レシピ公開にメディア出演、高級弁当の販売。コロナ禍でもブレない『sio』鳥羽シェフの”本音”に迫る

2020年06月06日
カテゴリ
レストラン・ショップ
  • レストラン
  • 代々木上原
  • フレンチ
レシピ公開にメディア出演、高級弁当の販売。コロナ禍でもブレない『sio』鳥羽シェフの”本音”に迫る
Summary
1.レシピ公開やメディア出演でさらに話題に! 代々木上原『sio』鳥羽シェフ最新インタビュー
2.コロナ禍の影響を受け続けている今でも、考えることはただ一つ
3.1万円を超える、テイクアウト限定の「贅沢弁当」が即完売する理由とは

コロナで変貌する世相、それでも活躍の幅を広げ続ける、『sio』鳥羽周作シェフ

コロナ禍により多大な影響を受ける飲食業界において、その評価を間違いなくさらに押し上げたシェフ、鳥羽周作さん。言わずと知れた、代々木上原『sio』のオーナーシェフだ。

「#おうちでsio」と銘打ったレシピの無料公開にはじまり、オリジナルのバインミーや日替わりの弁当、さらには1万円を超える「贅沢弁当」予約分を毎回一瞬で売り切る。

旗艦店『sio』(代々木上原)は勢いを取り戻し、2020年5月末時点で、向こう1カ月は予約で満席。その姿はまるで、新型コロナウイルス流行という逆風に立ち向かう大きな一枚岩のようだ。

鳥羽さんの疾走感とそのクオリティの高さは大きく注目され、コロナ自粛に疲れる日本人に一筋の光のように映ったに違いない。

活躍の幅は広がるばかり。情報番組に出れば家庭でおいしくできるレシピをテンポよく紹介し、コラボの声がかかれば一瞬で実現させる。なぜそんなことが可能なのか、鳥羽シェフ本人を直撃した。

新しい価値を生み出した、3週間の「自主的ステイホーム」

「3月の上旬から客足が減り始め、様々な飲食店がテイクアウトを開始しました。この時期に料理人としてどう動くべきなのか、僕はそればかり熟考していました。

売上補填のためだけに半端なことはしたくない、それならいっそ弁当についてとことん研究しようと決心し、3月末から3週間のステイホームを開始しました。

そしたら、4月に入って保育園が休園になっちゃって、いつも鳥羽家の男子二人が家にいることに。もう家の中はめちゃくちゃですよ。そうか、みんな家の中がこんな状態なんだと、ハッとしましたね」(鳥羽さん)

3月末から、お弁当(1,500円)とバインミー(1,000円/写真上)の販売を始めていた『sio』。だが自発的ステイホームをきっかけに、鳥羽シェフはレシピの公開という新たな試みを始める。その名も「#おうちでsio」。これが大きな流れを変えた。

僕は皆のために何ができるのか。自問自答から始まったレシピ公開

「バインミーは、興味があったんですよ。おいしい料理なのに競合の少ないニッチなマーケットで、僕らプロ集団が勝負したら絶対に勝てると思っていました。お弁当も、丸の内の『o/sio』 や渋谷の『パーラー大箸』 で洋食を極めているので、他に負けないものを作れる自信があった。でも、できるだけ多くの人に食べてもらいたいから、値段設定は半端にせず可能な限り安くしました。

一方で、お弁当を買いに来れない人もたくさんいるじゃないですか。それに、料理が得意でない人でも、何かしら毎日作る必要がある生活様式になってしまった。そういった方々に向けて僕は何ができるんだろうと考えた結果、レシピの公開を思いつきました。時間をかけずにおいしいものを作るため、レシピをシンプルに、そしてシェアに適した140字以内にするように工夫。唐揚げ、ナポリタン、焼きそばをおいしく作るコツなどを次々と公開しました」(鳥羽氏)

