とんかつ愛が溢れ出る至福のひと皿! 焼鳥の名手が長年の夢を昇華させた定食屋 外苑前『とんかつ七井戸』

【連載】幸食のすゝめ #087 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2019年03月28日
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とんかつ愛が溢れ出る至福のひと皿! 焼鳥の名手が長年の夢を昇華させた定食屋 外苑前『とんかつ七井戸』
Summary
1.「とんかつ屋をやりたい」という長年の夢を実現。焼鳥の名手の好きが高じてとんかつの定食屋をオープン
2.東京各地や全国のとんかつ屋を食べ歩き、導き出した究極のとんかつ
3.とんかつは純粋にストレートに喜んでもらえる「日常のご馳走」の頂点。最上の食材をリーズナブルに提供

幸食のすゝめ#087、券売機のご馳走には幸いが住む、外苑前。

「今夜、何食べたい?」、何かの節目、夕飯のご馳走を母に聞かれるたび、少年時代の今井(充史)さんはいつも迷うことなく「とんかつ!」と答えた。高校時代は、バイト代が入ると必ずとんかつ屋を覗いた。大型トラックが通る街道沿いによく店が出ていた『三好弥(みよしや)』の味噌かつも大好きだった。

でも、いちばん衝撃を受けたのは、浅草の場外馬券場の帰りに父に連れて行ってもらった『とんかつ河金』だった。万馬券でも当たったのだろうか、機嫌が良かった父は名物の「百匁(ひゃくもんめ)わらじとんかつ」を奢ってくれた。
カツカレーの元祖と言われる「河金丼」と並ぶ店の看板メニューだ。百匁は375g、子どもには大きかったが一気に平らげた。大人になって食べた『ぽん多本家』では、突き出しの小鉢やキャベツまで一切手を抜かない完成度に驚き、とんかつという料理の奥深さに触れた。

やがて、焼鳥という道を天職に選び、銀座『バードランド』、北千住『バードコート』で修業。2006年千駄木に『焼鳥今井』をオープンした。少し落ち着いてきた頃から、早めに仕込みに入ってはランチでとんかつ屋を食べ歩いた。

日本酒やワインの試飲会に出かける時も、近隣のとんかつ屋をチェックした。
とにかく、とんかつが大好きだったから、いつの頃からか「とんかつ屋さんをやりたい」という夢がどんどん膨らんでいった。
そして、千駄木から外苑前に移った『焼鳥今井』の隣りが空いた時、とうとう夢は現実に向かって走り出した。

今井さんの桃源郷、『とんかつ七井戸』のスタートだ。

「千駄木時代、日曜日だけ、ランチで親子丼を出してたんです。その時、お客さんの反応がすごく良くて、ご飯ものって楽しいんだなぁって思ったんです。純粋にご飯を売るって、こんなにストレートに人に喜ばれるんだ。だったら、いつか定食屋をやりたいなって」。もちろん、今井さんにとって最上の定食はとんかつだった。

肉と火の関係には、焼鳥で培ってきた膨大な蓄積があった。焼きと揚げ、鳥と豚、その違いは大きいとしても、とんかつを科学することは可能だと思った。しかも、脇役であるご飯、味噌汁、お新香のトリオがそれぞれ素晴らしい「定食屋としてのとんかつ屋」を目指すこと。そのきっかけになったのは、御徒町の『とん八亭』との出会いだった。
名立たる超有名店のような派手さはないが、とにかく何を食べてもうまい。

「どれを食べても、抜かりなくおいしいんです。高田馬場の『とん太』さんも、そうでした。食べてるそばから、また食べたくなる」、求めるとんかつの方向性が少しずつ定まって行った。どの店も、とんかつに揚げ手の人柄が滲み出ている、そんな店を造りたい。
味噌汁とお新香には、今井さんならではのアイデアがあった。3種の味噌をブレンドして、味噌の風味が飛ばないように小分けにして温める。具は『豆源郷』の京揚げ1種、山椒を振って京風にあつらえる。合わせるお新香も京都『志ば久(しばきゅう)』、しば漬けの最高峰だ。
 
