明治30年から「桜なべ」を売り続けてきた、馬肉の老舗『みの家』のすべて【清澄白河】

【連載】老舗の当主が明かす「老舗が愛され続ける、隠れざるヒミツ」。老舗を守り続ける当主にインタビューを敢行し、「老舗の逸品」「老舗のおもてなし」にスポットを当てる。
♯2『みの家』(桜なべ)

2018年03月09日
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明治30年から「桜なべ」を売り続けてきた、馬肉の老舗『みの家』のすべて【清澄白河】
Summary
1.隅田川の水運に支えられた東京の下町で、肉体労働者の食べ物として発展した
2.問屋に任せていた馬肉の熟成を自店で手掛け、最もよい状態の肉を提供する
3.木場の職人衆も一目置いた、良質な木材を用いた風情ある建物の雰囲気を守り続ける

東京・下町に店を構える『みの家』は明治30年から「桜なべ」を売り続けてきた

馬肉をすき焼きのようにして食べる「桜なべ」は、精がつく食べ物として、明治時代から愛されてきた東京の伝統料理。当時からの伝統を今に受け継ぐ老舗『みの家』は、下町色が深く残る東京の深川・森下に1897年(明治30年)に創業。今も多い日には250人が訪れる人気店だ。

現在、お店を守るのは当主の永瀬守さん。37歳で5代目を継ぎ、老舗の伝統を守りながら、常に変革に努めてきた。そんな永瀬さんに、『みの家』が100年以上愛され続ける秘訣を聞いてみた。

八丁味噌と割り下を合わせる、濃いめの「桜なべ」はクセになる味!

――馬肉を使った「桜なべ」は、明治時代から東京の下町で愛されてきた料理だそうですね。

永瀬:「明治時代、隅田川の運河で働いていた肉体労働者たちが、自分たちの小遣いで食べられる食事として普及したのが、馬肉やどじょうを使った料理屋でした。牛肉やウナギはハレの日の食べ物ですが、馬肉は当時、豚肉よりも安かったですし、グリコーゲンを多く含むため食べると元気が出る、精がつく食べ物として人気を博していました」

――そんな中でも『みの家』の「桜なべ」の特徴は何ですか?

永瀬:「当店では、普通の「桜なべ」と、「桜なべ(ロース)」「桜なべ(ヒレ)」、それに馬肉が苦手な方向けに「豚なべ」の計4種類の鍋をお出ししています」

永瀬:「桜なべの具材は、馬肉、ネギ、白滝、お麩。ネギは千住のネギ専門の卸市場から仕入れており、1~3月は希少な「千住ねぎ」を使用しています。「千住ねぎ」は歯ごたえと甘みのバランスがよく、目がきっちりと詰まっていて煮込んでもとろみが出ないので、鍋に向いているんです。白滝とお麩についても、それぞれ当店用に製造してもらっているオリジナルです。

上にのっているのは、特製の味噌と、馬の腹脂。味噌を割り下で溶かしながら煮込んで、肉の色がさっと変わったら食べ頃です。腹脂は、やわらかくしつこくない味わいなので、これだけ別注文する常連のお客様もいらっしゃるんですよ」

永瀬:「卵は別料金ですが、ほとんどのお客様が追加されますね。卵をつけてちょうどいい味付けになるように、割り下はやや濃いめに仕立てています。割り下は、薄めと濃いめの2種類をお出ししており、最初は濃いめで、煮詰まってきたら薄めのものを足していただくというスタイルです」

味噌も具も変わった! 時代に応じて常に進化し続ける「桜なべ」

永瀬:「老舗ではよく、『代々受け継がれた秘伝のタレは一切変えずに……』などと言われるところもありますが、私どもでは、お客様にはわからないように、時代の変化とともに変えています。むしろ、まったく変わっていない部分というのはないかもしれません。その中でも、時代の変化とともにやむを得ず変えた部分と、よりよいものを提供するために意識的に変えた部分とがあり、前者では、味噌やお麩、後者では馬肉が当てはまります」

