閑静な住宅街に“良い店”が点在。注目すべきグルメスポット『西原』
近年、グルメ感度の高い街としてスポットを浴びる「代々木上原」と、昔ながらの商店街や老舗が立ち並ぶ「幡ヶ谷」。その2つの街の間に位置するのが「西原エリア」だ。
都心に比べると、決して飲食店は多くない。しかし、閑静な住宅街にぽつりぽつりと点在する店からは、主張は控えめながら、センスの良さがにじみ出る。
都会でもなく、田舎でもない。洗練されているけれど、気取ってない。派手さはないけど、妙に気になる。そんな「西原エリア」でおすすめしたい、とっておきのイタリアンを紹介しよう。
上質な空間と、“妥協なきシンプル”を追求する野菜イタリアン『kaiki』
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東京メトロ千代田線「代々木上原駅」北口から徒歩1分。静かな通りにそっと現れるのは、光沢感をおさえたゴールドの看板。広々した階段を降りると、重厚感のある洗練された空間が広がる。
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打ちっぱなしコンクリートの天井があるかと思えば、奥の壁にはグレーのレンガがずらり。深みのあるブラウンを基調としたテーブル席は広々としていて、上質でありながら、不思議と居心地の良さを感じさせる。
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オーナーシェフの清水雄太郎さんは、大学卒業後、代官山のイタリア料理店『リストランテ カノビアーノ(現在は目黒に移転)』でキャリアをスタート。持ち前のストイックさで、若干26歳にしてスーシェフを務めるまでに。
その後、ミシュランガイド東京一つ星店の『アロマフレスカ』で研鑽を積み、西麻布の『オッジ・ダルマット』では料理長として活躍。2018年4月に独立、西原エリアに『kaiki』をオープンした。
「最初に入った『リストランテ カノビアーノ』は野菜の名店であり、自分の骨格でもあります。そのベースを大事にしながら、自分に足りないものを肉付けするためにさまざまな店で経験を積みました」(清水シェフ)
料理の特徴
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店名の『kaiki』は、「原点回帰」の意味。
さまざまなスタイルのイタリア料理店で腕を振るうこと約15年。その間、清水さんの中にある「野菜を活かした料理を作りたい」という想いは、日に日に色濃くなっていた。
「やっぱり、野菜が好きなんですよね。だからこそかなり勉強したし、自分で言うのもなんですが、野菜への知識は他所に負けないと思います」(清水さん)
そんな清水さんの料理スタイルは、野菜を巧みに使った「素材を食べる料理」。オープンしてからまだ1年にもかかわらず、口コミだけで人気を集め、今や西原エリアに欠かせない存在となった。
それでは、コースメニューの中からいくつかピックアップして紹介しよう。
「kaiki風バーニャカウダ」
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シックなお皿にみずみずしく盛り付けられるのは、山形県産を中心とした旬野菜。一皿で約15~20種類をいただけるバーニャカウダは、野菜好きにはたまらない。
この日の野菜も、ビーツ、黒大根、薄紫大根、紫タマネギ、スイートグリーン(緑色のミニトマト)、ミニトマト、キュウリ、ズッキーニ、チョウカイナメコ、フェンネルなど、身近なものから聞きなれないものまで、実にバラエティー豊か。
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ひと口食べると、弾けんばかりのハリとみずみずしさに驚かされる。普段食べ慣れているはずのキュウリでさえ、香りがしっかりとしていて、その違いは歴然…。
「手を加えることも料理人として大事な要素ですが、素材選びも同じくらいに重要。バーニャカウダなら生のまま食べていただけるので、素材そのものの違いが伝わるし、『生の野菜っておいしいんだな』と、野菜そのものの魅力を再確認してもらえると思います」(清水シェフ)
「季節野菜と魚介の前菜盛り合わせ」
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続いて登場したのが、季節の野菜と魚介をふんだんに使用した前菜5種。「いろんな種類を少しずつ食べたい」というワガママを、さらりと叶えてくれる一皿だ。
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▲ワラサのカルパッチョ 夏野菜仕立て
三陸直送のワラサに合わせるのは、刻んだキュウリとオクラ、ウミブドウ。下に隠れているジュレのようなものは、秋田名産の水草「じゅんさい」だ。
プリッと肉厚なワラサは新鮮さを重視。繊細な味付けながら、素材そのもののポテンシャルを感じる一品。
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▲イワシと焼きナスのマリネ
豊洲から仕入れたイワシは、脂がのっていて甘みとうまみが濃厚。横に添えられているのは、刻んだ焼きナスだ。さらに、ミョウガで食感を、生姜で風味をプラスすることで、さっぱりとした後味に仕上がっている。ふんわり香るだしの香りは、鮎の魚醤。
「日本らしさが現れる食材は、意識して取り入れるようにしています」(清水シェフ)
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▲鮎とフォアグラのパテ
鮎とフォアグラは一見意外な組み合わせだが、これが想像以上にマッチ。鮎のうまみとフォアグラの濃厚な風味が引き立て合い、ピリリと効いた黒コショウと風味豊かなねずの実(ジュニパーベリー)がアクセント。ソースは、蜂蜜とバルサミコ酢で甘酸っぱく仕上げる。
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▲真蛸とセロリのマリネ
