飲めるのは日本かフランスだけ? オーヴェルニュ地方で造られる自然派ワインの一つの終着点

【連載】東京・最先端のワインのはなし verre28  ヴァンナチュール。自然派ワインとも訳されるこのワインは、これまでのスノッブな価値観にとらわれない、体が美味しいと喜ぶワイン。そんなワインを最先端の11人が紹介する。

2016年06月29日
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飲めるのは日本かフランスだけ? オーヴェルニュ地方で造られる自然派ワインの一つの終着点
Summary
1.いま注目すべき自然派ワインの産地、オーヴェルニュ
2.一つの畑からできるワインはごく少量、フランスと日本での消費がほとんど
3.ソーヴィニヨン・ブランとは思えない味わいとアルコール度

パリのカフェ文化を作ったオーヴェルニュ人

エッセイスト・玉村豊男氏の『パリのカフェをつくった人々』(中公文庫)という著作に、オーヴェルニュの人々の話が登場する。パリの文化の象徴とも言えるカフェのオーナーは一時期その8割がオーヴェルニュ出身者だったというのだ。

17世紀末、フランスの中南部、中央山塊に位置するオーヴェルニュという貧しい地域から多くの人びとがパリに出稼ぎにやってきた。屈強な身体と元来働き者の性質を持つ彼らは、パリジャンがやりたがらない仕事を引き受けた。有名なのは水を運ぶ仕事。大量の水が入った桶をかつぎ、彼らはパリの街を売り歩いた。ただ売り歩くのではなく、その重い水をエレベーターなどない当時のアパルトマンの上階まで運ぶといったような仕事をしていた。

その後、19世紀半ばにはパリの水道網は整備され、水を運ぶ仕事は必要ではなくなるが、湯とバスタブを持って富裕層に風呂を提供する仕事や炭売りなどとして生計を立てたという。そして、炭を売るための店舗で酒を売るようになったのが、こんにちのカフェのルーツだとされている。

そんなオーヴェルニュは、いまだに交通の便が良いとはいえないエリアだ。そして何より山がちなため、他の地域からは閉ざされた世界というイメージを持たれることもある。ゆえに近年までは「オーヴェルニュでワインなんて作っているのか?」と真顔で訊くパリジャンも少なくなかった。

だが、そんなオーヴェルニュは近ごろもっとも注目したいワイン産地の一つとなった。
そして、その名声を高めた間違いない一人が今回紹介するピエール・ボージェだ。

ピエールがワイン造りをはじめたのは2001年。たった1.4haの畑を一人で切り開いた。彼のワインづくりには妥協が見えない。採算性を考えなさすぎなので、彼のことを少しでも知った飲み手は、生活の心配をしてしまうほどだ。作業量、収量、リリースする本数の少なさと販売タイミングなどあらゆる面において経営感覚がない。
なにしろ、彼の造るワインは概ね、9.0hl/ha。つまり、1ヘクタールにつき、900リットル。これは、例えばドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)が良年のグラン・クリュで30hl/ha、悪い年で10hl/haというから、その凄さがわかるだろう。そして彼の畑は一つのキュヴェでだいたい0.5haなので、450リットルと考えると単純に600本しか造れない計算になる。だから、いまピエール・ボージェのワインを手に入れるのは困難を極める。

Jauni Rotten (Vin de France Blanc SB11) / Pierre Beauger(ジョニ・ロットン/ピエール・ボージェ)

そんな造りはもちろん、今回紹介する「Jauni Rotten」と名付けられたキュヴェにも表れる。2006年に植樹したソーヴィニヨン・ブランから造られているのだが、ブラインドテイスティングではおそらくほとんどのソムリエが当てることは出来ないだろう。ワインの色は濃い山吹色。香りもソーヴィニヨン・ブランのそれはほとんど感じない。

輸入元の資料によると、ジョニ・ロットンという名前はもちろんSex Pistolsの元ボーカリスト、ジョン・ライドン=ジョニー・ロットンから漬けられたようだ。 フランス語で「Jauni Rotten」は、直訳すると「腐った黄色」となる。
そしてワインのエチケットの下の方に”Seuls les idiots s’interdisent d’aimer les choses differents sous pretexte que ca ne correspond pas a une etiquette”(J.Rotten)とあるのは、OASISについて言及した際に実際に言った言葉のようで、「同じジャンルに属さないといって、違うものを好きになれないのはバカだけだ!」といったような意味とのこと。

