とろけるような中トロが絶品! 吉祥寺の寿司屋『大益』に漫画家・江川達也が 30年通い続ける理由

愛知教育大学数学科(応用数学専攻)卒業。卒業後、中学の数学教師という経歴を持つ。本宮プロダクションでアシスタントを経て、1984年『BE FREE!』(講談社)で漫画家デビュー。『まじかる☆タルるートくん』(集英社)、『東京大学物語』(小学館)などのヒット作を生む。現在はタレントとしても活躍。「タモリ倶楽部」などのテレビや雑誌などさまざまなメディアにおいて、地図ネタ・地形ネタでは欠かせない存在。

2017年01月25日
カテゴリ
レストラン・ショップ
  • レストラン
  • 東京
  • 吉祥寺
  • 寿司
  • 隠れ家
  • 連載
とろけるような中トロが絶品!  吉祥寺の寿司屋『大益』に漫画家・江川達也が 30年通い続ける理由
Summary
1.吉祥寺の中道通り商店街に店を構える江戸前寿司屋
2.ミナミマグロの中トロは誰が食べても感動する
3.吉祥寺で変わらず食べに行ける店はココだけ

16年前まで吉祥寺に16年ほど住んでいた。ある日、『ヤングマガジン』の編集長に吉祥寺にある無茶苦茶おいしいお寿司屋さんに連れて行ってもらった。それ以来、吉祥寺から渋谷に移り住んだ今でも、やはり通い続けている。しかし、このお寿司屋さんにいつ来たのか記憶が曖昧だ。『ヤングマガジン』の編集長に連れて来てもらったから、まだデビューして2年経ったくらいの頃、そう、講談社の『モーニング』でデビュー作『BE FREE!』を描いていた頃だと思う。そうなると昭和の終わり頃だ。

デビュー作は大ヒットして映画にもなった。天才新人漫画家として漫画界を揺るがす男だと騒がれた。勢いが半端なかった。少年誌やヤング誌や青年誌には俺の漫画を真似する新人で溢れた。いろんな雑誌から描いてくれ、とオファーが殺到した。衝撃的な作品だ、ともてはやされた。

2作目の連載は『少年ジャンプ』の『まじかる☆タルるートくん』だ。3作目の連載は『スーパージャンプ』で『GOLDENBOY』。4作目の連載は『ビックコミックスピリッツ』で『東京大学物語』。4本続けて大ヒットしまくった。

この文章を書いていくと思い出すことばかり・・・だが、約30年間もこのお寿司屋さんに来ている。渋谷に引っ越しても通い続けている。

世の中にこんなにおいしい中トロがあるのか!

そのお寿司屋さんの名前は『大益』。吉祥寺駅の北西にある「中道通り商店街」を歩き、その商店街が終わる手前右側にある。あの時も、そして今も、この『大益』でミナミマグロの中トロを食べて毎回感動する。連れて来た仕事関係の人も皆感動する。何だかんだ言って世界で一番おいしいお寿司屋さんだと個人的に思っている。

『大益』でこの中トロ(写真上)を初めて食べた時は、20代中盤。「世の中にこんなに美味しいものがあったのか?」という驚きだった。この店に人を連れて来ると、だいたいの人がこの中トロに驚く。ちなみに、このマグロは本マグロではない。「ミナミマグロ」だ。大間の本マグロより遥かにうまい! 確かに、国産の本マグロは、なかなか手に入りにくく、高値で売られている最高級のマグロではあるが、このマグロには勝てない。ケープタウン(アフリカの南端の喜望峰)で獲れたミナミマグロの中トロは、魚臭さがまったくなく、甘くてうまみが詰まっている。ご主人の小久保勝雄さんは、「このミナミマグロが最高」と言っているが自分もそう思う。一生に一度、このミナミマグロの中トロを、吉祥寺の『大益』に食べに行く価値はある。それだけ食べて帰っても吉祥寺に来た甲斐はあるだろう。

