浅草で食べたいシンプルイズベストな焼きそばは、60年を超える熟練の味

【連載】マッキー牧元の「ある一週間」 第28週  日本を代表する食道楽の一人、マッキー牧元さん。彼はどんなものを食べて一週間を過ごしているのか。「教えていいよ」という部分だけを少しのぞき見させていただく。

2016年03月28日
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浅草で食べたいシンプルイズベストな焼きそばは、60年を超える熟練の味
Summary
1.「カンテサンス」「FURUYA」「トゥ・ラ・ジョア」の饗宴
2.守るべき日本料理の源流
3.キャベツともやしと青海苔と、、、

2月20日一軒目「『カンテサンス』で珍しく煮込みを」

「いい仔猪が入ったんで、煮込んで見ようと思ったんです」。
珍しい。岸田シェフの煮込み料理には、めったに出逢うことがない。

「シヴェ」といえば、野獣を赤ワインで煮込み、血や時によっては肝でリエした料理だが、シヴェが本来持つ重厚さが、いい意味で微塵もない。
まだ血は通っている。
まだ肝は動いている。
雑味が一切なく、旨みが澄み渡り、仔猪そのものをいただいているような、純真な味わいがある。
清らかで、少しだけ、ほんの少しだけ艶っぽいのである。
ここにデカダンスはない。
山を吹き抜ける風と土の香りと、樹々の恵みがあるだけである。
それこそ他にはない、まさに彼そのもののシヴェなのである。
下仁田ネギのサバイヨンソース、プチヴェール、ひろっこを添えて。
カンテサンス」にて。

2月20日二軒目「400万回の蓄積」

田原町の改札を出て地上にあがっていくと、ソースの匂いに包まれる。
角にある「花家」の匂いである。
店頭では、ご主人が一日中ソース焼きそばを炒めている。
これから浅草で美味しいものを食べようという矢先に、この匂いがきつい。
何度誘惑に負けて、自滅しそうになったことか。
でも昨日は、おやつの時間だったので、迷うことはない。 
焼きそばは、並400円と大盛500円。

キャベツともやしに青海苔だけというシンプルな焼きそばは、ソースの味が辛すぎずに、やんわりと味つけられている。
その辛さというか、淡い味つけが、いつ行っても変わらぬ点がすごい。ソース量が少ないのと炒め方の妙で、細麺もべちゃべちゃにならずに、かといってゴワゴワにもならず、空気を含んでふんわりと炒められ、シャキシャキとした歯ごたえを残すキャベツとの出逢いを楽しくする。  
ひと口食べた途端に、顔がむずむずしてくる旨さである。
わからない? つまり食べた途端、「うまいっ!」と、叫ばずに、じわじわとくる味なのだよ。
僕は、途中からちょいと「追いソース」をするが、全体にはかけない。
焼きそばの手前、南壁辺りにかけて、濃い味と淡い味を交互に食べるのが好きなんだな。
店主のおじさんは、注文が入ると、もやしを炒め、あらかじめ炒めてあった焼きそばを注文分だけ炒め、水とソースをかけまわす。
こてを返すこと五十回。その間四十秒。再びソースと水をかけ、こてを返すこと五十回と四十秒。  
おそらく一日200回は同じ作業を繰り返しているだろうから、一年で6万2千回以上繰り返されていることになる。
聞けばもう六十数年もやっているという。
それは400万回の蓄積がなされた味なのであった。

花家

住所
〒111-0035 東京都台東区西浅草1-1-18
営業時間
定休日 水曜日

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

2月21日「初春の香り」

生のあやうい色気と、焼いたかぐわしさを同居させて、帆立は佇んでいる。
越冬するために甘みを蓄えたコールラビのソースをすくい、野菜類や帆立と一緒に口に運ぶ。
コールラビのまあるい優しさと帆立の色香が、一瞬で溶け合い、舌の上に陽だまりを作る。
その時である。
「まだダンスは終わってないよ」と言わんばかりに、泡になったシュークルートが顔を出し、その酸味で甘みを引き締める。
甘美な余韻を残して消えていく料理に思う。
春は、もうその先まで来ている。

FURUYA augastronome (フルヤ オーガストロノム)

住所
〒107-0052 東京都港区赤坂4-3-9 赤坂藤マンション1F
電話番号
03-5797-7527
営業時間
11:45~15:00、18:00~23:00
定休日
定休日 日曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/4wmrhf8y0000/
公式サイト
http://f-augastronome.com/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

2月22日「谷中の真っ当な日本料理」

エゴも強制も、瀟洒も見栄もない。
自然と共生し、八百万神を敬ってきた日本人が作り出した、てらいなき、真っ当な日本料理である。
長年にわたって積み重ねられてきた、人間の叡智でもある。

「茸のさもだし」は、山の精気を伝えて心を静かにし、なまこは、このわたの旨みを伴って、歯と歯の間でクリッと崩れていく。
青臭い部分だけを切りのぞいて炒められた「大鰐もやし」は、ポリポリと弾む食感の中に微かな甘みがあって、これ以上でも以下でもない甘みが溶け込んだ煮汁が、盛り立てている。

鮭の風味を複雑にして魅了する鮭の飯ずしは、醸す不思議を痛感させ、真鱈の子の醤油漬けは、醤油の精妙な量が卵の魅力を深くする。そしてじゃっぱ汁は、真鱈の滋味と根菜のたくましい香りが出逢った汁の中で、白子の濃密な精が溶ける。

冬の津軽がここにある。
厳寒の中で、自然への感謝を捧げる心根がここにある。
滋味で朴訥ながら、日本人である喜びを分かち合える料理がある。
記憶に残すべき、日本料理の源流がここにある。
おそらくこのまま放っておけば、静かに消えて忘れ去られてしまうだろう。
僕らにはもう、星の数やネットの点数に踊っている時間はないのだ。

