本物のビール党だけに教えたい! ビール管理に徹底してこだわる、うまいビールと洋食の老舗『ランチョン』

【連載】老舗の当主が明かす「老舗が愛され続ける、隠れざるヒミツ」。老舗を守り続ける当主にインタビューを敢行し、「老舗の逸品」「老舗のおもてなし」にスポットを当てる。
♯4『ランチョン』

2018年05月17日
カテゴリ
レストラン・ショップ
  • レストラン
  • 神保町
  • 洋食
  • ビール
  • 老舗
  • 連載
  • 東京
本物のビール党だけに教えたい! ビール管理に徹底してこだわる、うまいビールと洋食の老舗『ランチョン』
Summary
1.神保町のハイカラな文化人に愛された! 洋食&ビールの新スタイル『ランチョン』
2.正統派の洋食と、ビールに合うオリジナル料理の両方が楽しめる
3.一子相伝の注ぎ方と、徹底した品質管理がビールのおいしさを生む

明治42年創業。ビールと洋食の組み合わせで、神保町の文化人に愛されてきた老舗

日本でビールの製造が始まったのは、明治初期。庶民にとっては高嶺の花であったビールは大正時代に入り、やがて街のカフェやビアホールで飲まれるようになっていく。その先駆け的存在として人気を博したのが、東京・神保町の『ビヤホール ランチョン』。現在も1日200杯のビールを売る人気店だ。そんな『ランチョン』の4代目オーナー、鈴木寛さんがそんな人気の秘密を話してくれた。

店名がなく“角の洋食屋”でスタート! 常連の学生が「ちょっと気取ったランチ」=『ランチョン』と命名

 
――まずは、お店の創業について教えてください。

鈴木:「当店の創業は、1909(明治42)年。初代の鈴木治彦(氏)が、現在の場所よりももう少し駿河台交差点寄りの一角に開いた西洋料理店が前身で、創業時からビールを提供していたそうです。当時はまだビールが家庭に普及しておらず、ビールと洋食を売りにする店というのも界隈にありませんでしたから、店名もなく『角の洋食屋』として営業していたそうです。あるとき、常連客だった東京音楽学校(現・東京藝術大学音楽学部)の学生さんたちが『名前がないのは不便だから、“ちょっと気取ったランチ”という意味の“ランチョン”(Luncheon)ではどうか』と名付けてくださったのを、店名として今日まで使わせていただいています」

鈴木:「神保町は、世界有数の古書店街として知られていますが、もともとは明治時代に様々な大学や出版社が建てられたことをきっかけに、大学教授や学生、情報人が集う街として発展してきた経緯があります。当時から“新しいもの好き”の人々が集まってくるハイカラな街でもあり、今でも『先生』と呼ばれる立場の方や、出版関係者と作家さんや著名人もよく訪れます。長く通ってくださる常連のお客様が多く、年齢層もやや高めですね。平日でも、お昼からゆっくりとお酒を楽しむ方が多くいらっしゃいます」

――ノスタルジーを感じる内装も素敵です。

鈴木:「1923(大正12)年の関東大震災でこの一帯は焼けてしまい、その後の区画整理ののちに現在の場所に移転しました。震災後に土地を買ったときには、かなり借金をしたと聞いています。その後、第二次世界大戦では幸い戦火は免れましたが、戦時中は物資が配給制でしたので、配給のある日は『今日、ビールあります』と貼り紙をすると、長い行列ができたそうです。戦後、外装は何度か改装しており、1982(昭和57)年に現在の建物になりました。店内は110席と、神保町の飲食店の中ではかなり広いほうです。神保町の街並みを眺められる窓際の席が人気ですね」

▲鈴木 寛(すずき・ひろし)
1965年生まれ。鈴木家の次男として生まれ、兄と弟がいる。高校生の頃から店を手伝い、大学卒業後、3代目の父・一郎氏とともに老舗の経営を支えてきた。2015年に4代目に就任。

伝統的な洋食に加え、オリジナルのおつまみも豊富!