もちろん、他のネタもいちいちうまい。なぜうまいのか? 店主に聞いてみた。まずヒラメの昆布じめ(写真上)。そもそも江戸前寿司は、江戸の前の海で獲れた魚介類を使うから江戸前寿司と言う。まあ、昔の江戸前は、すでに埋め立てられているので、今では魚介類は獲れない。しかし、昔の江戸湾、今の東京湾で獲れた魚介類は江戸前に近いだろう。このヒラメは東京湾で獲れたヒラメだ。ご主人によると東京湾の魚介類はかなりうまいとのこと。東京湾は浅い所も多いが、かなり水深が深い場所がある。深い場所はかなり豊かな漁場になっている。東京湾の中でも「松輪」「鴨居」「佐島」で獲れたものを仕入れているそうだ。うまいわけだ。

かわはぎ(写真左)もスミイカ(同右)も東京湾で獲れたものだ。かわはぎは水っぽくなく身質がよい。上に乗っているのは、かわはぎのキモ。このキモがまた美味である。スミイカにはアンデスの岩塩がふってある。アンデスの岩塩はお客さんからもらっておいしかったから使うようになったそうだ。

そう、中トロだけじゃなくて、全てのネタが最高にうまい。ご主人がうまいものと思うものを仕入れて出している。うまいと思わないものは一切出さないので、ハズレがない。ただし、味の趣味が合わない人は、ハズレだ、と思うだろう。自分はこの店でハズレと思ったモノは今まで全くなかった。だからずっと来ている。だが、次のネタは賛否両論に別れる。

イクラだが、他のお寿司屋さんで見るイクラとは味も外見も違う。写真で見てもわかるでしょ? このイクラは濃厚すぎるほど濃厚だ。北海道のものを使用している。もちろん冷凍ではなくフレッシュなものを使用しているため、色が真っ赤ではない。加工するとよく見かける真っ赤なイクラになる。よく見かけるイクラが好きな人は『大益』ではイクラを注文しないほうがいい。自分はここのイクラの方が好きだ。

洋館のような店内の造りもまたご馳走だ

さて、ここで『大益』のお店についてちょっと紹介。正直、この店はお寿司屋さんらしくない。パッと見、室内は洋館のようでシャレている。一枚板のテーブルも豪華だし、フランスの工芸家、エミール・ガレの灯りが置いてあって店の雰囲気も素敵だ。この灯り(写真下・左)、バブル期には1000万の高値がついたものだ。そして食器もすごい。基本、清水焼を使っているそうだ(写真下・右)。

けれども、この店には普通のお寿司屋さんにあるショウケースがない。実は、一時期、3カ月間だけ天ぷら屋さんだったことがあって、その時に改装したのでそのまま使っている。昭和51年頃に寿司屋として『大益』を始めた頃はネタのショウケースはあったが、平成3年1月から3月まで天ぷらをやってショウケースをはずしたらしい。けれどもやっぱり寿司だな、ということで寿司屋に戻したけれど、そのままの店舗をほぼ使っていてご主人の手元が全て丸見えのキッチンになっている造りがかっこいい。そう、ショウケースがないからこそ、ご主人の職人技を目の前でうかがうことができる。それもまたご馳走なのだ。

あと、『大益』のご主人は愛想のいいご主人ではない。親しくなると愛想は良くなるが親しくないお客さんにはちょっと無愛想かもしれない。だが別に怒っているわけじゃなくマイペースなだけだ(笑)

そうだ、渋谷の松濤に家を建てた時、知り合いを山ほど呼んで最初で最後の盛大なホームパーティをした。その時、ご主人にも来てもらって寿司を握ってもらった。あの時は本当にありがとうございました。お客さんはみんな喜んでいました。すげえ贅沢なホームパーティだった。

世の中、高いだけのアワビが多いと感じるのは、 ここのアワビがうますぎるから

さあ、握りも中盤だ。煮穴子(写真左)とアジ(同右)をいただこう。どちらも東京湾のものだが、もっと詳しく言うと、穴子は「金沢八景」、アジは「松輪」で獲れたものだ。中でも穴子は脂が乗っていてキメが細かい。頭が小さくて穴子全体が黄金色のものが一番おいしいと、店主は言うが、最近はたまにしか入荷しないそうだ。それでも間違いなく『大益』はうまい!