みぢゃげど

住所
〒110-0001 東京都台東区谷中2-5-10
電話番号
03-5842-1684
営業時間
18:00~22:00
定休日
定休日 土曜、日曜、祝日
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/76u2nd0x0000/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

2月23日「純度の高い料理たち」

「料理の説明が爽やか」。
同席者が言った。
須本シェフの料理の説明には、「どうだすごいだろう」という見栄がない。
実際は、「どうだすごいだろう」食材が使われ、初めて出逢う「どうだすごいだろう」という技と手間がかけられているのだが、そんな自慢など微塵も感じられない。

「長野県野辺山の雪の下にあって、まだエグミが出てない蕗の薹をジャガイモとスープにしました。そこに青森の寒平目のムースと北海道の馬糞ウニを加えてあります」。と、さらりと話される。
ここに至る苦労と試行錯誤は相当あっただろうに、そんなことも感じさせず、まるでその辺にあった葉っぱを摘んで、美味しく仕立てましたよと言っているような快活さである。
それは、高級食材もそうでない食材も、同等に敬愛し、丹念にその命を生かそうと考え続けてきた人の言葉なのである。
飲めば、雪下で栄養を溜めこみながら、じっと雪解けを待つ蕗の薹の養分が溢れる。ジャガイモはつなぎだけで、ほとんど感じさせない精妙さである。
さらにそこへ寒平目とウニが混ざる。
正直に言えば、ヒラメとウニはやりすぎだろう。ふきのとうだけでいいのにと思ったいた。だが
海の甘みと抱き合った蕗の薹は、そのほのかな苦味が生き生きと輝きだす。

「和牛と越冬白菜の中華蒸し」は、醤油とみりん、八角でにた牛肉を白菜の葉で巻いて蒸し、戻した燕の巣の上に置いた料理である。
細く切った白菜の芯は、上湯でじっくりと茹で、注いだ鼈甲色のスープは、大山鶏と干し貝柱のスープで、脇に添えた皮蛋の黄身は潰し白身は刻んで香りを残し、金山寺味噌と和えたものである。
なんともスープが滋味深く、充足のため息をつかせ、すべてが意味をなす取り合わせなのである。

「海老芋と活鮑の一皿」は、木耳を射込んだ揚げ海老芋の上にダシで炊いた鮑に、純度を高めた白い昆布ソースをかけ、鮑と肝を潰して作ったコンソメを注いでいる。
鮑の中で鮑を食べるという料理は、コンソメに目を丸くさせられる。
肝も入っているというのに、雑味が一切なく、旨みだけが蒸留されたかのように凝縮しているのである。

そして「海老フリャー」と記された一皿は、伊勢海老のフライだった。
焦げ茶の衣は、活きた甘えびを焼いて砕き、1週間干したものである。
手前は、伊勢エビの味噌だけで作ったソース、右奥の器には伊勢エビのコンソメが注がれている。
中心部を生のまま上げられた伊勢エビは、海老の香りが凝縮した衣の中から、品のある甘みをじっとりと舌に落とす。
もうそれだけで、体の力が抜けていく代物なのに味噌ソースやコンソメと食べたらどうだろう。
海老味噌のソースは、一切雑味なく、旨みと香りでフリャーになじむ。
そしてスープは、磨きに磨いたビスクのような透明度の高い味わいで、飲む度に充足の息だけが漏れていく。
食べながらあまりのうまさに、ダレもしゃべろうとしない。
味噌ソースをフリャーにつけて一齧りした後にすぐコンソメを飲んで口の中で合わせると、自ら海老となって海底を泰然とたゆたう気分となる。
これだけ海老の味を重ねても嫌みにならないどころか、伊勢エビの真意に迫ることが出来るのは、どれもが極めて高い水準で純度を高めているからだろう。

「上州牛と六白豚のポシェ」へと流れていく。
サーロインの芯だけを、豚肉の薄切りで巻いてポシェするという、聞いたことがない料理は、その牛肉の断面の美しさに見惚れてしまう。
おそらくただのポシェではなく真空調理だと思われるが、その際のぶよっとした肉の食感がなく、脂の甘い香りと旨みに満ちたきめ細かい肉を噛む喜びがある。
その味わいの深さが濃い味わいの六白豚と調和する。
西京味噌にフォン・ド・ヴォーとカカオマスを混ぜたソース。
黒にんにくの液を混ぜて三カ月冷蔵庫で寝かし、医療用遠心分離機で純度を高めたエキス。
肉の上に乗っていた、エディブルフラワーとハーブに和えた塩気など、脇役陣も心憎く、肉を活かす。

「茸ご飯」とか書かれた締めに出された、コバルトブルーの塗り椀の蓋を開ければ、妖艶な香りが漂う。
ただのトリュフご飯ではない。
トリュフの香りをつけた卵黄をご飯の中央に落とし、上からウンブリア産のトリュフをたっぷりと削ってある。
まずはどこまでもエロい卵かけご飯を食べ、次に横に添えられた野菜のコンソメをかけ、これまたエロい茶漬けを食べる。
落花生のセミフレッドも、オイルを使わないドレッシングを和えたサラダも、サラダにふりかけるボルドーワインで煮込んだプルーンとぶどう、枸杞の実、ブルーベリー、蒟蒻も、素晴らしい。
時間と手間をかけ、計算されつくし、多く要素が盛り込まれているのに、こちら側の頭を疲れさせることなく、やわらげる。

トゥ・ラ・ジョア

住所
〒460-0024 愛知県名古屋市中区正木1-13-27
営業時間
11:30~15:00、17:30~
定休日
定休日 不定休

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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