秘境・小笠原諸島で小笠原グルメと出会う、和食割烹『丸丈』

味わう旅 #1

2018年07月20日
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秘境・小笠原諸島で小笠原グルメと出会う、和食割烹『丸丈』
Summary
1.世界自然遺産「小笠原諸島」、独自の食文化は新たな出会いの連続
2.アオウミガメ等の郷土料理がいただける老舗『丸丈』、過去にはあの元米国大統領も来店
3.都会で出会えない小笠原グルメも、ニーズに添ったひと手間で観光客が喜ぶ絶品に

日本最後の秘境・世界自然遺産「小笠原諸島」

東京から南に約1,000km離れた小笠原諸島は、父島や母島を代表とする約30の島の総称であり、火山活動によって海の中から地上に現れた海洋島である。本島の陸地とは一度も接した事がないため、特殊な地質を持ち、独自の生態系が今なお存在している。

小笠原諸島といえば綺麗な海も大きな魅力で、ホエールウォッチングやドルフィンスイム&ウォッチング等、人気アクティビティも目白押し。
また、シュノーケリング、スキューバダイビングでは、アオウミガメを始め、数多くの固有種や熱帯魚と泳ぐことができる。

これらの特異性により、2011年に日本で4番目の「世界自然遺産」に登録され、2018年7月現在日本で最も新しい「世界自然遺産」として注目されている。

飛行機やヘリコプターは就航しておらず、唯一のアクセスは、週に1本ある「おがさわら丸」で「竹芝客船ターミナル」(港区)から24時間かけて父島に行くのみである。

小笠原諸島の食文化「アオウミガメ」

小笠原諸島は、春過ぎになるとアオウミガメが産卵に来る事で有名だ。
この時期は、夜にビーチへ行くと簡単にアオウミガメに会う事ができるが、これは世界的に見て大変珍しいことでもある。

長きに渡る乱獲や、孵化(ふか)したばかりの子亀が様々な外敵に襲われたことでその数は激減し、今では絶滅危惧種に認定されている。よって小笠原諸島では、許可の無い人がウミガメに触ることは禁止されているうえ、撮影する際もフラッシュは厳禁だ。

また、島ではアオウミガメの卵を守る活動も盛んで、住人や観光客が誤って卵を踏まないように各ビーチの産卵場所には目印を立てている。

そんな大切なアオウミガメを小笠原諸島で食べることができるのはなぜか。

海洋島である小笠原諸島には大きな動物がほとんどいないため、アオウミガメは人々のタンパク源として重宝されていた。やがて、そのまま食文化の一つとして根付き人々に愛されたのだ。

絶滅危惧種とはいえ、長い歴史の中で文化として形成された「アオウミガメを食べる習慣」は完全には禁止されず、年間135頭までと限定的ではあるが、捕獲することを許されているのである。

ブッシュ元米国大統領も訪問した、父島の老舗名店『丸丈』

先述の通り、小笠原諸島への唯一のアクセスが父島に行く船のみということもあり、父島は小笠原諸島の中でも最も栄えた島だ。
よって観光客も多く、他の島と異なり飲食店が中心地に隣接している。そのほとんどがアオウミガメを置いているが、中でも特に人気の店がある。

割烹料理屋『丸丈(まるじょう)』だ。

店主の金子秀雄さん(写真下)はこの店の5代目で、明治9年より奥様の曽祖父から続く老舗を昭和58年に継いだ。

島民誰もが知るほどの圧倒的な知名度を誇り、店は毎日大繁盛。その噂は海を渡り、アメリカの元大統領であるジョージ・H・W・ブッシュ氏も訪れたほどだ。
隣接する飲食店の中で、『丸丈』が特に根強い人気を博すのは何故なのだろうか。

全ての人においしい小笠原郷土料理を。慣習に縛られない店主による、こだわりのひと手間

東京出身の金子さんは横浜や京都の寿司屋で10年弱働き、小笠原諸島での経験も合わせて板前歴43年の大ベテランだ。
そう聞くと、基本や伝統に忠実な和食を振る舞うようなイメージをしがちだが、金子さんの料理の魅力は、お客のニーズに応じたこだわりのひと手間である。

小笠原諸島の伝統的な食べ物は、島ならではの珍しい食材を使ったものが多く、島外から来た人の口に合わないことも多いそう。それを考慮し、伝統を残しつつもお客の好みに合った味に仕上げているのだ。

