長野県第二の都市松本は、国宝である松本城を中心に城下町として栄えた。周りには美ヶ原や上高地など数多くの山々の伏流水が豊富に貯えられており、その水質は「まつもと城下町湧水群」として「平成の名水百選」に認定されているほど。
清らかな水は松本の食を豊かにしたうえ、城下町ということもあり信州の美味しいものは常に松本に集まる。そんな松本ならではの絶品食材や珍しい郷土料理が食べられる、至極の飲食店5店を紹介する。
そばのしゃぶしゃぶ「とうじそば」を食べるなら『そばきりみよ田』へ
寒暖差の大きい高冷地はそばの栽培に適しており、県内には全国に名を轟かせるそばの産地が点在しているが、松本は「そば切り」発祥の地であるうえ、そば作りが盛んな乗鞍(のりくら)高原や奈川(ながわ)地区が市内にあるなど、人々の生活にそばが深く浸透している。
そんな松本に来たらぜひ食べて欲しいのが「とうじそば」だ。冷水で締めたそばをしゃぶしゃぶのようにキノコや山菜が煮込まれたスープにとうじ(投汁)て温めてから食べる、松本発祥の伝統料理だ。冷えてしまったそばをお湯で温めてから食べたのが起源で、寒さの厳しい信州ならではの料理といえる。
そんなとうじそばを食べたいと向かったのが行列のできる人気店『そばきりみよ田松本店』だ。注文したのは「とうじそばコース」。
薄口のしょうゆベースの出汁に、ネギや数種類のキノコ、地元で採れた季節の山菜。そばをつけるスペースに困るほどの具沢山に心躍る。
そこに信州のそば粉にこだわった香り高い二八そばを3秒ほど投入し、温め直してから勢いよくすする。
噛むと思いのほか弾力を感じるのは、一度そばを冷やし締めることでそばが伸びることを防いでいるからだ。鼻から抜けるそば本来の風味と、それを邪魔せずとも深みとコクをもたらす出汁がよくマッチしている。
食後に、残った出汁を使って作る、「そば米雑炊」と「せいろそば」もあるので、ボリュームも申し分ない。
【メニュー】
・とうじそばシンプルコース 1,680円
【予算】
1,000円〜2,000円
そばきり みよ田 松本店
- 電話番号
- 050-5484-4699
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 月~日
ランチ 11:30~14:30
月~土
ディナー 17:00~21:30
※連休最終日はランチのみ営業します
- 定休日
- 無
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
決めては香ばしさ! 東西いいとこどりの『山勢』のうなぎで殿様気分を味わう
松本の繁華街を歩いて気がついたこと、それはうなぎ屋が多いということだ。静岡県浜松市から天竜川を遡上したうなぎの稚魚は、長野県の諏訪湖で育つ。そんな天然うなぎは江戸時代から人気であったようで、とくに参勤交代で松本を通るお殿様がよくうなぎを食べていたことから、松本でうなぎの文化が根付いた。
そんな松本でおすすめしたいのが『山勢』だ
赤坂にあるミシュラン一つ星レストラン『うなぎ 赤坂 勢きね』で修業した店主が営むうなぎとすっぽんの専門店である。
店内は装飾や雑貨などは一切なく、家具や家電もシンプルで、うなぎと真剣に向き合える空間が用意されている。
いざ真剣勝負、と思いきや、蓋を開けた時の驚きで早くも一本を取られてしまう。
均一な焼き目と、美しい飴色の照りに見惚れているのも束の間、すぐさまふわっと広がる香ばしい香りが特徴的で、一瞬にして食欲は最高潮にまで掻き立てられる。
そして同時に、うなぎ界の教科書に反したユニークな形相であるという点に驚かされる。
