自他共に認める日本酒好きのフリーアナウンサー「あおい有紀」が“和酒”の魅力を発信!
いま空前の和酒ブーム! 日本酒や焼酎、日本ワインなどの“和酒”が楽しめるお店が急増している。けれども本当においしい魅力的なお店は? そのお店のお酒や料理はどう楽しめばいいの?
唎酒師、焼酎唎酒師、一級フードアナリストなどの資格をもち、大のお酒好きとして各メディアで活躍中のフリーアナウンサー、あおい有紀さんが自分の足で探し歩いた「とっておきのお店」を訪れ、選りすぐりのお酒と料理を実際に味わいながらじっくりとその魅力を発信。
今回は、大門の路地裏にある、『SAKE Scene ます福(サケシーン ますふく)」をご紹介します。エントランスはまるで蔵の入り口のよう。入店する前から期待が高まります。
フレンチ×日本酒が楽しすぎる! 「新しい扉」を開いてくれる店
「枡」をイメージしてデザインされた和モダンな雰囲気の店内。居心地のよいゆったりとしたテーブル席とカウンターで構成されています。
2016年10月1日、日本酒の日にオープンした『ます福』のオーナー、簗塲(やなば)友何里(ゆかり)さんは、外資系企業で貿易の仕事に従事されていた関係で、英語がとても堪能。そのためか、日本人にアテンドされた外国人のお客さまも多く訪れます。
日本酒のつながりで知り合い、昨年、こちらの店に初めて伺いましたが、「燗酒と本格的なフレンチ」というコンセプトを掲げており、それらの見事なマリアージュにとても感動しました。
簗塲さんは日本人だけでなく、海外の人にも日本酒の魅力を広めたいという思いからこのお店を開きました。もともとお酒が好きで、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートの資格や、WSETというワインの国際資格も取得されています。ワインになぞらえて、日本酒の味わいの特徴を説明されるのがとてもお上手です。
着物がよくお似合いで柔らかい物腰の簗塲さん。お話からも日本酒への愛が感じられます。お料理にフレンチを選んだのは、ご自身がお好きだったことももちろんですが、海外の方に日本酒を広める際、「洋食にもこれだけ合う」ということを体験してもらいたかったから。お料理はフランスの三つ星レストランで修業経験のあるシェフが担当しています。
お酒は全部で60種類。小規模の蔵元で造られたレアな日本酒をメインに、ビールやシャンパン、和草茶、ラムネもあります。とくに燗酒がおいしくて、感動する方も多いとか。
「温めると香りが変化しておいしくなるお酒というのは、世界でも日本酒ぐらいかと思います。角がとれてまろやかになったり、優しくなったり。そうした変化をお料理と一緒に体験していただけたら」と簗塲さん。
少しずつ揃えたという、素敵な酒器もこちらのお店の魅力。この猪口(写真上)は私も大好きな「美命(みこと)」さんの作品です。特注で作ってもらった平杯を、枡にのせて提供。枡の木の香りは、繊細なお酒の香りを邪魔してしまうことがあるので、枡にはお酒を注がず、「杯台」として使われています。猪口を上げ下げするときにこういう台があると転ばず安定しますし、とてもいいアイデアですよね。
では、さっそく『ます福』のお料理とお酒のマリアージュの魅力を紹介しましょう。
日本酒がクラシックなフランス料理に寄り添うワケとは?
