なぜ正月に「おせち」を食べるの? おせちの由来や食材に込められた意味など【知っておきたい食知識】

2018年12月29日
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なぜ正月に「おせち」を食べるの? おせちの由来や食材に込められた意味など【知っておきたい食知識】
Summary
1.おせち料理ってそもそも何? 知っておきたい、おせち料理の由来と意味
2.おせち料理は年越しそばとも関係があった!?
3.何段目に何を入れる? 重箱と中身の食材に込められた意味を大解説

【知っておきたい食知識】「おせち料理」とは? なぜ正月に食べるの?

重箱に色とりどりの料理が敷き詰められた「おせち料理」。
家族や親族が集う正月に、みんなで囲むお祝いの料理だ。このおせち料理、今では当たり前になってしまっているが、そもそもいつから根付いた食文化なのだろうか。

まず、少し歴史をさかのぼってみよう。
そもそも「正月」の起源は、仏教が伝来する前の6世紀頃との説や、語源としては政治に注力した中国・秦の始皇帝が生まれた月、政月(セイグヮツ)→正月(シャウグヮツ)から来ているなど諸説ある。

いずれにせよ、正月の「正」には、“きちんとする”“改める”といった意味があり、年の初めをお祝いする日と言われている。

正月を祝うならわしは、中国から暦や年中行事が伝わったことに始まる。そして、平安時代に宮中で年中行事が形式化し、貴族の間でも「元日の節会(せちえ)」と呼ばれる宴会が開かれ、ここで食べる行事食を「御節供(おせちく)」と呼んだ。

江戸時代になると、幕府が特定の行事を行なう日として「五節供」【1月7日(人日:じんじつ)、3月3日(上巳:じょうし)、5月5日(端午:たんご)、7月7日(七夕:しちせき)、9月9日(重陽:ちょうよう)】を制定。
この五節供よりも重要で別格の節供とされたのが「正月」だ。その正月に食べる「御節供」が、庶民の間でも広まり定着した。

さらに江戸時代後期から明治時代になると、重詰めスタイルが一般化し、昭和から「おせち料理」と呼称されるようになった。

特に正月に食べる料理は、ゴボウや大根、焼き豆腐などの煮しめ(煮物料理)からなる「正月節供料理」と、それを重箱に詰める「正月重詰め料理」に区別された。

それが元禄から文化年間の頃には、「正月重詰め料理」の方が一般的なものとなり、日本各地に広がったと言われる。
ちなみに現在では重詰めに限らず、正月に食べる料理全般をおせち料理と呼ぶことが多い。

「おせち料理」を食べる意味とは?

それでは、おせち料理を食べること自体にはどんな意味があるのだろうか。

本来の意味として語られるのは、大晦日の夜に「歳徳神(としとくじん:その年の福徳をつかさどる神)」を迎え入れて料理を神前に供え、ごちそうを共食し無病息災を願うことであった。
元々は正月ではなく大晦日に食べる料理だったのだ。

このおせち料理を食べるときに、両端が細く中程が太い箸「両口箸」を使うのは、一方は自分用、もう一方は神さま用としたから。共食の考えに基づくと納得できるだろう。

だが今でも、東北の一部地域では大晦日に「年取り膳」などを食べて祝う風習が残っている。
これは、大晦日の日没以降に降臨する「年取り神(歳徳神、年神様)」と共食するという新年を迎えるためのならわしだが、多くの地域では「年越しそば」がこれに取って代わったと言われている。

一部地域を除いて、大晦日は年越しそば、正月にはおせち料理というわけだ。

正月の間に火を使ってはいけない? おせち料理がすべて保存食である理由

ここまで、おせちの歴史や意義を説明してきたが、もう一つ「蓬莱(ほうらい)飾り」(江戸時代では「食積(くいつみ)」)との関係についても紹介したい。

蓬莱飾りとは正月を祝う室内飾りで、三方(さんぼう:お供え物を置く台)の上に白米、のしあわび(あわびを薄く切り、伸ばして干したもの)、伊勢エビ、昆布、橙(ダイダイ:ミカンの一種)などの縁起物を飾ったもの。
この乾物を料理に転化したのが、おせち料理のはじまりとの説もある。

おせち料理の中身はどれも保存食。ある説では、正月の間に出る火は歳徳神の神聖なものとされており、その間は火を使うことを慎むことから、作り置きできる料理を重箱に詰めていたそうだ。

おせちの重箱は、 “めでたさを重ねる”という意味

さて、おせち料理の由来を知ったところで、次はおせち料理自体の意味を探っていこう。

おせち料理の定番となった重箱詰め。この重箱には、「めでたいことを重ねる」という意味が込められている。
段数としては、四段重ねが主流との説もあれば、五段重ねが正式という説もある。

特に四段重は、完全な数字である「三」に、もう一段加えて”特別なもの”として縁起を込められたと言われる。また、「四」が「死」を連想させることから、四段目を「与の重」と呼ぶことが多い。

明治から大正時代にかけて伝承された東京のおせちは、一の重に黒豆、数の子、ごまめからなる「祝い肴:いわいざかな(三ツ肴)」を、ニの重にきんとんや伊達巻などの「口取り(くちとり)」を、三の重に海、川の幸などの「鉢肴(はちざかな)」を、与の重に畑や山の幸などの「甘煮(うまに)」を納めるのが慣わしであった。

しかし近年では、彩りの美しい「口取り」が一の重に取って代わったり、「祝い肴」と「口取り」を一緒にした三段重などが増え、多様化が進んでいる。

重箱に入る食材にはどんな意味が込められている?

