巣鴨の名店『手打そば 菊谷』が開いた1日数組限定の別亭は、そば好きのためのオアシスだった!

2017年05月09日
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巣鴨の名店『手打そば 菊谷』が開いた1日数組限定の別亭は、そば好きのためのオアシスだった!
Summary
1.本当に蕎麦が好きなら隠れ家『菊谷 大塚別亭』が楽しい理由
2.酩酊覚悟で臨みたい、希少な日本酒とこだわりの蕎麦前
3.産地や土壌の違いまで食べ比べできるオタク系蕎麦を堪能

“おばあちゃんの原宿”として有名な巣鴨。JR巣鴨駅前から都電荒川線・庚申塚駅まで続く巣鴨地蔵通り商店街の途中に、名店『手打そば 菊谷』は存在する。「趣味が高じて蕎麦屋になりました」と柔らかい趣で話すのは、店主の菊谷修さんだ。

蕎麦好きのための“オアシス”誕生物語

こちらの気鋭の蕎麦職人の経歴は、少し珍しい。会社員時代に趣味でそば打ちを始めた。仕事の傍ら週末は埼玉県・秩父の畑へ通い、蕎麦の栽培や収穫に夢中になっていく。その縁から今はなき伝説の蕎麦店『こいけ』に弟子入り。その後、自身の蕎麦店を石神井に開業した。6年後、故郷の巣鴨で両親が営んでいた仕立て屋を改装し『菊谷』を構えて繁盛店となった今、「もっとお客様との距離を縮めたい」との想いから、カウンターがメインの蕎麦店『菊谷 大塚別亭』の暖簾を2017年2月に掲げた。

ガラリと戸を引くと、カウンター奥にぎっしりと並ぶ一升瓶が目に飛び込んでくる。店主の格好は本店と同様、ねじり鉢巻きに鯉口(こいくち)姿。変わらない庶民的なスタイルに、安堵する。菊谷さんの代名詞“蕎麦と酒”が堪能できる、こちらの『別亭』を訪れるなら、前日までの予約が必須。行列ができる本店とは違って、ゆっくりと酒が嗜めるよう、メニューは昼・夜共にコース料理のみで、1日数組限定なのだ。上酒片手に贅沢なおもてなしが堪能できる“大人のオアシス”を覗いてみる。

呑んべえ店主ならでは!嬉しいアイデア溢れるコース料理

『菊谷』の蕎麦前は、古くから親しまれてきた肴はもちろん、今風にアレンジされたものまで豊富に取り揃えている。日本各地のうまいものを巡っては食材を集め、手作りで賄われているこだわりの肴は、愛情を感じるものばかり。「食べ歩きをしていたとき、食べたいものを全部頼むとどれも量が多くて一人じゃ食べきれない!という経験をよくしました。だけど、魅力的なメニューがたくさんあって、あれもこれも食べたいんですよ。そんな僕のわがままから、うちではちょっとずつ盛り合わせにして提供しようと思いました」という通り、別亭では「三点盛り」(写真下)が登場。

こちらは本店でも人気の定番メニュー。写真左の「チーズのかえし漬け」は、まったりとなめらかな味わいのクリームチーズと、醤油のうまみをしっかり感じる濃厚なプロセスチーズの2種類を用意。懐かしい香りとさっぱりとした味わいの「おばあちゃんのぬか漬け」(写真中央)は、瑞々しい野菜たちが優しく口の中で弾ける。楢と蕎麦殻で燻された「鯖の燻製」(同右)は、しっとりとした身の中に、きれいな脂の甘みと芳ばしい香りが閉じ込められている。こちらは猪口を運ぶ手が早くなる。

続く「酒肴2品」も、店主の酒好きがうかがえる魅力的なメニューばかり。まず一品目は、透き通るように美しい「福島県・会津坂下町(ばんげまち)の馬刺し」(写真下)。

シンプルなモモの赤身は驚くほど柔らかく、口に含むと体温で溶けていく。

2品目は、贅沢にも凝った肴が再び盛り合わせで登場。「大将!次のお酒!」と、ピッチもあがる。

写真左から「伊豆鹿の燻製」は、滋味豊かな鹿の野性味と肉のうまみが力強い。店主の兄お手製「鶏のレバーペースト」(写真中央)は日本酒に合うように、蕎麦のかえしに加えて和風テイストに仕上げられている。付け合せの蕎麦チップスにのせると、食感も楽しい肴に変身。「宮城県東松島市・鳴瀬カキのオイル漬け」(写真右)は一粒でも十分食べ応えのある身振り。オイル漬けすることでカキのうまみが閉じ込められて、より濃厚な風味と弾力が増す。