永瀬:「味噌は、私の代になってから変えたのですが、その理由はずっと使っていた八丁味噌屋さんが廃業してしまったから。八丁味噌を作っているところは全国でも2~3軒しかないそうで、その中から従来の味噌に最も近い味わいのものを探し、現在は『カクキュー』さんのものを使っています。また、八丁味噌に合わせる白味噌も、東京にもともとあった江戸甘味噌に変えました。味噌が変われば割り下も見直しが必要ですし、そうした味の微調整はこれまで度々行ってきました」

――味付けの元となる味噌や割り下を変えたことでどんな反響がありましたか?

永瀬:「味の変革がお客様からの苦情になったことはほとんどありませんが、お麩を変えたときには、ちょっとクレームが出てしまいましたね。当店では、もともと小判型のお麩を使っており、昭和40年代に俵型に変えたのですが、今から17~18年前に俵型のお麩を作る人がいなくなってしまって、再度、小判型に戻したんです。

俵型のお麩は煮汁が染みるのに時間がかかるので、お客様には最初に入れてもらうよう伝えていたのですが、小判型は断面積が大きいので、同じように煮ると汁を吸い過ぎて辛くなってしまいます。お麩そのものは昔よりもおいしくなっているのですが、食べ方についてはお客様がセルフで行いますから、その旨を伝えるのに時間がかかりましたね」

青森から最高の「馬肉」を仕入れて自店で熟成する

――馬肉に関しては、昔と今でどのように変えてきたのでしょうか?

永瀬:「いちばん大きな違いは、最終的な馬肉の熟成を自店で行なうようになったことです。以前は問屋さんが行っていたのですが、それだと熟成にバラツキが生じていました。そこで、最後の熟成の見極めを自分たちでやるために、10年ほど前にお店に畳2畳半くらいの熟成庫をつくり、現在は骨付きのまま吊るして熟成させています」

永瀬:「つぶしたてのお肉というのは、牛でも豚でも、硬くてほとんど味がないんですよ。例えていうなら、鉄サビの味がする、噛みきれないハードグミのような(笑)。それが、熟成することでたんぱく質がアミノ酸に分解され、イノシン酸が増えて初めてうまみ成分になります。

当店で使用するのは青森産の馬肉がメインですが、食肉処理して2週間くらいは現地にある当店専用の冷蔵庫で熟成して、冷蔵で運んでさらにお店で1週間ほど熟成します。個体により熟成の進み方も違うので、状態を見極めながら提供することができるようになりましたね」

永瀬:「熟成させるのは、凍らないくらいのギリギリの温度。一般的な冷蔵庫ですと、吹き出し口に近いところと遠いところで温度の違いが出てしまうのですが、当店で使用している冷蔵庫は冷風があまり出ず庫内全体を冷やすものなので、昔よりも均一に熟成できるようになりました」

――馬肉の産地も、時代によって変わってきたのでしょうか?

永瀬:「昔から、国産も外国産も色々と仕入れていますが、現在メインで取引している青森の牧場とは、30年くらいの付き合いになります。そこの社長は、まだ6頭くらいしか馬を生産していなかった頃に上京し、上野からタクシーに乗って「東京で一番馬肉を売る店に連れて行ってくれ」と頼んだそうです。それを3回繰り返したところ、3台ともうちの店に連れてきた(笑)。そこで、「間違いない」と思って飛び込みで営業に来たところからのご縁です。今では、全国で5本の指に入る大きな牧場となっています」

永瀬:「青森は水がとてもよくて、近くに低農薬の米農家が多く、馬たちはその稲わらを食べて育つので、脂の質がとてもよく仕上がります。それに、寒いから大きい馬を肥育できるのも魅力です。うちは1t以上の大きい馬を仕入れているのですが、その理由は、熟成させた後に表面をトリミングするから。とくに馬肉の場合は水分が多いので、熟成させると牛よりも乾いて使えなくなる部分が非常に多く、小さい馬だと使える部分がほとんどなくなってしまうんです」