こうして鳥羽さんは、損失補填とは真逆方向に歩み始める。

作る人に寄り添い、皆がおいしく作れるという条件をクリアするため、奥様に試作を頼み一定のレベルをクリアしたレシピのみ公開。その気軽さとおいしさが受け入れられ、多くの人が作った感想をSNS上に投稿。噂が噂を呼び、「#おうちでsio」はステイホーム中のトレンドワードのひとつとなった。

そして、新プロジェクトが動き出す

そんななか、鳥羽さんはある大きなプロジェクトに取り掛かっていた。

テーマは、レストラン『sio』に匹敵する体験を、家庭で再現すること。緩急のある『sio』のコース料理と、店員とのコミュニケーションで生まれるさらなる理解と喜び。それをお弁当という小宇宙で再現しようというのだ。

「お弁当を作るなら、お弁当でしかできないことをやりたいと思った。お弁当の醍醐味って、冷めてもおいしく食べられることじゃないですか。でも、冷めると脂が凝固しちゃうので、バターを使用するなど脂分でうまみを表現する料理は適さないんです。そうなると、和食の発想が大事になってきます。脂分のないさっぱりした料理にうまみを感じさせるため、『sio』の大切にする”五味+1”をイメージし、甘み、酸味、苦味等を適切に加えて味を構成していきました。同時に、最初おいしいものを詰め込んでみた試作品は真っ茶色に仕上がってしまいまして。和菓子の詰め合わせなどを参考に、彩りよく進化させていきました」(鳥羽氏)

今までになかった“物語のような弁当”は、知性をくすぐる未知の体験

そして生まれたのが、『sio』の「贅沢弁当」(写真上)。贅沢弁当とはいったいなんなのか。ご紹介していこう。

ネイビーの紙袋のなかにはネイビーの風呂敷に包まれたお弁当、ネイビーの箸ケース、『sio』のおしぼりにも使われるイケウチオーガニックのハンドタオル、それに手紙と料理の説明が入る白い封筒。出して並べた時点ですでに心拍数が上がりそうな、上質なプレゼンテーションだ。(写真の日本酒はペアリング用のオプション)

お弁当の上段には、鮮やかな彩りのおかず12種類。「イカ墨コロッケ」「牡蠣のソテー 生ハム巻き」のようなしっかりした料理と「キャロットラペ」や「ほうれん草と春菊の胡麻和え」といった脇役がバランスよく配置される。

冷めても味わいが単調にならないようエビを甘めのココナッツミルクでソテーしたり、冷めたハンバーグの硬さを中和するためフォアグラを忍ばせ、キャベツで肉汁を閉じ込めたり。星の数ほどの工夫が詰め込まれているのがわかる。

それぞれのおかずの説明文を読みながら、一つひとつの料理を口に運び、驚いたり深く味わったり、その感想を述べあいながら、自然と笑顔が溢れる。五感をフルに使う知的で刺激的で官能的な時間……、それはまさに、『sio』の店内で体験する時間とリンクする。

「コース料理は一つの物語」と語る鳥羽さんだが、そのままをお弁当で再現するという高度な作品を、ゼロから作り上げたのだ。

ご飯は驚愕のアイデアにより、冷めても立体的な味わいを実現

メインのご飯は「しらすご飯」か「雲丹すき焼ご飯」から選択が可能。

「しらすご飯」は和歌山県の老舗しらす店『山利』のふわふわした釜揚げしらすを贅沢にあしらう。そこにかける合わせだれは、シチリア産オリーブのフレッシュな旨みを凝縮した『セドリック・カサノヴァ』のオリーブオイルと、牡蠣醤油を組み合わせたもの。

絶品のしらすご飯が、この合わせだれによってさらに何層もの進化を遂げ、立体的な生き物になるような不思議な感覚をおぼえる。

「雲丹すき焼ご飯」は、すき焼の卵の役割をウニに担わせ、ウニが牛肉に再び滑らかさという息吹を与える。ご飯はあえて酢飯にし、椎茸の煮物とレンコンのきんぴらを混ぜ込み食感にリズムを作り出した。