1品目はさっぱりとしたひと皿「鰹の酢締め エマルジョンソース」(写真上)。鰹は築地の場内で仕入れた新鮮なものを酢締めに。ソースは、海水の中を鰹が泳ぐイメージで作られています。ハーブの香りにヨード感を加えた味わい。スプーンですくっていただきます。
合わせたお酒は「都美人 山廃純米」を冷やで。パイナップルやパッションフルーツのようなフルーティな香りときりりとした酸味を軸に、うまみもしっかり感じられます。鰹はさっぱりしていながらもパンチのきいたうまみがあり、鉄分も感じられるので、このお酒とよく合います。ソースを口に含むと、ハーブがまたいいアクセントとなり、全体の味わいがよくまとまります。
2品目は「トリュフ温泉卵」(写真上)。フォン・ド・ヴォーのようなうまみのきいたソースは、これだけでもお酒が進みそう。削った黒トリュフの贅沢な香りに、温泉卵のとろりと濃厚なコク、ねっとりしたテクスチャーがたまりません。「トリュフ温泉卵」は、メニューの中でも人気の1品。『ます福』に来たらぜひ食べてみてください。
合わせたのは出雲のお酒「十旭日 生酛 御幡の元気米」。こちらを50℃の熱めの燗にして出していただきました。無農薬の酒米を使った、男前で骨太な味わいのお酒をこの料理と一緒に味わうと、ソースの一部のように一体となり、いつまでも続くような長い余韻が印象的です。
3品目は「アナゴのムースリーヌ アメリケーヌソース」(写真上)。焼いたアナゴをセルクルに敷いて、アナゴのムースを詰めて蒸した一品。甲殻類とトマトに、酒粕を少し加えたソースを敷いてあります。
合わせたお酒は石川・珠洲市のお酒「宗玄 純米 山田錦 無濾過生原酒」。平成27年産の2年熟成のものを47℃くらいの燗にしていただきました。魚との相性がよい能登らしいお酒で、ミネラリーで骨太な味わいなので魚介類のうまみを支えてくれます。酸味もしっかりとありますが優しい感じ。アナゴのムースとぴったり、仲良しな相性です。
4品目は「エゾ鹿のロースト グリーンオリーブソース」(写真上)。エゾシカの赤身の肉をローストし、グリーンオリーブを刻んでマスタードと合わせたソースを添えています。外国人の方はシカ肉は食べたことがあっても、エゾシカは初めてという方が多く、「柔らかくておいしい」と感動されることが何度もあったとのこと。またオリーブソースはけっこうパンチがきいていて、シカ肉に力強く華を添えています。
合わせたのは「旦(だん)山廃純米 無濾過生原酒」を燗で。52℃と、かなり熱めですが、お料理の温度とよく合います。3年熟成なので味わいが濃厚で、骨格のしっかりしたお酒ですが、シカ肉とオリーブソースと一緒に味わうと、グッと優しい味わいになることに驚きました。
写真を見ていただいた通り、こちらのお料理は伝統的なフレンチほぼそのままの印象です。定番のフレンチの素材を使って、伝統的なソースを主体にしながら、日本酒と相性よく仕上げるように、酒粕や味噌などの発酵食品を組み合わせるなどの工夫をされています。日本酒単体でいただくと主張の強いお酒でも、クラシックなフレンチと合わせることで、料理に寄り添い、引き立たせる役割があることを実感できます。
新しい発見だらけ! 日本酒の初心者にこそ来ていただきたい
簗塲さんは英語が堪能でいらっしゃるので、外国人に向けて日本酒やペアリングの楽しみ方などをお伝えいただける場として、『ます福』はすばらしい役割を果たしていると思います。
とくにお燗酒にはこだわりをもつ簗場さん。料理に合わせて温度を変えることはもちろん、純米吟醸酒やにごり酒をお燗することも。ご自身でもあまりツンとしたアルコールの香りが好きではなく、そうした強い香りが出ないように心がけているそう。
「お酒を温めることで香りがふわっと優しくなり、味わいにも奥行きが出てきます」と簗場さん。お燗酒とフレンチとのペアリングが楽しめるというのは、外国人だけでなく日本人にとっても珍しく、ぜひこの感動体験を多くの方にも味わっていただきたいですね。
ゆったりとしたカウンターでお酒をいただきながら簗塲さんとお話していると、時間が経つのを忘れてしまいそうです。娘さんがいらっしゃいますが、子育てしながらも好きな日本酒に精力的に携わり、日本から世界に向けて日本酒の魅力を発信されているのが、女性の生き方としてもとても素敵だなと感じました。
ちなみに、簗塲さんは昨年、国際資格であるWSETの酒部門のLevel 3を取得。この試験はすべて英語で受験しなくてはなりません。海外に行かれることも多く、今年はロンドンで日本酒のよさをPRすべく「日本酒の会」を実施したそう。またパリにおいても京都の日本酒のよさを発信する会を行う予定で、今後さらに活躍の場を広げていかれることでしょう! ちなみに、営業時間外には外国人向けにセミナー&テイスティングのアクティビティも開催しています。
『ます福』へ来れば、日本酒のバリエーションや、フランス料理との相性、温度変化によるお酒の味わいの違いなど、いろいろな体験が一度に楽しめます。日本酒に詳しい方はもちろんですが、日本酒の初心者の方にこそ来ていただきたい。ここで簗場さんとお話しながら、おすすめをいただけば、新しいおいしさの世界を開いてくれること間違いなしです。
【メニュー】
ライトコース 5,000円
季節のコース 7,000円 *予約のみ
日本酒飲み比べセット 3,500円(日本酒50ml×4種類と料理1品)
アラカルト 1,000円~3,500円
※価格は税抜
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編集協力:糸田麻里子(フードライター・エディター)
撮影:佐々木雅久
SAKE Scene マス福
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