真蛸のマリネには、セロリの清涼感とオリーブの風味を和えることでさっぱりと。プリッとした歯ごたえがありつつも柔らかな真蛸は、神奈川県・佐島で水揚げされたもの。
「イタリアでは、タコを香味野菜で茹でるのがクラシカルですが、佐島のタコは質が良いので、水で茹でるだけで十分おいしいんですよ」(清水シェフ)
シンプルな中にも必ず“狙い”があるのが、清水シェフの料理の特徴だ。
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▲ゴールドラッシュのパンナコッタ
清水シェフは「牛乳で炊いただけですよ」と謙遜するが、このパンナコッタも衝撃のおいしさ。トウモロコシの中でも特に甘みの強い「ゴールドラッシュ」を牛乳で炊き、少量のゼラチンを加えて絶妙な濃度に仕上げる。最後にオリーブオイルを数滴たらして風味付け。
実にシンプルな調味であるが、舌にのせた瞬間、濃厚な甘さがじんわりと、それでいて強烈に伝わってくる。“トウモロコシ以上にトウモロコシ”な、夏の定番メニューは、ぜひとも食べていただきたい。
「鮎のコンフィ」
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旬の鮎(アユ)に薄い衣をまとわせ、カリッと揚げ焼きに。
鮎は、焼き上げる前にニンニクとハーブを入れてオイル煮(コンフィ)してあるので、肝の苦みもまろやか。腹はふっくら、頭部と尾ビレはカリッとしていて、部位によって違った食感を楽しめる。
付け合わせには、メロン、ズッキーニ、加賀の伝統野菜「加賀太きゅうり」の素焼き。ここで、「なぜメロン…?」と、誰もが疑問に思うはず。
「意外と知られていないのですが、生の鮎ってキュウリのにおいがするんですよ。その青々とした香りが、ウリ科の野菜とすごく相性が良い。だから、鮎のコンフィにはウリ科の野菜を合わせています」(清水シェフ)
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脂がのった香ばしい鮎と、ジューシーなウリ科野菜を合わせることで生まれる、おいしさの相乗効果。そこに、レモン・ライム・エシャロットをベースにした酸味あるソースが加われば、全体がキュッと締まってあと味さっぱり。
「山形牛のビステッカ 干草と香草の香り」
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このメニュー目当てに来店するお客も多いというのが、ディナー限定でいただける「山形牛のビステッカ 干草と香草の香り」。
A5ランクの「山形牛」を温度の異なる2つのオーブンで丁寧に火入れ。その後ココットに移し、藁とローズマリー、ニンニクとともにさらに燻(いぶ)し焼きにしたスペシャリテだ。
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▲藁に火をつけて香りを立たせた後、蓋をして風味を閉じ込める
「山形牛」の特徴は、うまみと甘みが強く、脂が控えめなこと。燻し焼きにすることで、薫香をまとわせつつ、肉のうまみをぎゅっと閉じ込めることができる。
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切り分けると、断面は美しいロゼ色。細やかな火入れによって閉じ込められた肉汁が、品よく艶めきを放つ。対して、カリッ焼かれた表面は、肉々しく力強い印象。
ひと口食べると、まずは表面の香ばしさと薫香がダイレクトに鼻に抜けていく。その後、噛むほどにじんわりと溢れる肉のうまみが品よく余韻を残す。歯切れがよく脂にしつこさがないので、ボリュームはありながらも、あっという間に平らげてしまう。
付け合わせに添えられたジャガイモ「インカの目覚め」は、外側はホクホクしているが、中心はねっとり。肉自体がさっぱりとしているので、「インカの目覚め」特有の濃厚な甘みがベストバランス。
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▲ゲランドの塩や、タスマニア産マスタードをつけてシンプルにいただく
「藁の香り・ニンニク・ジャガイモ・ハーブと、イタリア料理のトラッドな仕立てですが、だからこそ素材感がしっかり出ます。普段は自家製ソースを使用することが多いですが、このメニューに関してはソースは使いません。直球勝負です!」(清水シェフ)
「ハモとスダチのペペロンチーノ」
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運ばれてきた瞬間から、スダチの爽やかな香りがふわっと香る夏らしいパスタ。
「昨年の猛暑で、無性に蕎麦とか素麺が食べたくなって。その時に出逢ったスダチ蕎麦にインスピレーションを受けて思いつきました。まさに、“暑いときに食べたくなるパスタ”ですね」(清水シェフ)。
夏らしさを際立たせるのは、日本ならではの食材・ハモ。身が締まってプリッとした食感が特徴の、徳島県産もしくは淡路島のものを使用する。
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アサリだしベースのペペロンチーノに、炙ったハモ、水菜、浜風ネギを入れて手早く合わせ、最後にスライスしたスダチ、小葱、カラスミを振りかける。
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旬のハモは、ふっくら肉厚。ホロホロとほぐれるような食感と芳ばしい風味が実に心地よい。スダチの清涼感、ネギのシャキシャキ食感、カラスミの程よい塩気がバランスよく合わさり、まるで和食をいただいているかのような感覚になる。パスタなのに、まったく重くないのだ。
「野菜がたくさん採れて、ヘルシーで健康的。お腹いっぱいになるけど、胃がもたれない。自分の特技は“野菜”なので、そのカラーをイタリアンに落とし込んだら、自ずと今のカタチになりました」(清水シェフ)
清水シェフが語る、「西原」の魅力とは?