お客と蕎麦の距離が近づく、『大塚別亭』限定の唎き蕎麦

食べ比べと言っても、せいろと田舎……といった種類違いの盛り合わせだけでは終わらないのが『菊谷』流。「全国各地にはさまざまな品種の蕎麦があり、それぞれに個性があることを知りました。個性溢れるお蕎麦の味を楽しんでもらいたいので、“唎き蕎麦”をはじめました。『別亭』では、3種から多いときは8種ほどの蕎麦を用意しています。だいたい3種類で1人前くらいの量かな」と話す菊谷さんの表情からは、止まらない蕎麦への愛が伝わってくる。この日はコースにある4種の唎き蕎麦をいただいた。

使う蕎麦粉の産地や品種、ブレンドの割合からつなぎ粉の割合、打ち方までその日の気分で毎日変わる『菊谷』には、老舗のような“店の味”などない。ただ“おいしい”と喜ぶお客の顔を想像しながら蕎麦を打つ先にあるのは“一期一会の味”である。カウンターの奥からは、まるで何やら実験でもしているかのような店主のこだわりが湯気とともに漂ってくる。

一枚ずつテンポよく、蕎麦が運ばれる。まずは写真・左上「長崎県諫早産の高来(たかき)在来種2年熟成と、栃木県益子産契約栽培した秩父在来種のブレンド 二八蕎麦」からスタート。優しくまろやかな口当たりの二八蕎麦は、1枚目にふさわしく甘く軽やかな印象だ。

次は写真・右下の「栃木県益子産の玄そばをひいた粉をブレンドして、打ってから2日熟成させたもの 二八蕎麦」。鼻先を寄せると穀物の香りが鮮やかに押し寄せてくる。茶豆のような甘みやうまみ、噛むほどに増す芳ばしさに魅了される。

若草色が美しい、写真・左下「千葉県成田産の千葉在来種 十割」は、若い農家さんが育てているからか、香りや色味も若々しい。つるんとした喉ごしと、瑞々しくさっぱりとした風味を感じる。

4枚目の写真・右上「茨城県金砂郷(かなさごう)赤土村 焼き畑農法手刈り天日干し 十割」は、菊谷さん自ら仲間を集めて蕎麦を刈り、1〜2週間かけて天日干したもの。こうすることで茎や葉の養分が全て実へと届くそうだ。しっかりとした太麺にすることで、ミネラルの風味がより一層力強く味わえる。噛みしめれば穀物の甘みが広がり、香りがしなやかに鼻腔を抜けていく。

個性的な蕎麦に寄り添うつゆ(写真上)にも秘密がある。「つゆはあくまでも引き立て役。おいしいけれど、おいしすぎないを目指して作っています」とサラッと言うが、材料には一切妥協しない。

鰹節だけでも、血合い抜きの粗節に、亀節、本節を使用。福井の昆布問屋の蔵で寝かせた、礼文島・香深浜産の天然利尻昆布は、バランスのよい等級のものだけを仕入れている。干し椎茸のうまみ成分グアニル酸をほんの少し加えてだしをひき、4種をブレンドした醤油を加えて“『菊谷』の蕎麦つゆ”は完成する。蕎麦にうまみを添える程度の控えめな味わいは、計算し尽くして生まれた名脇役なのだ。

「唎き蕎麦といっても難しいことは考えず、ただ蕎麦を楽しんで食べてもらいたい」と、カウンター越しに目尻を下げて幸せそうに話す菊谷さん。たしかに理屈やうんちくはいらない。少年のように実直に蕎麦を愛する店主との距離も縮まった『別亭』は、本店とはまた違った蕎麦の楽しみを教えてくれる。常連になって、いつか自分好みの“オーダーメイド”の蕎麦を打ってもらえたら…・。ひそかに夢をふくらませながら、大人のオアシスを堪能した。

(撮影/岡本寿)

【メニュー】
コース 3,500円(2名様より)、5,000円(1名様より)、7,000円
日本酒 一合600円〜
※価格は全て税別
※ランチ、ディナー共に内容は同じ
※前日までの要予約。ランチは2名から、ディナーは1名から
※予約先は巣鴨本店まで。電話の際に、『大塚別亭』の予約とお伝えください。

菊谷 大塚別亭

住所
〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-34-10
電話番号
03-3918-3462
営業時間
13:00〜14:30、18:30〜21:00
定休日
月(祝日と4のつく日は営業、翌火曜日に振替)
公式サイト
https://plaza.rakuten.co.jp/osmsobano1/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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