【これからが最高の季節】いままで食べてきたハマグリは何だったんだ! と驚愕必至の本場・桑名のハマグリ

【店づきあいの倫理学】店は生きものであり「おいしさ」や「楽しさ」は数値化できない。だから顔の見えない他者からの情報「評価」を比較して店や食べるメニューを決めたりすることは無効だ。その店だけの「固有の身体感覚」のようなものがあり、その場その時の「代替不可能な店側/客側のコミュニケーション」が、その店の真価を決定づけている。「店と客の関係性」をもとに「よりおいしく食べるための店づきあい」の方法とは?

2017年05月24日
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【これからが最高の季節】いままで食べてきたハマグリは何だったんだ! と驚愕必至の本場・桑名のハマグリ
Summary
1.5月から8月盆前までが産卵期のハマグリは今が一番おいしい季節
2.木曽・長良・揖斐の木曽三川の河口、海水と淡水が混ざり合う、最高のハマグリ産地・桑名
3.明治34年に開業した100年を超える歴史を持つ「ハマグリ料亭」でハマグリづくし

三重・桑名。
東海道五十三次四十二番目宿場であり、『東海道中膝栗毛』にも登場する「その手は桑名の焼き蛤」の地口であまりにも有名なハマグリの名産地である。

わたしは一昨年から近畿大へ非常勤講師で通っているが、学部の事務長が水上競技部副部長を兼任している田中穂徳さんだ。
88年ソウルオリンピックの水泳代表選手で、関西のグルメ誌周辺では「世界中を食べ歩く事情通」として知られている。

田中さんは桑名生まれで、実家は今も桑名の中心街にある。
さすがオリンピック日本代表、桑名市総合運動公園には手形の石像が保存されている地元のスターである。
ちなみに同じ桑名市出身のマラソンの瀬古利彦選手の足形もある。

話を戻して、その田中さんから「これからハマグリが最高の季節です。行きましょう」とうれしいお誘い。
「ハマグリ」という響きに、「おお、焼きハマグリで酒を存分に飲みたいな」などと脳裏に浮かぶ。

まずは餃子の名店への寄り道から

こういう地元素材ならではのうまいものは、やはり「地元の案内人」に連れて行っていただくのが何より。
というかガイドブック頼りでは歯が立たないのだ。

大阪から近鉄特急で約2時間、桑名に午後4時着。
駅直結の昭和な飲食モール「桑栄メイト」の餃子の名店『新味覚』はよく知られた店だ。外観をぱっと見ただけで「これはうまい店だな」とわかる。
「一皿だけ食べていきましょ」と田中さん。店内は外れ時間なのに5~6人の客が陣取っている。

餃子に鮮やかな赤の特製ニンニクラー油を付けて食べながら、このあと伺うハマグリ料亭についてレクチャーを受ける。

ハマグリ料亭、とは?

桑名では「居酒屋でもうどん屋でも」ハマグリを出す飲食店は数あるが、地元で「ハマグリ料亭」と呼ばれる店は2軒。
その一軒が今回の目的地であり、元々は木曽、長良、揖斐の「木曽三川」河口の漁師網元であり、桑名藩に献上する魚介の名産の仲買人でもあったとのこと。
料理屋を開業したのは明治34(1901)年である。優に百年は超えている老舗だ。


流れの豊潤な木曽三川の河口は、海水と淡水がほどよく混じり、最高のハマグリが育つ。
その桑名のハマグリは、大きく育つものの殻が薄く身がぷっくり厚い。であって、上品な味覚は他の産地の追随を許さない。
そのハマグリは一年中獲れて食べられるが、5月から8月盆前までが産卵期で、これからが一番おいしい季節なのだ。

さて午後5時に目的地に到着。
東海道五十三次の「桑名の七里の渡跡」から近いところに立地する、70人の大宴会が出来るこの料亭は、老舗旅館のような風体である。

めくるめく、蛤づくしの世界

田中さんの同級生で地元「山下精機製作所」の社長の山下修平さんが加わる。
山下さんは接待や会社の忘年会などなどでしょっちゅうこの料亭で食べている。五代目店主、女将さんとも、馴染みの中である。
今日はそんなエキスパート、山下さんのアレンジだ。

「蛤会席」とある献立表には、
先付/蛤南蛮漬け お造り/蛤刺身 焼物/蛤陶板焼き 酢物/蛤のぬた 替り鉢/蛤の浅炊き 鍋物/蛤しゃぶしゃぶ(大鍋) 寿司/蛤のにぎり 揚物/蛤の磯辺揚げ・ししとう ご飯物/雑炊
と、よくもこれだけ「蛤」ばかり。蛤づくしとはこのことである。

中でも「この食べ方でぜひ」と山下さんがとくに頼んでメニューに加えてもらったのが…

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