【酒場の常識論】カフェではない「大人のための正統派バー」では何を注文し、どうふるまうべきか?

【連載】正しい店とのつきあい方。  店や街とのつきあい方がわからない人が増えている。初めてなのに常連と同じように扱われないと怒る人や金さえ払えば何でもしてくれると思う人。お客様は神様、などではない。客としてのあり方を街と店に深い考察を持つ江弘毅氏が語る。

2016年06月19日
カテゴリ
コラム
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【酒場の常識論】カフェではない「大人のための正統派バー」では何を注文し、どうふるまうべきか?
Summary
1.メニューもない大人のバーでの恥ずかしくない注文の仕方がある
2.ネットで検索しても答えは出てこないが、現場には答えが落ちている
3.「カノジョのために甘めで飲みやすいカクテルを」などという輩は来るべきではない空間

キミぼくアナタに行きつけや馴染みのバーがあるとして。
初めてそのバーに行ったときのことを思いだしてほしい。

先輩に連れられて初めて入ったスタッグ・バー。
うわあ、大人のバーだ。真鍮部分がビカビカに光り、カウンターや床が黒光りするように磨きがかかった店内。びしっと蝶ネクタイを締めたバーテンダーとスタッフがグラスを磨いている。
店の歴史なのかほとんど20代がいない客層がつくるのか、何だか怖そうな雰囲気がする。

何を注文していいいかなんてわからない。
先輩はカウンターにつくなり「デュワーズ水割りで」と注文する。
さあ自分はどうしよう。何を注文したものか。

そこに一般解はない。もしデュワースというのがスコッチで、それがどれぐらいのクラスのものなのかが分かっていて、自分もスコッチで問題がなければ、「同じものを」と注文するのが良いかもしれない。

デュワーズが何かわからないときは、先輩にまず「それどんな酒ですか」と聞けば良い。
それでずっと楽になるはずだ。

おまえは自分にとって良き後輩(あるいは友人)だから、多分まだ行ったことがないバーに連れてってあげる。
そんなナイスな先輩がいるならば、先にバーのマスターを前にまず「この男はわたしの部下で…」とか「○×大のボート部の後輩で」とか、つまり「紹介」されるはずだ。
こういう場合の体育会系の縦のつながりは強い。

といった入り方がオーソドックスなのだが、肝心の酒場全般をよく知っている先輩の同伴にあずかれない。
だから雑誌のバー特集を読んだりネット検索で調べたりする。これはしょうがないっちゃしょうがない。

けれどもスタッグ・バーについて、結論めいたことを言うが、その店で何をやってはいけないのかがわからないうちは、誰かの真似をすることだ。
スタッグ・バーといえどもパブリックな場所だろう、などと開き直ってカシスソーダを注文するのはやめた方が良い。

ジン・リッキーとギムレットの何が同じで何が違うかぐらい分かる人でも、初めて行くバーにTシャツにジーンズは避けたい。

それはなぜか。
スタッグ・バーはカフェではないからだ。
様子はだいたい外からうかがえない造りになっている。
酒場なのに、客が酒で荒れることのない空間。
曇り一つない左右5センチ×高さ10センチの立方体の氷。
強いがとてつもなくうまいカクテル。

逆にあなたがそのバーの馴染み(メンバーと呼ぶ店も未だ多い)になったとして、いきなり隣に一見のカップル客が座って「何がお薦めですか」とか「カノジョのために甘めで飲みやすいカクテルを」などと注文すると、いっぺんに酒がまずくなるからだ。

スコッチやカクテルの洋酒が面白くなってくるとバーに通うようになるが、同様にその店ならではの年季が入った空気感やピシッと背筋が伸びたバーテンダーの所作、酒飲み常連客のカッコいい酔い具合…、といった雰囲気を味わうためにその店に足繁く行くというのも当然ある。
それでいいのだと思う。

さてそのどちらもを満たす日本屈指のバーが平松良友さんの「バーヒラマツ」だ。
リッツカールトン大阪のあるハービスPLAZAの2階。店は高級ブランドブティックのフロアにあって、ここだけが完全にスタッグ・バー空間として隔絶されている。
入口からしてそこに何があるのかわからない。
都市空間にあるバーとしては異色の存在だ。

カクテルの博覧強記・平松さんによる、19世紀から伝わるレシピを再現したヴューカレー(1,550円)など、世界のカクテルの最前線のモードを。


※江弘毅さんのスペシャルな記事『いい店にめぐり逢うために知っておきたいこと』はこちら

バー ヒラマツ 梅田

住所
〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田2-5-25 ハービスPLAZA2F
電話番号
06-6456-4774
営業時間
16:00~翌1:00(L.O.24:30)
定休日
定休日 不定休(ハービスPLAZAに準ずる)
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/69p4ftrh0000/
公式サイト
http://www.herbis.jp/shop/?id=125#shop_information

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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