神谷町で飲みたいのは「最悪」なのに美味しすぎて、もはや買えないイタリアワイン

【連載】東京・最先端のワインのはなし verre20  ヴァンナチュール。自然派ワインとも訳されるこのワインは、これまでのスノッブな価値観にとらわれない、体が美味しいと喜ぶワイン。そんなワインを最先端の11人が紹介する。

2016年04月06日
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神谷町で飲みたいのは「最悪」なのに美味しすぎて、もはや買えないイタリアワイン
Summary
1.自ら「最悪」と名付けたワイン
2.添加物やテクノロジーに頼らなくてもこれくらいできるという皮肉
3.サーヴする側も試されているワイン

「ミシュランガイド東京2016」で一つ星に選ばれた東京・神谷町のイタリアン『ダ・オルモ』の原品真一マネージャーが2本目に選んだのは、サルデーニャ島で造られる一本。
地中海に浮かぶサルデーニャ島はコルシカ島の南に位置し、シチリア島に次いで、イタリアでは2番めに大きな島。その地で代々ブドウ栽培を手がけてきた家に生まれ育ったのが、今回紹介するワインを手掛けるジャン・フランコ・マンカ氏だ。

1986年からブドウ栽培に携わり、1994年から公式にワイナリーとして活動をスタート。イタリア語で「パンとワイン」を意味する「パーネヴィーノ」という名を掲げる。サルデーニャの土着品種を栽培し、中には樹齢100年を超える木もあり、年間生産量は7,500~9,000リットルほど。
畑には肥料を撒かず、自生する草を鋤き込むことで緑肥として利用しているほか、ボルドー液さえも使用せず、細かい粉末状の土と硫黄を混ぜたものを農薬代わりに6月に1度撒く(年、畑によっては撒かない)以外に畑には何も散布しないのだという。

ワイナリーでも、醸造からボトリングまでのすべての工程で一切の薬剤を使用しないという、筋金入りのナチュラルさだが、彼は「そもそもワインとはブドウだけで造る、極めてナチュラルなもので、ワインにナチュラルなどという形容詞を付ける事自体が間違っている」とも言う。
そんな彼が「最悪」と名付けたワインが今回紹介する「ペッジョ」だ。

Peggio 2 / Panevino(ペッジョ・ドゥーエ / パーネヴィーノ)

輸入元ヴィナイオータの資料によると、このペッジョのエチケットにはこんな言葉が記されているという。


セラーにおける(と仮説立てられている←セラーに原因があったと断言していない)最悪のコンディションにより錯乱してしまった、ブドウ栽培家、ジャンフランコ マンカによって、イタリア、正確にはヌッリの農地帯内のペルダコッドゥーラで生産、ボトリングされた、一切の添加物、保存料を使用せずに、怒り、混乱、失望、意気消沈が込められた(添加物は入っていないけど、怒り等々はたっぷり入っている、と言いたいんだと思う)赤ワイン


このワインを造る過程で何が起きたか詳細を記すと、猛暑のせいでブドウがかなり凝縮してしまい、潜在アルコール度数で15%を超え、暑さのせいで酵母の数も少なかったのか、アルコール醗酵に手間取った。そこで買い足した10個のバリック(225リットル)古樽がバクテリア汚染されていることに気が付かずにそれらの樽にワインを入れてしまい、ワインの残糖分が樽に残っていた乳酸菌を活動的にしたため揮発酸が高くなってしまったというもの。

このペッジョには1、2、3とあり、ピシーナカデッドゥという区画にあるブドウ(モニカとカリニャーノという土着品種)とカンノナウを混醸して、ボトリングしたものがPeggio1(※エチケットにはR112とある)、セッリ村で借りている畑とコルテムーラス及びセヌッシという区画から生まれたワインをボトルリングしたものがPeggio2(※R212)、高樹齢のブドウのある畑と自宅に隣接した樹齢の若い畑のブドウで出来たワインはバッグ・イン・ボックスに詰めて(※いわゆる箱入りワイン)Peggio3とした。

「近代の醸造学的」には欠陥の多いワインと言えるかもしれない。
では、なぜそんなワインを原品さんはオススメするのだろうか?

