船旅で熟成された極上ステーキが味わえる!伝説のステーキハウス『ロウリーズ』【漫画家・江川達也】

江川達也の散食散歩散話vol.5 ちょっと散歩してお腹をすかせてからの夕ご飯。これが一番おいしくごはんを食べる秘訣だろう。お店にすぐ行くんじゃなくて、お店の近くの隠れた名所を歩いてから食べましょう。知られざる色っぽい地形が沢山ある。知られざる歴史が埋もれている。知られざるお店のおいしいメニューがある。漫画家・江川達也氏が食べて歩いて喋って、日常に埋もれた歴史やグルメを再発見していく。

2016年12月27日
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船旅で熟成された極上ステーキが味わえる!伝説のステーキハウス『ロウリーズ』【漫画家・江川達也】
Summary
1.アメリカの肉を堪能できる『ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京』
2.ブラックアンガス牛のローストビーフは最高の味
3.恵比寿ガーデンプレイスは明治の頃から麦酒工場だった

最高の地形を味わいつくし、最高のアメリカの肉を味わいつくすのが今回のミッションだ。目的地は『ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京』。アメリカ西海岸ハリウッドのスペシャルなローストビーフの店だ。その店が恵比寿ガーデンプレイスの地下2階にある。プライベートで最近よく行くステーキの店。後述するが、かつて大日本麦酒株式会社のあったところに恵比寿ガーデンプレイスはある。普通に行くと恵比寿駅を降りて動く歩道に乗ってアメリカ橋の横を渡るとディズニーランドのような建物が目に付く。そこが恵比寿ガーデンプレイスだ。

世界に計10店舗ある『ロウリーズ・ザ・プライムリブ』

ここに来ればディズニーランドなどに行かなくてもいいのにな、っていつも思う。アトラクションはないが、アメリカ西海岸にいるような気分が味わえる場所だ。しかもタダでw クリスマスまでは、クリスマスツリーもあった。レンガ造りの建物は大日本麦酒株式会社の頃のレンガのイメージを踏襲したものだろうか。まあ、デートには適しているだろう。

駅からガーデンプレイスに入って、右の階段を降りると『ロウリーズ』がある。かなり広い店舗で席数は320席。もともと溜池山王に店があったのだが、この地に移転。当時は350席を擁していたが、今でも相当巨大な店舗である。完全にアメリカ西海岸に来た錯覚に陥る。まず、お店のスタッフがアメリカ人っぽい。お客さんもアメリカ人っぽい。それもそのはず。そもそも、この『ロウリーズ』はアメリカの西海岸ロスアンゼルス・ハリウッドのラ・シエネガ通りに1938年にオープンした店だ。現在は、ロス、ラスベガス、シカゴ、ダラスのアメリカ4店舗、シンガポール、東京・恵比寿、大阪・梅田、台湾、香港、韓国のアジア6店舗と、世界に計10店舗の『ロウリーズ・ザ・プライムリブ』がある。

この店はディズニーランドっぽいが、ディズニーの中でも「オールドディズニー」っぽさがある。
さらにいえば、それはよき時代のハリウッドっぽさだ。オレは今のディズニーはあまり好きじゃない。が、オールドディズニーは好きだ。1930年代のミッキーは結講好きなので、一着だけオールドミッキーの絵が背中についている大人向けのジャケットを持っている。そのジャケットを着て、この店に食べに来たりするw が、今日は、その服ではない(恥ずかしいから)。

お姉さんのパフォーマンスに釘付けだ

最初の料理は「スピニング・ボウル・サラダ」だ。これからうまい肉を食べようとするわけだが、うまい肉を食べる前に、まず胃袋をサラダでウォーミングアップするのが鉄則。ただし、この店のサラダは少し違う。アトラクションを交えてサラダが作られるのだ。ボウルに入ったサラダを回しながら氷で冷やし、その冷やした葉っぱの上に沢山あるトマトを置いてくれるというパフォーマンス。それはまるで、このあと始まる肉のショーの前座として繰り広げられるサラダのショーだ。

その時、「1938年にアメリカ西海岸の~」とお店の紹介をスタッフが説明してくれる。そして、ドレッシングを頭上からかけるお姉さん。ウスターのアメリカンソース。シェリービネガーやレモンの絞り汁などを加えた酸味のあるドレッシングだが、ソースをかける姿に釘付けになり、お店の情報が入ってこないw 何より、お姉さんが気になって話し込んでしまう。女の子を連れていったこともあるが、このアトラクションは結講、女子ウケもいい感じだった。あぁ、ディズニーランドの原点のハリウッド文化を見た気持ちになる。