通常うなぎは関西流と関東流に分けられ、前者は腹開き地焼きであり、後者は背開き蒸し焼きであることが一般的。
運ばれてきたうなぎは予想に反して関東流の背開きだった。これは面白い。
一体なぜなのだろう、疑問を抱いたままひと口食べてみると、強烈な香ばしさに驚く。日本全国でうなぎを食べてきた筆者だからわかるが、今まで感じたことがないレベルの香ばしさだ! 関西流で、蒸さずに直火のみで焼いていることはもちろんだが、関東流の背開きは身崩れがしにくくなるので、じっくりと火を通すことができることが秘訣なのであろう。
香ばしさの後にはうなぎの繊細な甘みと旨味が交互にやってくる。意外にも苦みを一切感じないのは、店主の絶妙な火加減によるものだろう。これだけ香ばしさを感じるのに、苦みが現れる手前で火入れを止める職人技には脱帽だ。
東と西に挟まれた長野県ならではの唯一無二のうなぎを体感しに、松本まで行く価値はある。
【メニュー】
・うな重 5,400円
【予算】
昼:5,000円〜6,000円
夜:10,000円〜15,000円
山勢
- 電話番号
- 0263-88-6005
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明治32年創業の馬肉専門店で馬刺しとおたぐり鍋を楽しむ『新三よし』
長野は熊本に次いで日本で二番目に馬肉を消費する都道府県。産業革命によって物資運搬や農耕用と言った役目を終えた馬を食用に回したことがきっかけで、馬肉を食べる食文化は信州全土に幅広く根付いたと言われている。
そんな長野県民のソウルフードとも呼べる馬肉を存分に食べられる店が松本にある。明治32年創業の馬肉料理専門店『馬肉バル新三よし』だ。
「味よし、酒よし、気分よし」の3つの思いが込められた『料亭三吉』の創業100年の節目に、新たに馬肉居酒屋『新三よし』に改名し今に至っている。
店主のおすすめは「さくら刺5点盛り」。定番の赤身やたてがみはもちろん、希少部位である霜降り、レバー、ハツ、心根の部位を食べ比べることができる。
「霜降り」は和牛のように美しいサシが見事で、口に入れるとジュワッと脂が広がりみるみるうちに溶け出すのだが、不思議なことに後味がさっぱりしている。大トロ部分といえど、くどさを感じないのは馬肉ならでは。
対して、ハツは同じ生き物かと疑ってしまうほど、淡白でさっぱりしている。長野の名水で仕込まれた店のオリジナル酒「宝馬」の芳醇な香りと、よく合い酒が進む。
そして『馬肉バル新三よし』に来たら欠かせないのが「おたぐり鍋」。馬の腸を煮込んだ煮込み料理で、飯田市発祥の郷土料理である。下処理をする際、腸の内容物を取り出し、塩水できれいに洗うのだが、その際に腸をたぐり寄せながら洗うことから「おたぐり」と呼ばれるようになった。
牛よりは豚のホルモンに近いが、ややクセが強い。賛否は分かれるだろうが、ハマる人には堪らないだろう。〆で頼んだはずが、ついついビールが進んでしまい、馬肉料理最強の酒泥棒だと思う。立ち寄った際はぜひ頼んでみて欲しい。
【メニュー】
・さくら刺6点盛り 2,290円
・おたぐり鍋(M) 1,300円
・宝馬 830円
【予算】
4,000円〜5,000円
馬肉バル 新三よし
- 電話番号
- 050-5489-3902
- 営業時間
- ディナー 17:00~22:00 (L.O.21:30、ドリンクL.O.21:30)、ランチ 11:30~14:00 (L.O.13:30、ドリンクL.O.13:30)
- 定休日
- 不定休
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松本の郷土料理を制覇するなら『風林火山』がおすすめ!