つまり「見た目(エチケット)と中身が違うってことで、ラベルは腐った黄色いワインってなっているが、飲んだらすごくおいしいのに、でもラベルと違うから飲まないと言うのはバカだけだ!」と、ピエール・ボージェは言いたいのだろうとしている。

最新の白「Not for highway use」やピエール・ボージェ好きなら飲んだことがあるという人も多いであろう「Le Champignon Magique」しかり、いつもパンクでロックなメッセージを送り続けている醸造家だ。

ナチュラルワインの世界を知った人がたどり着く一つの答えとしてのピエール・ボージェをこんかい語ってくれたのは、六本木のワインバーにして、いまや名物のステーキとワインを愉しむために夜ごと肉好きワイン好きが集まる、日本におけるナチュラルワインの総本山『祥瑞(ションズイ)』の柴山健矢さんだ。

<柴山さん>
初めて飲んだとき、あまりの衝撃にこの人の造るワインをかたっぱしから飲んでみたいと思ったのが、このピエール・ボージェです。今はなきドメーヌ・ペイラとこのピエール・ボージェがあったから、オーヴェルニュというワイン産地が僕の中で重要な場所になりました。

だから、どうしても彼に会いたかったんです。それで、2013年にフランスのワイナリーを巡ったとき、彼のもとにはメールもなにもないけど、奇跡的に連絡が取れて伺うことができたんです。

気難しい人かと思っていたんですが、僕のために長い時間を空けていてくれて、畑もカーヴも案内してくれました。彼は、明るいフランス人の“サヴァ”って感じの人物ではなく、凛と構えていてアーティスト然としている。

それで、畑見せてもらうとまったく剪定が終わっていない。だって、一本一本枝のかたちを見て切り方を考えているんですよ。しかも4月に、、、
そんな光景を見ながら話をしていて「俺のワインは高いというけど、これだけ人生かけてやっているので高いわけ無いだろって」言い切っていたんです。
実際、それだけのことはあると思うし。こんな人はなかなかいないと思います。お金がなくなったらといって熟成途中のワインを売ってしまうなんていうこともしない。
とにかく、感性がずば抜けていましたね。

確かに自然派ワインの生産者って、商売という感覚でやっているという人は少ないだろうけど、彼は特に壺を作ったり、絵を描いている人と共通する何かがある。
エチケットがルーズリーフなのも「上書きしない、一点物」感がありますね。
毎回、ルーズリーフを切り離す如く一つのキュヴェに対する想いは強いと思います。

そして、ワインはテロワールを表現するというけど、土壌だったりするのはもちろん、造り手の個性、人柄が出るなと、彼のワインを飲むと思うんです。

このジョニ・ロットン含め、彼の造るワインは一筋縄ではいかないものばかりです。一つ一つのキュヴェ、すべて軽いものでははないです。けれど、だからと言って重苦しいとか野暮ったいとかではないんです。
彼のワインのことを高いという人もいるけど、それだけのことはあります。現場に行って納得できました。もはや、絵画を買うような感覚です。ワインなんだけど、ワインじゃない
とでもいうのか。。

そして、僕が彼のカーヴを見せて見らったとき、樽から飲ませてもらったのがこのジョニロッテンです。ソーヴィニヨン・ブランとは思わないですよ。「すげー」と思いました。ソーヴィニヨン・ブランのハーブっぽい青みはまったく取り払って、カリンの飴というか蜜のような印象。アルコール度も16.3%もありますからね。だから、抜栓してずっと置いておいて半年経ったあとでもあまり変わらなかったです。
なかなか飲めないワインだと思いますが、見かけたらぜひ試してみてください。

祥瑞 (ションズイ)

住所
〒106-0032 東京都港区六本木7-10-2 三河屋伊藤ビル 2F
電話番号
03-3405-7478
営業時間
18:30~21:30
定休日
定休日 日曜
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/3xkst70a0000/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。