大阪・新世界の串カツ屋ににみる「コテコテ」と言われる店と客との濃すぎる関係性について

店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。

2015年09月14日
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賢人コラム
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  • 串揚げ・串カツ
大阪・新世界の串カツ屋ににみる「コテコテ」と言われる店と客との濃すぎる関係性について
Summary
・どうしてソースは2度づけ禁止なのか
・板前割烹にも通じる客としてのありかた
・コストパフォーマンスを追求する「消費者的」スタンスの無知
・新世界の一番人気店

大阪で知ること。串カツ「ソース2度づけ禁止」は「作法」ではない「気遣い」である。

大阪名物の一つである串カツ。
というより有名なのは「ソース二度づけ禁止」のアレである。

串カツ屋が駅前のガード下や飲食店街になく行ったことのない他所の人たちは、そのシステムがとても奇異に思えるのか、「楽しそう。一度やってみたい」(もちろん二度づけじゃない。念のため)とか「なんか店に行くと、こわいおじさんがいて叱られそうで」とか、どこか特別な国の特別な店を「体験する」かのようだ。

大阪人にとってはたこ焼きもそうだが、串カツは「わざわざ食べに行く」というものではない。日常のありふれた食べものであり、仕事帰りにビールでも飲みたくなったときにふらっと寄って暖簾をくぐって、「生中とカツ2、イカとキスとシシトウ」とおもむろに注文して、千円で釣りをもらって帰る、というものだ。

もちろん「今日はいっぱい食うて、がんがん飲むぞ」というのもありで、串20本とビール5杯というのもある。
逆にいうとそれだけ守備範囲が広い飲食店の形態である。
もっとも1串100円程度という安価さがそれを担保しているのだが。

けれども大阪も例にもれず、ここ20年ぐらいで街がハンバーガーや牛丼やファミレスのチェーン店で、のっぺり画一化されてきたこともあって、ふと「串カツ食べたいな」というときに「近くにないじゃないか」ということが現実にあって、そういうときは村田英雄の『王将』で唄われる通天閣がそびえる新世界に行くこともある。

「コテコテ」な大阪というものの正体。

新世界は大阪地元の40代以上の男子にとっては「懐かしい街」である。今行けばわかるが、新世界はまるで串カツ、どて焼き、ホルモン…のB級グルメのテーマパーク化した街であるが、大阪のある種独特のコミュニケーション世界が色濃く残っている街だ。

その「ひとびと感」というべき、街をぶらついたり店に入って飲んだり食べたりする際に人と人が濃密にクロスするーー大阪感覚ーーのいとおしさのようなもの。
それが「コテコテ」世界の正体の一つなのであろうが、店の調理人(=職人)に直接「ゲソと牛となすび」などと宣言するように注文して、そして作り手は「はいよ」と返事するや客の目の前で串ダネに溶いたバッター液とパン粉をつけ、熱した油に放り込み料理にする、濃い「対面調理販売」のふれあい方が、ことのほか楽しいと思っているのだ。

考えてみれば、高級料理店にカテゴライズされる板前割烹(これも大阪発祥である)から、近所の子どもまでが客であるお好み焼きも、まさに同じ「カウンター付きオープンキッチン」システムだ。
それは客への余計なコミュニケーションはコストである、と思ってる節があるファストフードのチェーン店や、黙ってメニューの写真を指させば注文できるファミレスのシステムとは対極にある飲食世界である。

その際のパブリックな場としてのルールが「二度づけ禁止」である。

新世界で経験する、街での真っ当な遊び方。

一番人気の昭和4年創業の「元祖串かつ だるま通天閣店」を例にして実況中継してみよう。
注文した揚げたての串カツは、網付きの金属製バットに載せられて出てくる。
客は1本ずつ食べる。当然のことだ。その串をつまんでソースが入ったバットにつける。大きくて深いステンレス製のバットにはソースがなみなみと入っている。
ソースはコテッと濃い味だがさらっとしていて切れが良い(これが串カツソースの持ち味だ)。
ドボンとつける。そしてそのまま取り皿に移し、余分なソースを落とすようにしてからがぶりと噛みつきながら串を引き抜く。うまい。
ビールを流し込む。今度はビールがうまい。
その繰り返しだが、間に無料で盛られている大きくザク切りにされたキャベツを食べる。手でつまんでバットのソースをつける。

そういうことだ。その時にたまたま隣に居合わせた客が、同じソースのバットに一口食べた串カツを「ソースが足りないから」と「二度づけ」するとどうだろう。キャベツは手で直接つまむのだがその際に、バットのソースに指を入れてしまうのも汚いな。
 
「作法」などというものとはちょっと違う(下町の大阪人はこれが嫌いだ)。
全くのパブリックな場で、知らない客と客が隣り合わせ、あるいはカウンターを挟んで店側と知らない客が対峙する。その際、お互いにイヤな思いをせず、すんなりうまいものにありつきたい。
そのための思い遣りなのだ。

自分のわがままをごり押ししたり、ひたすらコストパフォーマンスを追求する「消費者的」スタンスでいると、ときおり「ソース二度づけ禁止」を忘れてしまうことがあるし、慣れないうちはしょうがない。
 
「昔は貼り紙なんてしてませんでした。でも皆わかってました」と[だるま]の店員さんは言うが、立ち呑みで満員状態でも一人客が暖簾をくぐると、だれかが「ごっつおさん」と勘定して出て行くか、みんなちょっとずつ横にずれたりしてその分のスペースを空けてやる。客は斜め半身に体を入れる(誰が名付けたか「ダークダックス吞み」である)。
 
「こうしろ、ああせい」などと教科的なことは言わないが、そういうことは街で自然に身につけろ、ということだ。
大阪人にとっては常識だが、他所から来た慣れない客はわからない。だからこそ店側が「二度づけお断り」と書いて貼り出すのだ。

休日の[だるま]に行けば、下町の串カツ屋や居酒屋の多数派の「おっさん」は少なくて、子ども連れの家族客や標準語のグループ観光客がむしろ目立つが、メニュー欄外には「二度づけお断り」とともに「ソースがつけ足りなかっても心配無用で、キャベツでソースをすくって取り皿の上の串カツにかければよい」ということも書いてある。
お金さえ持っていればガキにも「こちらはいかがですか」とひざまずかんばかりのデパートや、「またおいでください」とマニュアルでにっこりするファミレスなどと完全に位相が違う、街的な店の姿勢だと思う。

割り箸は無駄だから使ったら洗う串を使う、ソースを上からドボドボかけると必ず余分に消費してしまう、だからこそそういうのはしない代わりに10円でも安くする。
街場の大阪の合理思想は串カツ屋に現れている。と同時に、大阪の街はほんとうに情け深い。

<平均予算>
1,500~2,500円

※江弘毅さんのスペシャルな記事『いい店にめぐり逢うために知っておきたいこと』はこちら

元祖串かつ だるま 通天閣店

住所
556-0002 大阪府大阪市浪速区恵美須東1-6-8
電話番号
06-6643-1373
営業時間
11:00~21:00(L.O.20:40)
定休日
定休日 12月31日19:00~、1月1日
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/k471503/
公式サイト
http://www.kushikatu-daruma.com/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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