ここからは五段重を基準に、各段に納める具体的な料理と、食材に込められた意味を見ていこう。

一の重:「祝い肴」

関東では黒豆、数の子、ごまめ(片口イワシを生のまま干したもの)、関西では黒豆、数の子、たたきゴボウからなる「祝い肴」が主流。

江戸時代には庶民にも手が出しやすい食材であったため、この3つさえ用意すれば、どの家庭でも正月を迎えられたと言われる。
四段重では、祝い肴と口取りを一緒に入れることが多い。

▼各食材に込められた意味
黒豆…まめで健康であるように。黒色は魔除けの意味合いも
ごまめ(田作り)…片口イワシを生のまま干したもの。田畑の肥料にイワシを使うことから、五穀豊穣を願うもの
数の子…親のニシンが二親健在であることから、子孫繁栄を願うもの
たたきゴボウ…地中深く根を張ることから、家の安泰を願うもの

二の重:「口取り」

伊達巻など甘い料理からなる「口取り」は、長崎の卓袱(しっぽく)料理が、そのまま江戸に伝えられたもの。長崎では早くから砂糖が持ち込まれ、甘い料理が何よりのごちそうであったことから、祝いの席でも口にするようになった。
四段重の場合は、ここに焼き物が入る。

▼各食材に込められた意味
伊達巻…巻物=文化を表すことに由来し、文化の発展を願うもの

三の重:海の幸や川の幸、焼き物や酢の物など

三段目には主に海や川の幸を詰めるが、焼き物や酢の物も納める。
四段重では、煮物が入るケースもある。

▼各食材に込められた意味
伊勢エビ…腰の曲がった姿から長寿を願うもの
昆布巻き…「よろこぶ」の言葉にかけた縁起物
紅白なます…野菜を細く切って、甘酢であえたもの。紅白の水引きをなぞらえた縁起物

与の重:煮しめなど、田畑で採れた食材

四段目には煮しめなど、田畑で採れた食材が多く揃う。四段重では酢の物になることも。

▼各食材に込められた意味
クワイ…芽が出る縁起物
レンコン…穴が空いている様子から「先の見通しがよいように」と願うもの
里芋…小さな芋がたくさんつくことから「子宝に恵まれるように」と願うもの

五の重:食材ではなく願いを詰める、または「控えの重」

五段重は、陰陽思想における「陽数」である奇数を尊ぶ意味を持つ。
五の重に関しては諸説あり、実際には中身を詰めず「来年こそは豊かになり、重箱をいっぱいにできるように」との意味を込めるとの説も。
他には、多めに作った料理を詰める「控えの重」として用意するという説もある。

各段に入れる食材を解説したが、地方によっては一の重に口取り、ニの重に焼き物を入れる場合や、祝い肴を重に入れず別の容器に盛り付ける場合もある。

「年の初めに神さまと食べる」という意義は忘れてはならない

先述したように、核家族の増加や親族の集まりなどが減ったことに対応し、四段重や五段重よりもボリュームの少ない、三段重や二段重のおせちも一般的になってきた。
そこで三段重の内容も少しだけ紹介したい。

三段重の場合、一の重には祝肴と口取りを一緒に入れ、ニの重には焼き物と酢の物を、三の重には煮しめを入れる場合が多い。

また最近では盛りつけ方も多様で、大皿盛りやそれぞれを小皿に盛るなども一般化。華やかさを意識したものが多く、おせち料理を目でも楽しめるようになった。

最近ではローストビーフなどの洋食や中華料理など、多様な料理を重箱に詰めておせち料理として販売することも増えている。食の多様化に対応したものとの見方もあるが、保存技術が発展したことも増加した背景の一つとみられる。

おせち料理の中身は時代とともに様変わりしているが、「年の初めに神さまと食べる食事がおせち料理」という本来の意義は、日本人として忘れてはならないだろう。


<参考文献>
『NHKきょうの料理 定本 正月料理』柳原一成、辰巳芳子、高橋英一、西健一郎 著/日本放送出版協会
『家庭画報のお正月しきたりと料理 完全保存版 (別冊家庭画報)』世界文化社
『年中行事・記念日から引ける 子どもに伝えたい食育歳時記』新藤由喜子 著/ぎょうせい
『歳時記おしながき 絵で楽しむ、四季を味わう』平野恵理子 著/学研プラス
『たべもの起源事典』岡田 哲 編者/東京堂出版

<写真提供元>
PIXTA

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