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さて、この街で日々過ごしているシェフ自身が感じる、街の魅力を伺ってみよう。
「西原エリアには、都会すぎないリラックスした空気が流れていると思います。感度が高くて、おしゃれな街であることは間違いないですが、全然冷たい感じがしないし、疲れないんですよね。普通、休みの日に職場付近に来ると、ちょっと気が重くなりませんか? それが全然ないんです。品もあるし、良い場所に店を持てたなぁと思います。住みたいなとも思える街です。まあ、高いですけどね(笑)」(清水シェフ)
幼馴染のデザイナーと試行錯誤。細部までこだわり抜いた空間づくり
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打ちっぱなしのコンクリートでありながら、どこか温かみを感じる店内。そのヒントは、壁にかけられた銅製の鍋にも。
「重厚感を出すために、お店の至る所に銅を取り入れています。壁にかけた鍋をはじめ、椅子の足やキッチンのフレーム、棚などがそう。ほかにも、上海から特注で取り寄せたレンガを敷き詰めたり、床の木材にこだわったり、空間づくりにもかなり力を入れました」
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幼少期からの幼馴染であるデザイナーと相談しながら作りあげたという空間は、センスの良さと居心地のよさが見事なまでに共存。店内に入った瞬間から感じる上質なオーラもまた、「妥協がきらい」な清水シェフらしさが現れていたのだ。
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▲歪みガラスで囲われた、プライベート感漂う個室
食材選びから調理、空間づくりに至るまで、妥協なき“シンプル”を追求するイタリアン『kaiki』。
“野菜たっぷりのイタリアン”の枠にとどまることなく、「なぜこの野菜なのか」「なぜこの調理なのか」、すべてに意味があり、すべてに狙いがある。
名立たる名店で、常に目標を持って研鑽を積んできた清水シェフだからこそ創りえる“非日常”を、ぜひとも体感してほしい。
清水雄太郎シェフのプロフィール
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富山県出身。法政大学工学部卒業後、22歳で料理の世界へ。野菜に特化したイタリアン『リストランテ カノビアーノ』、銀座一丁目のミシュラン一つ星店『アロマフレスカ』にて研鑽を積み、西麻布の有名イタリアン『オッジ・ダルマット』では5年半料理長を務める。その後、2018年4月に『kaiki』にて独立。野菜を巧みに使った“素材を食べるイタリアン”がクチコミで話題となり、オープンから1年で西原エリアに欠かせない存在に。
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【メニュー】
<ランチ>
・おまかせコース 6品 2,800円
・ランチ鴨ローストコース 6品 3,500円
<ディナー>
・ディナーおまかせコース 7品 5,300円
・ディナー山形牛藁焼きコース 7品 6,300円
・アラカルトメニューあり
<ドリンク>
・グラスワイン 700円~、ボトルワイン 5,000円~
・スパークリングワイン(フリーフロー90分) 1,000円 ※ランチのみ
※ディナーのみ、テーブルチャージ料別途500円。個室の場合は別途2,000円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
kaiki
- 電話番号
- 03-6407-1605
- 営業時間
- ランチ 11:30~15:00(L.O.13:00)、ディナー 18:00~23:00(L.O.21:30)
- 定休日
- 月曜、火曜(ランチのみ)、月2回連休あり(不定休)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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