【土用の丑の日】なぜうなぎを食べるのか? うなぎの由来と、家庭でおいしく食べるコツ

日本古来の伝統食は、日本の気候や風土、歴史によって長年育まれてきた大切な食文化です。中でも、暮らしの節目節目にくり返される「行事食」には、日本人のスピリットが凝縮されています。本連載は、日本の伝統食、行事食にスポットを当て、知っておきたい基本知識について、日本料理研究家の柳原尚之さんにお話しいただき、さらに覚えておけば日々の食ライフがランクアップする、日本料理の基本レシピも随時紹介!

2018年07月13日
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【土用の丑の日】なぜうなぎを食べるのか? うなぎの由来と、家庭でおいしく食べるコツ
Summary
1.日本人は、なぜ「土用の丑の日」にうなぎを食べるのか?
2.関東と関西で開き方が違う理由は? うなぎにまつわる雑学
3.プロがこっそり教える、うなぎのおいしい食べ方と、絶品うなぎレシピを公開!

連載第9回:「土用の丑の日」について【日本料理研究家/近茶流嗣家・柳原尚之】

暑さも本格化してくる7月、夏バテしたり体調を崩したりする方も多いこの季節に、スタミナ食として食べたいのがうなぎ。この時期になると、「土用の丑の日」が取り沙汰され、「うなぎ」に目が向く人も少なくないのでは?

そこで今回は、NHK『きょうの料理』講師でおなじみの「江戸懐石近茶流嗣家(きんさりゅうしか)」・柳原尚之さんにご登場していただき、「土用の丑の日」についてご教示していただいた。

2019年は7月27日。なぜ「土用の丑の日」にうなぎを食べるのか?

私はうなぎが大好きです。子供の頃、母が南千住にあるうなぎの老舗『尾花』に連れていってくれたことがありましたが、その日はちょうど隅田川・花火の日でした。店の外へと続く長蛇の列を経て店内も大混雑でしたが、外の花火の音を聞きながら味わううなぎは格別で、子供ながらに「ああ、風情があるな」と、忘れられない記憶となっています。

さて、「土用の丑の日」になるとうなぎを食べる方も多いのではないでしょうか。「土用」というのは夏だけでなく、立春・立夏・立秋・立冬の前の各18日間を「土用」と呼びます。一方、「丑の日」というのは十二支の「丑」のこと。ご存知の通り、暦の上では日付に十二支が割り当てられており、12日周期で丑の日が回ってきます。つまり、立春・立夏・立秋・立冬の前の各18日間の「土用」の期間のうち、十二支が「丑の日」に重なる日が「土用の丑の日」となり、年によっては2回あります。ちなみに、2019年の夏は7月27日になります。

では、なぜ「土用の丑の日」にうなぎを食べるのでしょうか? 土用は各季節の変わり目で、気温の変化も激しく、体が疲れやすくなります。昔から夏の土用には「う」のつく食べもの、例えば瓜や梅などを食べる習慣があり、うなぎが食べられるようになったという説があります。

その他、起源のひとつと言われているのは、江戸中期の学者、平賀源内の発案に由来するというものです。夏場、客足の落ちるうなぎ屋の張り紙に「本日、土用丑の日」と記したら、お客さんが殺到したという説があり、商業が作った旬でもあるのです。

いずれにしても、うなぎには滋養があるから流行ったのでしょう。実際、うなぎを下ろしてみると、その滋養の強さがわかります。締めてしばらく経っても体は生きていてとても下ろしにくい魚です。

うなぎの本来の旬は「秋」って知ってた?