ここでまたマグロの登場だ! 今度は赤味だが、これも本マグロ以上にうまいミナミマグロだ。ねっとりしていてうまみがある。色はピンクそのもので色鮮やかなものがおいしい。昔は大きいミナミマグロが獲れたが最近は150kg〜160kgくらいのものが多いそうだ。ケープタウンから日本に運ばれて来る間に熟成が進み、日本の築地から仕入れて、すぐにお客さんに出すと丁度いい頃合いでうまみが出る。

煮ハマグリは三重県伊勢湾の桑名で獲れたハマグリを使っている。「その手は桑名の焼きハマグリ」と昔からダジャレで言われているくらい、桑名の焼きハマグリは有名だ。俺は桑名のすぐそばの名古屋に住んでいたのでちょっと嬉しい。しかし、海がそんなに綺麗なイメージはないのに、おいしい貝類がとれることに驚きだ。伊勢湾のものを使っているのは、東京湾のハマグリは若干かたいとのこと。鮨飯と一緒に食べた時、伊勢湾の柔らかいハマグリの方が一緒に口で溶けるのでマッチするのだ。

いよいよ後半戦、高級ネタが続く。まずは北海道産の数の子(写真左上)。色が茶色なのは、色を薄くしてない生の数の子だからだ。普通見かける色が薄く黄色の数の子は加工してあるものだ。築地市場でも色を薄くしてない生の数の子を扱う店は少ない。やはり数の子も輸入ものと日本産とでは全く違う。ぽりぽりした食感が日本産。ぐわんぐわんした食感が輸入もの。仕入れの値段も国産のほうがはるかに高い。

続いて車エビ(写真右上)。こちらは東京湾ではなく大分県で獲れたものを使っている。東京湾では車エビはほとんど獲れないらしい。ぷりぷり感がすごい。ちなみに大分の車エビは色が真っ赤、東京はオレンジ色っぽい。そして煮アワビ(写真左下)は青森産、歯切れがいいのに柔らかい。世の中、高いだけのアワビが多いと個人的に感じるのは、ここのアワビがうますぎるからかもしれない。

〆はかんぴょう巻き(写真右下)だ。かんぴょうは栃木産のかんぴょうを使っている。色が濃いのが特徴だが、かんぴょうはそもそもこういう濃い色だ。普通は漂白して売っていることが多い。『大益』では築地の業者に無漂白のかんぴょうを注文して仕入れている。甘辛くしっかり煮てあるご飯にあう味付けのかんぴょうだ。

いやあ、あらためて思うが、全てうますぎる。これだけ国産のうまいネタを食べるとかなりの値段になる。今回は色々食べて15,000円強だった。ちなみにメニューにはネタの料金は書いてない。記してあるのは握りコース8,000円とだけ。一つ一つのネタは一体いくらなのか見当がつかない。なので最初はビビるだろう。心配な人はとりあえず、ランチの握りを食べに行くことをおススメする。ランチの握りは3,300円だ。店外の看板にきちんと値段が書いてある。

しかし銀座の高級店と比べると割安な気がする。銀座のお客さんは場所に無駄なお金を払っている気がする。土地代というか家賃だって高いだろう。吉祥寺でいいネタを食べるほうが自分は好きだ。客層も吉祥寺らしく気楽な感じでよい。

それにしても、吉祥寺には昔おいしいお店が沢山あった。この30年で町はすごく変わった。なくなった店も多い。変わらず食べに行ける店は『大益』だけだ。

江戸の行楽地・吉祥寺に行ったらこの江戸前寿司へ!

