコース 10,000円/12,000円/14,000円
ランチコース 5,800円
アルコールペアリング ディナー(6杯)6,000円 / ランチ(4杯)4,000円
ノンアルコールペアリング ディナー(7杯)5,000円 / ランチ(5杯)3,000円
(完全予約制)

※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税抜です。

sio (シオ)

住所
〒151-0064 東京都渋谷区上原1-35-3
電話番号
050-3314-3061
営業時間
18:00~23:30  ランチ12:00~15:00(土日祝のみ)
定休日
水曜(不定休あり)
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/s279sby30000/
公式サイト
http://www.sio-yoyogiuehara.com/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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伊藤初美
フードライター