アオウミガメの刺身である名物「かめ刺し身」(写真上)は、馬刺しに似た赤身で、味自体はさっぱりしていてクセも無い。

しかし、小笠原諸島ではその食べ方に特徴があるという。
アオウミガメは捕獲数に限りがあるため、捕獲後すぐに冷凍保存をする。それをルイベ(冷凍刺身・北海道の郷土料理)のように、溶けかけたものを刺身として出すという文化がこの島にあるのだ。
事実、アオウミガメの刺身を出すほとんどのお店では、半分凍ったまま提供されている。

しかし金子さんは、そんな長きに渡るこの伝統に異を唱えた。

確かにこの味に慣れている島の人は半冷凍のウミガメが一番おいしく感じるが、冷凍刺身を食べる機会の少ない観光客は違うのでは無いか。
そこで、凍らせていない生の刺身に近い方が食べやすいのではと考えて全解凍をし、程よく水を切って提供したところ、たちまち観光客の間で評判になった。

一見普通の考えにも見えるが、「アオウミガメは半解凍で食べる」という小笠原の常識からすると、非常に画期的だったようだ。
「小さいことでもお客様の声に耳を傾けることが大事なんです」と言う。

特徴的な小笠原の食材も、ひと手間でよりおいしく

「亀の玉子」(写真下)は、メニュー名の通りアオウミガメの卵である。
アオウミガメの卵は、以前は島で採れる貴重なタンパク源であったが、硬く匂いも強いため、物資が豊富になった現在では島の人が食べることはあまり無い。

しかし、長年島を代表する食材であったため、どうにかおいしく食べられる形でこの文化を残せないかと試行錯誤したそう。生姜やネギなどの薬味とともに、絶妙な煮込みを卵に施した上で徹底的なアク抜きをするという、以前の数倍手間をかけて提供する方法を確立した。

嫌な匂いは一切せず、食感もふかし芋のようにホクホクとし、どこか懐かしい味がする。以前は興味半分で少し食べて残す人が多かったようだが、今ではお代わりをする人も出るほどの人気メニューになった。酒のアテにも良さそうだ。

こちらは「アオリイカの刺身」(写真上)。
アオリイカは深海に生息するため、通常のイカと比べて硬く、島では刺身で食べる場合薄くスライスして提供するのが常。しかし、こちらでは取れたてを出さずあえて熟成させることで柔らかくなるまで待ち、大ぶりに切って提供している。
薄切りのものと比べると食べごたえがあるのは勿論だが、熟成することでうまみも増す。

元々甘みの強いイカなので、島で採れる島とうがらしを醤油皿に潰してから付けて食べるのが島流だ。要望に応じて表面を炙るなど、常にお客に合わせて料理を提供するのも金子さんならでは。

他に珍しいものがないかと聞くと、「あかばの唐揚げだね」と聞き慣れないメニューをおすすめされた。馴染みのない名前だが、アカハタのことである。
アカバは骨が多く食べるところが少ないのだが、『丸丈』では高温の油でカリカリに揚げることで、中骨以外すべてを食べることができる。

小骨や皮もパリッと香ばしく、白身の部分は非常に柔らかいという食感の違いを楽しむことができる。身の味はしっかりしており、塩や醤油をかけるのが勿体無いほどだ。

料理は常に進化しなくてはならない

金子さんは、島の食文化を守りつつ、時代に合わせて変化を加えることを大切にしている。
かつては観光客がそれほど多くなかったため、島の伝統を忠実に守れば良かった。だが、島が世界遺産となった今、多くの観光客が押し寄せるため、ニーズにあった料理を考える必要があるという。

孤島という地理的な要因もあってか、多くの店が変化することを好まないなか、柔軟な創意工夫を続ける姿勢が、今の『丸丈』の人気に繋がっているのだろう。
進化を続ける”創業約140年の老舗”の今後が、楽しみで仕方がない。

【メニュー】
かめ刺し身 1,000円
亀の玉子 500円
アオリイカの刺身 1,000円
あかば唐揚げ 1,000円 
※すべて税別
※会計時、合計金額に3%を加算

【参考文献】
小笠原村観光協会”小笠原について”ようこそ小笠原へ!(参照 2018-7-3)
http://www.ogasawaramura.com/about/

丸丈

住所
〒100-2101 東京都小笠原村父島東町79
電話番号
04998-2-2030
営業時間
11:00~14:00、18:00~23:00、ランチはおがさわら丸入港中のみ
定休日
おがさわら丸出港中
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/98jv8rnw0000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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