そんな吉祥寺だが、この地に住んでいるときは井の頭公園を散歩しまくった。井の頭公園の池の橋から見える大きなマンションの11階に住んでいた。どの季節も素晴らしい眺めだった。散歩に飽きない公園だ。

地形もいい。弁天様は古くからある。この町は、江戸の郊外の行楽地だった。玉川上水に沿って渋谷から井の頭公園に向かって歩くと山の中に来たような錯覚にとらわれる。渋谷から何気なく三田用水玉川上水に沿って歩き、吉祥寺までふらふらと散歩してしまうことがあった。

そう、自分は玉川上水・三田上水を辿って吉祥寺から渋谷松濤に引っ越して来たのだ。その道を辿れば、登りも下りもなく平坦な道を通って吉祥寺から渋谷まで行けるのである。三田用水・玉川上水のコースは昔も今も素敵な散歩道だったようだ。そして神田上水も井の頭公園が水源だ。

そんな吉祥寺で、25歳の時に食べた感動が55歳になった今でも味わえる『大益』。江戸の行楽地・吉祥寺で正統な江戸前寿司を堪能してみてはいかがだろうか。ミナミマグロの中トロに絶対感動すると思う。

【メニュー】
ランチにぎり 3,300円
夜にぎりコース 8,000円~

大益

住所
東京都武蔵野市吉祥寺本町4-13-2
電話番号
0422-21-3235
営業時間
12:00~13:30(L.O.) 17:30~20:00(L.O.)
定休日
月・第4日曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/r9a6h81v0000/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

関連記事

代々木上原で古地図マニアな漫画家・江川達也が散歩しながら見つけた自然派イタリアンがかなりうまいらしい
代々木上原で古地図マニアな漫画家・江川達也が散歩しながら見つけた自然派イタリアンがかなりうまいらしい

【連載】江川達也の散食散歩散話vol.3 ちょっと散歩してお腹をすかせてからの夕ご飯。これが一番おいしくごはんを食べる秘訣だろう。お店にすぐ行くんじゃなくて、お店の近くの隠れた名所を歩いてから食べましょう。知られざる色っぽい地形が沢山ある。知られざる歴史が埋もれている。知られざるお店のおいしいメニューがある。漫画家・江川達也氏が食べて歩いて喋って、日常に埋もれた歴史やグルメを再発見していく。

漫画家・江川達也がゆく! 代官山~中目黒の歴史的名所をめぐり「白いカレーうどん」で話題のそば屋へ
漫画家・江川達也がゆく! 代官山~中目黒の歴史的名所をめぐり「白いカレーうどん」で話題のそば屋へ

【連載】江川達也の三食散歩散話vol.1 ちょっと散歩してお腹をすかせてからの夕ご飯。これが一番おいしくごはんを食べる秘訣だろう。お店にすぐ行くんじゃなくて、お店の近くの隠れた名所を歩いてから食べましょう。知られざる色っぽい地形が沢山ある。知られざる歴史が埋もれている。知られざるお店のおいしいメニューがある。漫画家・江川達也氏が食べて歩いて喋って、日常に埋もれた歴史やグルメを再発見していく。

船旅で熟成された極上ステーキが味わえる!伝説のステーキハウス『ロウリーズ』【漫画家・江川達也】
船旅で熟成された極上ステーキが味わえる!伝説のステーキハウス『ロウリーズ』【漫画家・江川達也】

江川達也の散食散歩散話vol.5 ちょっと散歩してお腹をすかせてからの夕ご飯。これが一番おいしくごはんを食べる秘訣だろう。お店にすぐ行くんじゃなくて、お店の近くの隠れた名所を歩いてから食べましょう。知られざる色っぽい地形が沢山ある。知られざる歴史が埋もれている。知られざるお店のおいしいメニューがある。漫画家・江川達也氏が食べて歩いて喋って、日常に埋もれた歴史やグルメを再発見していく。