これが完成した「スピニング・ボウル・サラダ」(写真・上)。通常、トマトは2個入れるのだが、今回はおねだりして特別にトマト数個を入れてもらった。このプチトマトは実に甘くておいしい。もう、何十個でも食べたい気分だ。「2個だけじゃなくて全部くれ」と言ったら、さすがに「それはちょっと……」と返されたw 盛り付けると普通のサラダにしか見えないが、料理長がきちんと厳選した日本産の野菜(ビーツだけがアメリカ産)。またドレッシングがうまい! 葉っぱとのバランスもいい。パフォーマンスとドレッシングは昔から全世界の『ロウリーズ』共通みたいなので、他国の店に行って確かめたいかも。

さあ、お肉と行きたいところだが、まだ少し早い。サラダの次は、アペタイザーの「シュリンプカクテル&スモークサーモン」(写真上・左)だ。フレッシュなサラダから魚介。口の中で徐々に肉を迎える準備を整えていく。そしてここで、絶品の「クラムチャウダー」(同・右)。サラダ、魚介、スープと、さまざまな味が連なるパレードを楽しんだあとは、いよいよ、真打ち登場だ。

船旅で40日間熟成された極上ステーキ!

さぁ、いよいよ肉である。これは・・・すごい・・・! アニメの世界でしかお目にかかれないような、でっかい肉。パレードの最後を彩る大輪の花火のような迫力。その肉を目の前で切ってくれる。スタッフが首から下げているメダルは、カットする資格を『ロウリーズ』から与えられた人だけが貰えるメダル。「シルバー」という名前のカートの中に塊のプライムリブを縦に置き、お客さんのお好みの焼き加減と大きさで目の前でカットする(写真・下)。

カットの大きさで名前がついているのも面白い。小さい方から、「トーキョーカット」(東京の人が少食だからか?)、「カリフォルニアカット」(そりゃあ、アメリカ人のほうがよく喰うよな)、「イングリッシュカット」(伝統的なカットで、昔の人のほうがたくさん食べていたのだろう)、「ロウリーカット」(1938年からのカットだそうで、アメリカの昔の人はたくさん食べていたのだろう)、「ダイアモンド ジム ブレーディカット」(特大カット、これは若いときくらいしか食べられないんだろうなぁ)。

写真上は焼き加減がミディアムのお肉。そう、これがここのメインディッシュ。その名も「プライムリブ」。

「プライムリブ」というのは、特性スパイスを塗った骨付き牛肉をじっくり焼き上げたアメリカンスタイルのローストビーフのこと。ちなみに、この写真の肉はロウリーカットである。赤味が300gで骨が180g。ソースは牛の骨でだしをとったオージュソースだ。右横に見えるパンっぽいのは、「ヨークシャープディング」というローストビーフに合うイギリス発祥のパンというか、シュー皮のようなもので、『ロウリーズ』ではプライムリブの肉から出たオイル(汁)で作り、よりプライムリブに合うように仕上げている。最初見ると、こんなに食べられないんじゃないか、と思うが、意外にあっさりしているし、うまいし、どんどん食が進む。あっと言う間になくなり、あれ、もう食べてしまったか、という印象。

ここの肉は、クリークストーン社のブラックアンガスビーフを使っている。塊の肉は1本7〜9kgで、この店では1日におよそ20本消費するそうだ。

肉はアメリカからチルド0℃の状態で約40日の船旅をして日本にやって来る。この40日で熟成されてうまみが増す。日本では、秘伝のロウリーズスパイスをまんべんなく刷り込んでマリネしたあと、肉を常温で4~5時間かけて戻す。オーブンで2時間半から3時間かけて120~130℃の温度で焼く。芯温をはかりながら……。レアの状態で38℃がベストだそうだ。次に68°Cの保温庫に約2時間置き、じわじわとスパイスの味を馴染ませる。そして出てきたのがこの肉である。いろんな調味料で食べてもいいが、西洋ワサビか、西洋ワサビにホイップクリームを混ぜたものが基本。やっぱりローストビーフには西洋ワサビだよね。

