一つひとつが決して普通じゃない、ごく普通の料理。居酒屋の定番を至福のひと皿に変える 学芸大学『浮雲』

【連載】幸食のすゝめ #084 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2019年02月15日
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一つひとつが決して普通じゃない、ごく普通の料理。居酒屋の定番を至福のひと皿に変える 学芸大学『浮雲』
Summary
1.学芸大学に新名所「ジャンルレスな自由な居酒屋」が登場
2.とにかく何を食べても間違いなし。幅広い経験から生まれる様々な王道メニュー
3.白基調の広々とした空間と道に面した大きな窓の開放感で家族連れにも好評

幸食のすゝめ#084、流離う雲には幸いが住む、学芸大学。

「〆でもつ煮に半田素麺(はんだそうめん)入れましょうか!徳島産の、何ともたまらない歯ごたえの素麺なんです」、
店主有川さんのひと言でカウンターに座る美女たちの食欲に再び火が点いた。
「えーっ、ふわふわだし巻き卵で〆ようと思ってたのにぃ、もつ煮にゅうめんとか聞いたら、また食べちゃうじゃない!?」、
「それって、あのフジロックで人気ナンバーワンになった奴の別ヴァージョンでしょ!食べる、食べる!」。

店主の有川(毅)さんは、以前9年間勤めていた『博多もつ鍋うみの』時代、3回フジロックに出店。
2014年の初登場で、いきなりフェスごはん人気ランキングの3位に躍り出て、翌2015年には堂々1位に選ばれた。
なぜか毎回、天候に恵まれないフジロックフェスティバル。雨が滴る会場で震えながらひと口飲んだスープの優しさとおいしさ、身体を温めてくれたもつの滋養、たっぷりスープを吸い込んだちゃんぽんに涙したフジロッカーは数知れない。
しかし、2017年に『博多もつ鍋うみの』は惜しまれつつ閉店。
フェス飯の最高峰だった「もつ鍋ちゃんぽん」は伝説になった。

その後、厨房を支えていた有川さんはどうしてるんだろう?
そんなことを考えながら、再開発が進む武蔵小山飲食店街「りゅえる」内で、唯一歯抜けのように残っている小径を歩いていると、「森さーん!」と人気のピッツェリア『ラ・トリプレッタ』の中で有川さんが手を振っている。独立店の物件を探している間、『ラ・トリプレッタ』で働いているらしい。
様々なジャンルの料理を学んで来た彼のキャリアに、ナポリの味わいも加わるのか、そう思う度に新店のオープンが待ち遠しくなった。

そして、2018年のクリスマスを過ぎた12月27日、有川さんの新しい城『浮雲』がオープンした。一週間前くらいから少しずつプレオープンし、正式な開店前に満員の客が集ったりして、学芸大学の新名所として好調なスタートを切った。

場所は駅から続く東口商店街に面した立食い蕎麦屋の上階だ。通りを左折すると白い暖簾がかかった小さな入口が見つかる。
そのまま直進すると、『あつあつリ・カーリカ』や『BAR VINE』、『246(にょろ)』などが立ち並ぶ学大の魔境「十字街」だ。

入口から細い階段を昇り、ドアを開けると白を基調とした広々とした空間が広がる。道に面した壁が大きな窓になっているから、開放感も居心地も申し分ない。帰路を急ぐサラリーマンや、買物の荷物で手が塞がったお母さんたち…。
街の景色を見晴らしながら、佐賀県から直送されるレモンを贅沢に搾った特製レモンサワーや、地元宮崎のクラフトビール「日南麦酒」を呑むひと時は、学大の夜を彩る最良の一頁になるはずだ。

グラスには、店名をモチーフにした浮雲のイラストが描かれている。どうして、浮雲だったんだろう?

「僕は20歳の時に地元の宮崎からスイスのチューリッヒに渡って、1年半くらい日本食のレストランで働いたんです。それから帰国して、今度はイタリアンを2年間。その後、『博多もつ鍋うみの』で9年間、『ラ・トリプレッタ』で1年。
学生時代には、中華屋でバイトもしてました。なんだか浮雲みたいに、ずっとフワフワしてるんです、悪く言えば一貫性がない。
でも、後悔はしてません。一つひとつの経験が、僕の大切な財産になっているし、ジャンルにとらわれない料理をお出しできると思うから…」。

自由な居酒屋は、果てしない糊しろを持っている

あそこの店って、なんだか色んなメニューがあるね、でも、何を食べても間違いないし、どれもうまいんだ。
そんな店を考えた時、1つの解答に辿り着いた。

「居酒屋が好きなんです。おいしいもつ煮と唐揚げがあって、ポテトサラダや出し巻き卵もある、旬の刺身もちゃんとうまい。居酒屋って、自由度が高くて料理やお酒のジャンルを限定しない、糊しろがたくさんあると思うんです」。
だからこそ、一つひとつのメニューには徹底的にこだわる。

決して普通じゃない、ごく普通の居酒屋メニュー

看板の「国産牛もつ煮」は通常のもつ煮ではなく、魚介系のスープをたっぷり使い、その中にもつの滋味を溶け出させる。
数量限定の唐揚げは、もも肉は霧島鶏、手羽先は地頭鶏(じとっこ)と種類を限定、どちらも郷土宮崎産だ。

もも肉に使うのは、甘い九州産の醤油。手羽先はカットした後に一夜干しして、うまみを凝縮させている。
チャーハンは、もつ煮のスープを使って、しっとりと仕上げる。
椎葉村のイノシシや、故郷の同級生が栽培しているピーマンやズッキーニなど、新鮮な宮崎食材にもたくさん出会える。

開店まもなく、窓側のテーブルに家族連れがやって来る。子どもたちのリクエストで、リピーターになったらしい。
「おいしい?最高?」、ママが聞くと、ちっちゃな姉と弟が「最高っ!」とこたえている。
カウンターでは、もうすっかり常連になった国分寺生まれ学芸大学育ちの先輩が酒場の叡智(えいち)をレクチャーしている。

壁に飾られた浮雲のネオンサインが、学大の街並をバックにガラス窓に映り、流離う(さすらう)ようにフワフワと揺れている。
ここは誰もがみんなフワフワとリラックスできる、自由な翼を持った居酒屋だ。
流離う雲には、幸いが住んでいる。

【メニュー】
国産牛もつ煮 しょうゆ650円/みそ750円
特製ポテトサラダイクラのせ 750円
宮崎産霧島鶏もも肉の唐揚げ 600円
宮崎産地頭鶏手羽先唐揚げ 600円
自家製からすみ 700円
自家製〆サバ 1,000円
旬の刺身 1,000円~
じゃこと九条ネギのチャーハン 1,000円
もつ煮にゅうめん しょうゆ950円/みそ1,050円
各種サワー 600円
生ビール/サッポロ赤星 600円
宮崎クラフトビール 1,000円
日本酒 650円~
各種ソフトドリンク 400円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。

酒場 浮雲

住所
東京都目黒区鷹番2-20-8 モンテローザビル2F
電話番号
050-5487-7812
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
営業時間
18:00~24:00
(L.O.23:00)
定休日
火曜日
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/d43hs5zy0000/
公式サイト
https://www.facebook.com/sakaba.ukigumo/

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