ご飯は新井薬師の割烹『柾(まさき)』に出会ってから、羽釜とお櫃(ひつ)と決めていた。
「ご飯って、こんなにおいしいんだってびっくり、どれだけ冷めてもおいしさが変わらないんです」。
しかも、ご飯の注文がばらつく夜には、温度を一定化するため羽釜と土鍋を使い分けるというこだわり。定食屋の命はご飯にあると信じる所以だ。

「おかずがなくなったら、とんかつの衣を乗せて、しば漬けでもう1杯」、微笑みながら装ってくれたご飯は艶やかに甘く、もう1つの料理のようだ。

今井さんが求めるとんかつを形にする料理人は、赤坂から小石川に移った『フリッツ』や巣鴨の『亀かわ』に立っていた菊井(誠)さん。
今井さんの熱いエールと薫陶を背に、火の匠、焼鳥のマエストロがイメージするとんかつを揚げる。

水分を飛ばしたパン粉を使い、下味を施さず低温のラードでゆっくりと揚げ、油をしっかりと切って少し長めに休ませる。
余熱で肉の芯まで火を通すと共に、衣でふっくらと蒸し焼きするためだ。使用する豚肉は霧島黒豚、きめ細かい肉質と、スッと溶けて行くコクのある脂、低温揚げには最適な銘柄に間違いないだろう。

肉そのもののポテンシャルを活かす調理と調味料

サクっとした衣の食感、心地好いラードの香り。最初は何も付けずに、豚肉そのものの味を楽しむ。

ロースかつの脂は甘く、肉は意外にさっぱりとしているが滋味に溢れ、どんどん箸が進む。

筒状のまま、繊維に沿って揚げた厚切りヒレかつは、驚く程柔らかく、味が濃い。卓上のゲランドの塩をごく少量添えれば、ヒレそのものの味が際立ち、肉を食べる至福に包まれる。ゲランドの塩は、太陽と風の力、粘土の地層を活かした構造を持つフランス西海岸の塩田で9世紀以来、自然に寄り添って造られている。

ソースは浜松のトリイソース。生の国産野菜を使い、大正13年から続く伝統の木桶熟成で造られる無添加のソースだ。

選び抜かれたドリンクも自然に寄り添う銘柄たち

入口の券売機に何気なく並ぶドリンクも、『共栄堂』のワインや「生酛のどぶ」、「竹鶴」、「修善寺ベアードビール」など、ナチュラルなものばかりが選ばれている。

単に「泡」と書かれている『中原ワイナリー』の「パパプル」は、ペイザナ農事組合法人で野菜を作っている吉田さんが造った注目の1本。『焼鳥今井』で長年野菜を使っている事で分けてもらえた、貴重な日本ワインだ。

お土産用に用意されているヒレかつサンドのパンは『パーラー江古田』、すべての食材が今井さんならではの視線で統一されている。しかし、あくまでも「とんかつは日常のご馳走」と考える今井さん。最上の食材を揃えながら、価格もリーズナブルに抑えられている。
さぁ、千円札を何枚か握りしめて券売機に並ぼう。

券売機のご馳走には、幸いが住んでいる。

【メニュー】
黒豚リブロースかつ定食 3,380円
黒豚厚切りヒレかつ定食 2,580円
黒豚上ロースかつ定食 2,780円
ヒレかつ定食 1,980円
黒豚ロースかつ定食 2,480円
特ロースかつ定食 1,980円
盛り合せかつ定食(ひれ・ロース・たたき) 1,980円
ロースかつ定食 1,300円
地鶏かつ定食 1,980円
ナチュラルワイン(泡・白・赤) 600円
純米酒(生酛のどぶ・竹鶴) 600円
修善寺ベアードビール 800円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。

とんかつ七井戸(なないど)

住所
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-42-11 ローザビアンカ104
電話番号
080-8190-1331
営業時間
火~金11:30~15:00(L.O.14:30)、18:00~20:30(L.O.20:00)
定休日
日曜・月曜
公式サイト
https://www.facebook.com/tonkatsunanaido/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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