恵比寿店の肉が世界の『ロウリーズ』の中で一番うまい理由

肉を食べながら料理長の木部勝一郎さんから話を伺う(写真・上)。この人も面白い経歴の人だ。1987年にフランスに行きミシュラン二つ星のHotel de Franceで働き、1990年にアメリカに渡り、CHAYA Brasserie Venice店で働き、1993年日本に帰国。再度渡米し、CHAYA San Francisco店料理長、Beverly Hills店料理長となり、イタリア、フランス、ブラジルと各国を転々としたのち、2007年に帰国して、株式会社ワンダーテーブルに入社した人だ。そう、日本の『ロウリーズ』は、この株式会社ワンダーテーブルがライセンス契約して営業している店なのである。この木部さん、全世界のロウリーズの中でも、ここ『ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京』が一番おいしい料理を提供していると自負する。仕事が丁寧なのが日本の素晴らしいところだとオレも思う。

プライムリブもうまいのだが、実は、普通のステーキもうまい。「リブ アイ ステーキ 9,800円」というメニューがあり、2人で食べると丁度いい大きさ。正直、日本には米国から進出してきたステーキ店がたくさんあるが、どこよりもうまいのが、この店のリブアイステーキだ。実は、取材の前日にこの店に来て、オレはリブアイステーキを食べた。2日続けての『ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京』だった。1日目はリブアイステーキ、2日目はプライムリブである。

そしてデザートもありますよ。お腹いっぱいになってもデザートは別腹という人は多い。自分は甘いものはそんなに好きじゃないが、うまいと勢いで食べてしまう。もちろんここのデザートも。だから太るのであるw もっと散歩して歩かないとな。ということで、もちろん、オレは晩ご飯を食べる前の最高のスパイス、「ハラペコ」を作りに散歩してこの店にやってきたのだ。

オレが恋する地形「恵比寿ガーデンプレイスの南」

恵比寿ガーデンプレイスの南の地形がオレの一番好きな地形だ。そもそも恵比寿ガーデンプレイスの西には、江戸時代に広重が描いた観光地の浮世絵「江戸百景」に出てくる場所が三箇所もある。早速、そこを紹介しよう(散歩に行き、今と昔を確認しても面白い)。

前にも紹介した「目黒新富士」(浮世絵・下)

崖の上に江戸時代の人が富士山の岩を持ってきて作った人工の富士山。富士塚と呼ばれる、富士山の模型は江戸に2桁くらいの数は作られたそうである。山岳信仰がある当時の庶民にとって大山とならび、富士山はかなりの信仰の対象だった。富士山が見える高台に富士山の模型を作るという粋な江戸庶民の趣味は実にすばらしい。富士塚の下を流れるのが、三田用水だ。地図で確認しながらこの浮世絵を見るとその流路が正確に描かれていることがわかるだろう。

目黒新富士から南にあるのが『目黒爺々が茶屋』(浮世絵・下)

ジジイの茶屋があって、徳川将軍と仲がよく、将軍とよく話をしたという逸話が残されている。絵にもそのジジイの茶屋が描いてある。実際に訪れてジジイの茶屋がどこにあったか推理するのも面白い。茶屋坂という名前で今も名前が残っている。

『目黒爺々が茶屋』から南にあるのが「目黒千代が池」(浮世絵・下)

今は、この池は埋め立てられて、見る影も無い。公園になっていて、立て札に千代が池はここらへんとか書いてあるが、「はあ」って感じになっている。こういうところで過去を想像するためには昔の地図を持ち出すに限る。ということで、今回も明治と昭和の地図をリライトした。

恵比寿ガーデンプレイスは明治の頃から麦酒工場だった

地図を見ながらの散策は実に楽しい。明治・昭和・平成の地図を見比べながら浮世絵を見ながら、時空を飛び越えて想像を膨らませながらの散歩が最高に楽しい。

明治の地図(下)

昭和の地図(下)

平成の地図(下)

豊洲だけじゃない、盛り土場所は古地図で発見できる!

『ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京』がある恵比寿ガーデンプレイスは明治の頃から麦酒(ビール)工場だった。この高台は、江戸時代には伊達屋敷があったようである。その高台の南に深い谷がある。この深い谷が、私が都内で一番好きな谷なのだ。今でも恵比寿ガーデンプレイスの東(地図で言うと右)を南(下)に行くと深い谷に入っていく。住宅地なので深い谷という感じではないかもしれないが、かなり高低差があることがわかる。谷底からまた道が急な登りになるので谷間な感じは今でもわかる。

この谷はどこまで続くのだろうか、と、地図を見る。「谷頭1」と「谷頭2」と地図に書いたところがこの谷間の谷の始まりだ。しかし、地図を見ると実に不自然だ。谷が切れている。多分、明治期に麦酒工場の南の谷間は埋めて、盛り土にしたのではないだろうか、と私は推理している。しかも山手線が通り、谷間は切断されている。「谷頭1」のあたりにこの十年何度も行ってみた。実に面白い地形になっている。殆ど地元の人以外は行かないであろう、住宅地となっている谷間は、周りの世界と隔絶した一つの閉空間を作っていて面白い。最近は新しい家が沢山建って、普通な感じになったが、15年くらい前に、ここの「谷頭1」付近を散策した時、タイムスリップしたかの感触に襲われたくらい昭和の情緒を残した閉空間だった。古地図から谷間の始点を探しに来ない限り住民以外来ないような場所だ。

次に「谷頭2」を見てみよう。明治時代の古地図を見ると、谷頭2の西に”千代が池”がある。ここも谷になっている。この谷と谷頭2の間になんと三田用水が通っている。この三田用水。江戸の初期に作られた玉川上水の支流だ。人工の上水道なのである。ここでふっと思うのだ。この、千代が池の谷間と谷頭2とは江戸時代前にはつながっていた谷なのではないだろうか、ということを。三田用水を通すために、江戸時代初期に盛り土された水道橋なのではないかと勘ぐってしまうのである。三田用水はこの下流にも谷間と谷間の間を通っている。そこもどうやら谷間に盛り土して水道のための橋を作っているようなのだ。そう、この千代が池と谷頭2の地形が私は東京で一番好きな地形なのだ。しかも江戸時代以前には、谷はつながっていたのではないか、と推測し、江戸時代以前の地形をこの場に行って頭の中に描いている時が一番楽しいのだ。ここは、人間が自然の土地を改造した場所なのである。

明治と昭和の地図を見比べてみてほしい。哀しいかな千代が池は造成地となって、つまらない地形になってしまった。しかし、面白いのは、東京市電が大日本麦酒株式会社の南の谷間に電車を走らせていることだ。ここは、終点の駅であり、この電車会社の寮があった電車会社の拠点でもあった。しかも、この会社は山手線の下をくぐり目黒不動尊まで路線を伸ばそうとしていたのである。そのための、土地買収もかなり進んでいた。ピンクの線がこの市電の計画路線だ。地図の下には土地買収した道も描いてある。今でもこの会社が土地買収した部分が不自然な道として残っている。

この地図で書かれたピンクの路線を南へ伸ばして現在の地図で探していただければ、その不自然な土地買収路線道路がわかると思う。昭和のこの地図を見てもわかるように谷頭2の上に水たまりが描かれており、すでに線路のために掘っている場所もあった。掘ったはいいが、実はこの路線は強烈な反対にあい、計画はおじゃんになっている。水たまりとして残ってしまった場所が地図に描かれているのだ。

江戸時代前に谷間だったところが埋められ、そして、昭和にもう一度谷を貫通する計画があったけれども頓挫する。なんだか面白い場所じゃないですか!? 平成の今、その谷間を歩き、往時を偲ぶのが、また感動なのです。「”千代が池”がありました」と書いてある看板は、自動車学校の向かいの公園にあります。この公園のカタチがまた面白いのです。計画がおじゃんになった東京市電の路線のカタチが偲ばれるカタチをしています。昭和の地図と比べながら味わってみて下さい。あとは、三田用水が流れていた場所を辿るのも楽しいですよ♪

ということで、それでは最後に、今回紹介した『ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京』のオススメメニューを紹介しておこう。ぜひ、極上の肉を食べに足を運んでほしい。

【メニュー】
プライムリブ
トーキョーカット 4,000円
カリフォルニアカット 5,000円
イングリッシュカット 5,600円
ロウリーカット 6,900円
ダイヤモンド・ジム・ブレディーカット 9,600円
スタンダードコース +2,000円(上記プライムリブにプラス)
※価格は税抜

ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京

住所
〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワーB2
電話番号
03-5488-8088
営業時間
11:30~15:00(L.O.14:00)、17:00~23:00(L.O.22:00)
定休日
不定休(年末年始)
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/e5wu3d2t0000/
公式サイト
http://www.lawrys.jp/tokyo/index.html

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