――馬肉の部位については、どのように使い分けていますか

永瀬:「桜なべに使用しているのは、鞍置きと呼ばれる背中のあたりから腰にかけての赤身の部位。肉質がきめ細かく、スジが入り組んでいないのでとてもやわらかい。とはいえスジがないわけではありませんから、熟成させたら硬いスジを丁寧に取り除きます」

建物は毎年メンテナンスし、昔の雰囲気を守り抜く

――風情ある建物の雰囲気も愛される理由のひとつですね

永瀬:「入口の下足番を含め、この雰囲気が好きだといってくださるお客様は多く、久しぶりにいらしても『昔と全然変わらないね』と喜んでもらえるような空間づくりにはかなり気を遣っています。そのため毎年どこかはメンテナンスをしている状態です」

永瀬:「現在の建物は、昭和29~30年に建てられたもので、現在までに2回、大きな工事をしています。内装に関しては、私の祖父のこだわりが強く、「木場の木材職人衆が来ても、恥ずかしくない木を使いたい」と、かなりよい木材を使ったそうです。そのため、私が改修工事を行なった12年前には、昔のような木材が見つからずに苦労しました。加えて、壁を塗る職人さんもいないし、看板も直せる技術をもった人がいない。昔の雰囲気を守り続けることは、今後ますます難しくなってしまいそうだと感じています」

――当時と比べて客層も変わったのでは?

永瀬:「客層はずいぶん若返ったように感じますね。昨今の赤身ブーム的な流れに加えて、馬を食べることに偏見がない人たちが増え、女性のお客様も多くいらっしゃるようになりました。それこそバブル以前は9割が男性客だったのですが、現在は女性が半分くらい。昔は接待が中心でしたが、今はどちらかというと、うち目当てで来てくれるお客様が多くなりました」

馬肉が消えた!? 経営の危機を乗り越えて

――これまでに経営の危機などはありましたか

永瀬:「ほかの老舗と同じように、戦中から戦後にかけて商売のできない時期が続きましたが、専門店ならではの危機といえば、昭和30年代に起きたコンビーフの偽装問題で、市場から馬肉が消えてしまったことがあったそうです。方々から買い集めても、質が悪かったりして、クレーム続きで大変だったそうです。昭和30年代までは豚の半分以下の価格で買えた馬肉も、今は倍以上。ここ50年間、一度も値段が下がっていません。馬肉をよく食べるヨーロッパなどに比べると、日本ではまだまだマイナーな食材なので、ライバルは少ないのですが、安定していいものを仕入れるのが難しいという苦労もあります」

――最後に、暖簾を守るために大事にしていることを教えてください

永瀬:「老舗にも様々なスタイルがありますが、うちはわりと革新的な方だと思います。とくに祖父は新しいものが好きで、熱源を炭火からガスに切り替えたのも界隈では初めてでした。また内装も事有るごとに改善して、店の奥に特別室を作ったのも祖父の代です。逆に父は保守的で、建物も一切いじらなかったですね。ただ、「気取って高級路線に行くな」とは散々言われていました。かといって、安っぽいのもダメ。わかる人が見れば、店も料理も「いい材料を使っているな」と感じてもらえる店であり続けることが目標です」

【メニュー】
桜なべ 1,900円
桜なべ(ロース肉/ヒレ肉) 各2,100円
肉さし(馬肉刺身) 1,900円
馬肉たたき 1,600円
あぶらさし 1,600円
玉子焼 600円

桜なべ みの家

住所
〒135-0004 東京都江東区森下2-19-9
電話番号
03-3631-8298
営業時間
12:00~14:00、16:00~21:30(土・日は12:00~21:30) ※各L.O.21:00
定休日
火曜(5~10月は臨時休業あり)
公式サイト
http://www.e-minoya.jp/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。