――人気のお料理について、教えてください

鈴木:「メンチカツやハンバーグ、オムライスなど、洋食屋の定番メニューが中心です。デミグラスソースは2週間かけて仕込み、エビフライは特大サイズの天然エビを使用。オムライスはケチャップライスを薄焼き卵で包んだ昔ながらのスタイルです。今は、『帝国ホテル』にいた料理長が担当していますが、代々の料理長が昔の味をそのまま継承しているので、『いつ来ても変わらない味だね』と懐かしんでくださるお客様が多いですね」

鈴木:「一方で、ビールに合うオリジナルのオードブルに関しては、40年ほど前から増やしてきたメニューです。作家の故・吉田健一氏のリクエストから生まれた『ビーフパイ』をはじめ、ロールキャベツをミルフィーユ状にしてビールで煮込んだ『キャベツ重ね焼き』、ジャガイモやエビ、チーズを軽い塩味のスープで煮込んだ洋風肉じゃが風の『ランチョン風ポテト料理』、柔らかく煮込んだ『塩タン』の4品は、オリジナルの名物メニューとして愛されています」

鈴木:「オリジナルのメニューでは『オムレツ』も人気です。オムライスもあるのにオムレツ? と思われるでしょうけれど、オムライスにはないトロッとした卵の食感は、熟練のシェフならではの技。また、ベシャメルソースを添えるのも特徴です。当店はビール以外にもワイン、ウイスキー、日本酒など様々なお酒も揃えています。お一人でいらしても楽しめるように、一部のメニューはハーフサイズも用意しています」

こんもりの泡と、マイルドな炭酸、冷たすぎない温度がおいしさの決め手!

――もう一つのこだわりである、ビールについて教えてください

鈴木:「当店は、『大日本麦酒』(現在のアサヒビール、サッポロビールの前身)の工場に近いという立地もあって、創業時からアサヒビールを提供しています。今のような流通がない時代からビールは鮮度が大事でしたから、ひときわおいしいと評判だったそうです。現在は6種類のビールを提供していますが、なかでもおすすめは『アサヒ生ビール』。大阪・吹田工場でしか製造されておらず、業務用でしか流通していない通称『マルエフ』をお出ししています」

鈴木:「ビールに関しては、代々当主のみしか注がないのがしきたりになっており、現在は私一人ですべてのビールを注いでいます。当店のビールは、マイルドで飲みやすい、という声を多くいただきますが、その理由は適正な温度管理と注ぎ方にあると思います。ビールは冷たすぎるとおいしさを感じにくく、また炭酸がきついと辛く感じてしまいます。当店では、ディスペンサーの冷却温度をその日の気温に応じて最も飲みやすい温度に調整しています。また、クリーミーな泡で蓋をしてビールの酸化を防ぐことで、最後までおいしく飲むことができるのです」

鈴木:「注ぎ方としてはまずビールを注ぐ直前に、グラスの内側に冷水をかけ水の膜を作り、グラスの半分くらいまでビールを注ぎます。最初は勢いよく注ぐことでガスがほどよく抜けて、飲み口がとてもマイルドになります。その後、2~3分待つと表面に硬い泡ができますが、これが蓋の役割となってビールの酸化を防いでくれます。仕上げにもう一度泡を注いでこぼし、きめを調えれば完成。泡とビールの割合が3:7になるのが黄金比率です。グラスが綺麗でないと泡ができないので、グラスの洗浄にも気を配っており、料理の皿とは別に洗い、丁寧に乾かします。もちろん、ディスペンサー内部も毎日丁寧に洗浄し、ビールの味が劣化しないように気を付けています。ビールの香りを損なわないためメニューにコーヒーを置いていないのも、創業以来のこだわりです」

愛する街で、老舗としての暖簾を守り続ける

――老舗ならではの苦労や大変さはありますか?

鈴木:「少し前までは、弟が一緒にビールを注いでいたのですが、独立して別の店をもったので、今は私一人しか注ぎ手がいないのがちょっと大変だなと感じることはあります。でも、お客様は、アルバイトではなく店主がいつもビールを注いでくれるということに安心感を持って下さっていると思うので、いずれ息子が店を継ぐまで、頑張りたいと思っています」

鈴木:「私は、神保町が世界で一番素敵な街だと思っています。どこに行っても知り合いがいて、昔から『ランチョンのひろし』と可愛がってもらっていました。最近は神保町も客層が変わり、週末はご家族連れや観光のお客様も多く、ファミレスのような賑わいになることも。女性のお客様も増えたので、数年前のリニューアルの際には、女性用のトイレを増やしました。神保町は、学生相手の安い飲食店をはじめ、カレーや喫茶店などが多くグルメな街としても知られていますが、老舗は数少ないので、これからも街の洋食店として、歴史を守っていきたいですね」

【メニュー】
エビフライ 2,600円
自慢メンチカツ 1,100円
ハンバーグ 1,150円
オムレツ 1,000円
キャベツ重ね焼き 1,100円(ハーフ600円)
ビーフパイ 1,400円
ランチョン風ポテト料理 850円
※価格は税込

ランチョン

住所
東京都千代田区神田神保町1-6
電話番号
050-5494-8830
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
営業時間
月~土
11:30~21:30
定休日
日曜日
祝日
年末年始
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/e019600/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。