<原品さん>

そもそも、自ら「最悪」であると表明したワインは稀だと思います。
こういった造りのワインの難しさについては、みんな考えることですが、最終的には「お客さま」に飲んでいただくという覚悟を求められるものだと思います。
それは、フランク・コーネリッセンの造るワインを飲んだ時もそうでした。
まずは、お客さまに言葉を持って、説明しなければならない。そのためには、造り手を理解し、輸入したインポーターの想いをわかっていないといけない。

その最たる例がこのペッジョなんだと思います。

醸造学的な、いわゆるワインラヴァー的な言い方とすると欠陥があると言えるワインです。
そんなワインをお客さまに飲んでいただけるよう、私たちは手当をするわけです。例えば、このワインはヴィンテージで言うと2012年ですが、セラーで長く寝かせることであったり、数時間前、あるいは前日などと事前に抜栓しておくことです。
その上で、料理とどう絡み合うかをご説明する。
「サルディーニャのペッジョというワインなんですよ、後はよろしくお願いします」という姿勢では誤解を生むでしょう。

おそらく、強い還元臭であったり、このペッジョのような揮発酸があるワインに拒否反応が出るお客さまはそういった経験をされているのでは?
そういう想いをさせてしまったことについて、私たちワインをサーヴする人間の責任は重いと思います。
このワインに共感していただける方や、造り手・店・インポーターを愛してくださる方に丁寧にお伝えして飲んでいただくべきでしょう。

前回 私が紹介したラディコンは造り手が飲み頃になるまで寝かせてから出荷するタイプです。
それに対して、このパーネヴィーノのように経済的事情などから瓶詰めしたらすぐにリリースするワインもある。だから、このワインはどういったタイミングでどのようにしてお客さまに提供するのかということについて、私たちが試されているわけです。

リリースから約2年が経ちましたが、リリース直後に比べ、果実が厚く出てきています。
もちろん揮発酸もあるけど、繊細でブドウ由来の酸をしっかり感じます。
そして、開けるたび、グラスに注ぐたびに味が変化していく。
フレッシュトマトのパスタでも合うし、熟成をかけた豚の炭火焼きでもいいです。
これが2~3日経って、より果実の印象が出てきたら、肉を煮込んだラグーソースのほうがいいかもしれない。
どう提供すべきワインなのかを問われているわけです。
刻々と変化するこのワインの特徴を面白いと思えたらいいけれど、理解不能として終わることもあるでしょう。

たしかに醸造学的な問題があったわけですが、完熟のブドウだから、そのネガティヴな部分に打ち勝ったのがこのペッジョなんです。並のブドウなら間違いなく負けてしまっていただろうし、こんな透明感は出ないです。

味わいについて、言葉で表現すると溌剌とした酸、柑橘系の酸ですね。香りはイチゴっぽく、徐々にチャーミングな赤い果実の印象も出てきます。
香りに占めるアルコール感が強く、いわゆる「セメダイン香」はあるのですが、デキャンタするといいでしょう。

ペッジョ1ではなく2にした理由は、現時点では2のほうにポテンシャルを感じたからです。1の飲み頃はもっと先なのかもしれないです。
開けるたびに印象が変わるワインだし、最低3~5年は寝かせたいですね。

このペッジョ、たしかに「最悪」という名前がついているわけですが、それは皮肉でもあります。
ペッジョな(最悪の)気象条件、ペッジョな樽から生まれた、「パーネヴィーノ的には」ペッジョなワイン。揮発酸が高いというネガはあるものの、飲んだら美味しい。
化学を礼賛する人たちがあらゆる添加物やテクノロジーに頼って凡庸なワインしか造れないのに対し、何も使わなくても、色々難しい条件が重なっても、これくらいのワインが造れる。
パーネヴィーノとして“最悪”でもこのレベルの旨さになるという意味も包含しているのがこのペッジョなんです。

<ボトル>
グラス950円、ボトル6,800円

DA OLMO (ダオルモ)

住所
〒105-0001 東京都港区虎ノ門5-3-9 ゼルコーパ5-101
電話番号
03-6432-4073
営業時間
ランチ火~金曜日11:30~14:00、ディナー月~土曜日 18:00~23:00
定休日
定休日 日・祝
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/d7pe80a00000/
公式サイト
http://www.da-olmo.com/

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