松本には名物料理がうんとある。しかし松本に滞在する観光客のなかには一晩で街を後にする人も少なくないだろう。そんな方におすすめなのが『風林火山』だ。ここでは馬刺しをはじめ、うなぎ、そば刺しなど松本のソウルフードを数多く取り揃えている。
なかでも珍しいのが「鶏セセリのやたら乗せ」というメニュー。「やたら」とはナスやミョウガ、ぼたんこしょうなどを刻んで味噌や醤油などとともに混ぜたもので、主に北信地域で食べられている郷土料理。シンプルに焼き上げたセセリの上にこぼれ落ちるほどのやたらが乗っており、異なる味や食感を互いに補完し合っているせいかよく合う。
また「信州サーモン」は『風林火山』で絶対頼んで欲しい逸品。これはニジマスとブラウントラウトをバイオテクノロジーによって交配させ10年以上の研究の結果製品化することに成功した養殖品種である。
産卵をしないためそこに必要としているエネルギーがそのままうまみとなり、肉質が細かく、とろりととろける舌触りが特徴である。味を楽しむだけでなく「海なし県の長野で育ったサーモンを食べてきた」なんて話も、土産話にはちょうどいいだろう。
そのほかにも特製だれに漬け込んだ「馬のレバ刺し」、長野県の契約農家から直送された新鮮な野菜を使った「旬野菜の天ぷら」など、長野県ならではの料理が多い。短期滞在の人が松本で行くべき酒場を問われたら『風林火山』を推したい。
【メニュー】
・そば刺し 450円
・鶏セセリのやたら乗せ 750円
・信州サーモン 1,000円
・馬のレバ刺し 1,500円
・旬野菜の天ぷら 650円
【予算】
3,000円〜4,000円
風林火山
- 電話番号
- 0263-35-7872
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ローカルをディープに楽しむなら『まこちゃん』へ
旅先でのグルメの楽しみは、郷土料理を味わうことはもちろんだが、地元民との”絡み”も大きな醍醐味と言える。地元の人たちはその街の楽しみ方を知っており、ガイドブックやインターネットで得られない情報を与えてくれるのはもちろん、何より県民性や習慣を直接感じ取ることができる。
そんなこともあって私は旅行先では必ず、地元の人しか集まらないような居酒屋へ足を運ぶ。今回の松本でいえば『まこちゃん』がそれに当てはまる。
観光客だと思われたからか、おすすめを聞くと「馬刺し」だという。そこで「地元の人が頼むものは何か」と聞くと、会話を聞いていた隣のお客が「まこちゃん、彼にあの裏メニュー出してあげなよ」なんてノってきた。
「郷に入ったら剛に従え」のモットーの元、店主おすすめの「馬刺し」と、「あの裏メニュー」を頼んだ。
数分すると馬刺しが運ばれてきたのだが、その量に心底驚いた。シンプルな赤身で、切り方は専門店と比べると多少乱雑かもしれないが、これだけのボリュームで1,058円! 観光客向けの店では考えられない。
そもそもぶつ切りにカットされた馬刺しを食べるのが初めてだが、タレや生姜の味に負けず、噛めば噛むほど馬肉本来の甘みやうまみを強く感じる。
そして、あの裏メニューの正体は「山賊焼」であった。山賊焼とは、鶏もも肉をニンニクやタマネギを効かせた醤油タレに漬け込み、片栗粉をまぶして揚げる信州の郷土料理。他店では鶏もも肉を使用するのだが、『まこちゃん』ではお腹いっぱい食べてもらいたいからと鶏むね肉を使用している。
またもやとんでもないボリュームに腰を抜かしそうになるが、想像以上にさっぱりしているので、ぺろりと平らげることができる。それにしてもこの量で770円! メニューにのせていない理由も頷ける。
やはりローカル酒場は良い。最近の松本の流行り、市民の性格、街の経済状況。他では聞けない深い話を地元民から直接聞くことができる。それもまたいい酒のアテになるのだ。
【メニュー】
・馬刺し 1,058円
・山賊焼き 770円
【予算】
2,000円〜3,000円
居酒屋 まこちゃん
- 電話番号
- 0263-34-0199
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
松本のいいところは郷土料理が観光客向けではないということだろう。近年、観光客誘致のためご当地グルメを全面に押し出す市町村を見ることが増えたが、「地元の人はそんなものまったく食べないよ」なんていう話もよく聞く。
しかし松本の酒場をハシゴして気がついたのは、馬刺しもとうじ蕎麦も山賊焼も地元の人が進んで注文しているということ。これらのメニューはどんな居酒屋にも用意されているうえ、スーパーでも陳列しているので自宅でも食べる機会が多い。
そんな本当の意味での郷土料理を楽しみに松本へ足を運んでみてはいかがだろうか。