地鶏の醍醐味を知ってもらうべく、養鶏からスタート
子どものころ、祖父母宅の庭を走り回っていた地鶏のおいしさが、大人になっても忘れられなかった。それどころか、年を重ねて外食の機会が増えると、あの味は格別だったと気づく。ならば、自分があの鷄を育てて、提供する店を開けばいい。そう考えた髙岩誠さん(写真下)が、地元・宮崎で養鶏を始めたのは今から20年近く前のことだ。
飼育環境にもとことんこだわって育てられる名古屋コーチン「飛来幸(ひらこ)鶏」が毎日食べているものは「旬のもの」。栄養をたっぷり蓄えた野菜や穀物は、鶏にとってもごちそう。さらに、宮崎ならではの風土を最大限に活かすことで生まれた究極の鶏が2004年に誕生すると、翌年には早速、宮崎県小林市にレストラン『地鶏の里』を立ち上げた。しかし、料理経験が皆無だったため、手間暇かけて育てた鶏のおいしさを存分に引き出したメニュー開発には時間がかかり、試行錯誤の日々。2店舗目となる『炭火焼処 ひらこ』(宮崎県宮崎市)をオープンするまでに実に15年を要した。
しかし、それからわずか半年後の2019年4月、同店は東京・六本木に移転。半年間で十分に手ごたえを感じたため、さらなる高みを目指して上京することにしたのだ。
再スタートにあたっては、店名を『焼鶏 ひらこ』と改めたが、店内に掛かる暖簾は当時のまま。『炭火焼処 ひらこ』時代、22時以降はメニューを限定して店名を変えて営業していたため、暖簾の裏面には、『スープ玉子ご飯専門店みらん』の文字がしたためられている。
現在の『焼鶏 ひらこ』のメニューは、精魂込めて育てた鶏を堪能できるコースのみ。約1年かけて飼育した「飛来幸鶏」の各部位の違いを堪能してもらえるよう、部位ごとに最適な調理法を施したメニューで構成。焼鳥は、串打ちせずに炭火焼きして提供している。また、栄養たっぷりに育った鶏が産んだ濃厚な卵も存分に楽しんでもらえるよう、オムレツや丼物、たまごかけご飯などもコースに組み込まれている。
席はカウンターのみ。目の前で炭火調理されている様を眺めながら、料理が運ばれてくるのを待つ時間も楽しい。カウンター10席のみの落ち着いた雰囲気なので、デート利用にもぴったりだ。
乳製品不使用で作るオムレツは、卵のうまみが凝縮
では、さっそくコース料理の一部を紹介しよう。
序盤に登場する「オムレツ」(写真上)からしてこだわりが詰まっている。バターをはじめとする乳製品は一切使わず、だしも鶏からとったもので、鶏のみで作ることに徹底している。トッピングされた上質なトリュフともども全体を軽くかき混ぜてから食べると、うまみや香りの広がりが段違いに。
卵そのものがコク深いため、口にした瞬間の感動はもとより、食べ終わった後の余韻も相当なインパクトだ。
シンプルに塩やワサビでいただく焼鳥はお酒との相性もバツグン!
自慢の鶏は、串を打たずに網焼きして提供。地鶏の多面体すべてにしっかりと火が入るよう、あえて串に打たないのだという。
脂の層が厚い「大トロ」(写真上)は、雌鶏のハラミのこと。1羽から2個しかとれない希少部位となる横隔膜で、上質な脂身を楽しめる。ワサビまみれにしていただくと、脂がよくのっているのにさっぱりとした味わい。噛むほどに口の中に広がるうまみは、一般的な焼鳥とは一線を画すものだ。
コリッとした食感とふっくらとしたやわらかさを併せ持つ「あ」(写真上)も、ゆず塩とワサビをきかすと、味が引き締まってさらにおいしい。ちなみに、「あ」とは腺胃(せんい)のこと。筋胃(砂ズリ)の上に位置するため「あ」の名を持つというが、他店ではほとんど見かけることがないだろう。筋が発達していて分厚くかたい筋胃に比べ、ふっくらとした食感だが、砂ズリに似たコリコリした食感も同居。肉厚でたっぷりとうまみが詰まった部位なので、ゆっくりと噛みしめて楽しんでほしい。
ともに日本酒とも相性がよさそうだが、濃厚なうまみの「あ」は赤ワインとのマリアージュも楽しいだろう。
続いては、「胸肉のたたき」(写真上)。しっとりと吸い付くような食感のたたきは、塩とワサビでいただくのがオツ。「地鶏は圧倒的にもも肉より胸肉がおいしいんです」と髙岩さんは教えてくれるが、確かにこのふっくらとしたやわらかさはやみつきになりそうだ。
「親子丼の向こう側が見られる」丼メニュー
最後に紹介するのは、「親子丼の向こう側を見せたい」というコンセプトのもと誕生した「おやこまご丼」(写真上)。鶏肉と卵を材料とする親子丼は、鶏と卵の関係を「おやこ」の言葉で表したものだが、「おやこまご」の3世代とは一体どんな材料で作られているのだろうか。
正解は、鶏だし100%で作られたおやこ丼。「鶏肉・卵・だし」の3つを「親・子・孫」の言葉で表現しているのだ。「おやこまご丼」に使った鶏の骨からとっただしで作る丼は、コンセプト通り別次元の味わい。
鶏のうまみをたっぷりとまとった卵で包まれたご飯の上に、炭火焼きした胸肉ともも肉がトッピングされた、五感で楽しめる一杯。なにせ、卵のなめらかな舌触り、ぷりっとした肉の食感、炭火の香りなど、どこを切り取っても秀逸で非の打ちどころがない。一口目から、地鶏のうまみが口いっぱいに広がるが、食べ終わった後も、コク深さが口の中を支配し続ける。丼物でありながらお酒を呼ぶ濃密な味わいで、甘めの日本酒と相性がぴったりだ。
日本酒やワインのペアリングの用意もある。地鶏のおいしさを知り尽くした髙岩さんゆえ、それぞれの部位や調理法と好相性の一杯を選ぶのもお手の物。また、お酒を口に含むベストなタイミングまで教えてくれる。「鶏だけで食べても十分おいしいけれど、お酒と合わせるとさらに気持ちよくなれますよ」と髙岩さんも楽しそうだ。
純粋な地鶏ならではのおいしさを多くの人に伝えたい
「地鶏と普通の鶏肉はまったく別物。食べたらわかってもらえます」と髙岩さんは自信をのぞかせるが、そのクオリティをキープしているのが、髙岩さんの弟さんだ。
もともと、父、兄とともに3人で始めた養鶏だが、髙岩さんが同店に専念することになった今、おいしい鶏を育てることは弟さんの役目。髙岩さんの手により、その鶏のおいしさを東京でも堪能できるようになって早や1年弱。これからさらに多くの人が、地鶏のおいしさに開眼していくに違いない。
【メニュー】
▼コース
飛来幸(ひらこ)地鶏おまかせコース(約20品) 12,100円~
▼お酒
ペアリングのため、その時々によって異なります
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また価格はすべて税込です
撮影:岡崎慶嗣
ひらこ
- 電話番号
- 03-5843-1790
- 営業時間
- 18:00~と20:30~の2部制
- 定休日
- 日曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。