「幸せの分母を増やす」それしか考えない、という究極の潔さ

この逆境とも言える社会情勢のなか、あえて新しいことに果敢に挑戦してきた鳥羽さんと『sio』。先の見えない状況の中、迷いや恐怖はなかったのだろうか。

「正直、覚悟がいりましたよ。全ての従業員に給料を出し続けていましたが、僕自身は2カ月間無給だったし、自分の貯金もたくさん会社につっこんで、奥さんにはどうするつもり? とめっちゃ怒られました。

でも、もしこれで店がダメになっても、また小さい店からコツコツとやればいい、と腹をくくっていたのは事実です。僕らはいつも“幸せの分母を増やす” という大きな理念のもとに動いていて、それはコロナだろうがなんだろうが揺らぐものじゃないんです。

新しいチャレンジをする際に、これは幸せの分母を増やすことにつながるだろうか? と常に問い続け、答えがYESであればそれをやるだけ。500円の唐揚げでも、1,000円のバインミーでも、1万円の贅沢弁当でも、客単価2万円の『sio』でも、レシピ公開も、お弁当のデリバリーも、全部同じ気持ちで魂込めてやってます。

あと、僕だけが厨房に立つのではなく、入って数カ月の新人にも前線で働いてきてもらったことが、今になって大きな力になっている。そのおかげで弁当研究に没頭できたし、現在、贅沢弁当に加えてバインミー、お弁当、そしてもちろん店舗自体を安定したクオリティで回すことが可能になりつつあります。だから僕らがやってきたことは絶対に間違ってなかったし、ゴールを設定せず永遠に広げ続けていきたい。奥さんは、仕方ないかって今は言ってくれています」(鳥羽氏)

店舗の売上が戻ってきても、お弁当やバインミーを売り続けると言い切る鳥羽さん。それは売上補填のための一時的な対策でなく、店舗に来られない多くの人にも『sio』の体験を届け、喜んでもらうことに大きな価値を感じているからと話してくれた。

自分たちが社会的に果たす役割を、愛と思いやりに立脚した料理と位置づけ、徹底して理念を貫く『sio』に人々が魅せられる理由は、間違いなくそこにあるだろう。

「僕たちは料理が大好きです。どんなことが起きても料理し続けていたい。ただそれだけが僕たちの願いです。」(贅沢弁当「ごあいさつ」より)

▼鳥羽周作シェフプロフィール
大学卒業後、Jリーグの練習生、小学校教員を経て、32歳で料理の世界へ。神楽坂のイタリアン『DIRITTO』、青山フレンチ『Florilege』、恵比寿イタリアン『Aria di Tacubo』(現在の『TACUBO』)など名立たる名店で研鑽を積み、2016年3月に代々木上原『Gris』のシェフに就任。2018年7月、『Gris』のオーナーシェフとなり、同店を『sio』 としてリニューアルオープン。さらに2019年10月には『sio』の2号店となる丸の内『o/sio』 を、同年12月には純洋食『パーラー大箸』 を渋谷にオープン。日々新しい食トレンドを発信し続けるシェフとして多方面から注目を集めている。

▼テイクアウトメニューの予約方法(記事公開日現在の情報です)
「予約フォーム」にて、毎日10時〜23時に受付。それぞれ下記フォームよりお問い合わせください。
*贅沢弁当につきましては店舗までお問い合わせください。

【テイクアウト】
代々木上原『sio』テイクアウト予約フォーム

丸の内『o/sio』テイクアウト予約フォーム

【当日対応のデリバリー】
chompy(代々木上原『sio』)
※渋谷区周辺エリアのみ配送対応

Uber Eats(丸の内『o/sio』)

sio

住所
東京都渋谷区上原1-35-3
電話番号
050-5487-4412
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
営業時間
月・火・木・金
17:00~23:00
(L.O.21:00)
2時間半制のテーブルとなっております。

土・日・祝日
ランチ 12:00~14:30
(L.O.12:30)
ディナー 17:00~23:00
(L.O.21:00)
2時間半制のテーブルとなっております。
定休日
水曜日
不定休日あり
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/s279sby30000/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。