最近はうなぎの稚魚、シラスの数が激減しているため、価格も上がり、絶滅が危惧されています。養殖といっても、うなぎは卵からの完全養殖の技術が確立していないので、シラスをとって養殖しています。つまり、シラスの漁獲高で値段が決まるわけです。

今年のはじめは記録的不漁でしたが、その後、宮崎県で漁獲高が増え少し安定したそうです。しかし、土用の丑の日に集中してうなぎを食べることで、生産者も一度に大量に育てることになり、特に土用の丑の日の付近は価格も上がってしまいます。うなぎ屋さんの中にはあえて、土用の丑の日に休業するお店もあるぐらいです。

本来でいえば、うなぎの旬は秋。産卵前の秋から冬にかけ、たくさん餌を食べて脂がのるため、10月から11月ごろのうなぎが一番おいしいとされています。せっかくうなぎを味わうなら、土用の丑の日だけではなく、少し涼しくなってからいただいたほうが、うなぎ本来のおいしさをより楽しめるのではないでしょうか。

背開きと腹開き。関東と関西で、うなぎの開き方が違う理由は?

和食の料理人でもない限り、うなぎを自分でおろす人はほとんどいないと思いますが、うなぎは、魚の中でも五本の指に入るほど、おろすのが難しい魚と言われています。長くてぬめりがあるうなぎは「目打ち」といってキリ状のものを、締めたあとでホホの部分に突き刺して固定してから、専用の包丁で下ろしていきます。「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と呼ばれ、それぞれの工程に熟練の技が必要です。一生かけてひとつの料理を極めるのが、うなぎ職人なのです。

うなぎの開き方として、関西では腹開き、関東は背開き(江戸おろし)にします。よく、腹開きは武士の切腹につながり、江戸では縁起が悪いからと言われますが、近茶流の考えでは少し違います。

江戸発祥の近茶流では多くの魚は背中側から開きます。魚の置き方は一般的に、頭を左、お腹を手前に置きますが、これは江戸時代に決められたルールです。なぜかというと、氷も発泡スチロールもない時代、魚の身をできるだけ傷めないよう、魚を持ち運ぶ時は「同じ向きにそろえて持つこと」が大切でした。向きをそろえれば、上側の身は下側の身より鮮度が保たれるわけです。

それで、頭を左に置いた時の上になる部分が「上身」、下を「下身」と呼ぶようになりました。いちばん鮮度のいい上身の、背中側からおろしていくというのが江戸おろし、つまり背開きの考え方です。

江戸ではうなぎは下ろした後、串を打って、一度蒸してから焼きます。一方、関西では蒸さずに焼きます。ここで、腹開きにするとどうなるか。薄い腹の部分が外側にくると、蒸して柔らかくなった時に、薄い部分が串から落ちてしまうのです。身の厚い背中側から開くと、身の厚い部分が両端にくるため、串を打って蒸しても身がくずれません。

では、なぜ関東では蒸すというひと手間が入るのでしょうか。江戸の人々は脂っこい食べものを嫌い、今では人気の高いマグロのトロさえも好まれませんでした。うなぎを蒸すことで余分な脂が落ち、口当たりを柔らかくするという考えがあったようです。もちろん、関西のうなぎも歯ごたえがあって、私は好きですね。

プロが教える、市販のうなぎをおいしくする方法!

さて、家族でうなぎを食べるときは、スーパーや百貨店などでうなぎの蒲焼きを買ってきて、温めて食べるのが一般的だと思います。市販のうなぎをよりおいしく食べる方法をお教えしましょう。実際のところ、うなぎの味は値段に比例します。餌の価格や養殖の方法など、生産者がコストをかけるほど、うなぎの臭みはなくなり、味はよくなる傾向があります。

予算内でうなぎを買ってきたら、なるべくおいしく食べたいもの。うなぎをよりおいしくする簡単な方法としては「たれを自分で作る」こと。市販の蒲焼きのたれは、塗ったあとで流れ落ちないよう、水飴などで粘度をつけてあることが多いようです。

作りやすい分量としては醤油とみりんが100mlずつに、砂糖大さじ4。これを小鍋に入れてとろりとするまで煮詰めれば、基本のたれになります。買ってきたうなぎの表面についていたたれを洗って落とし、1回グリラーやトースターなどで焼いて、自家製のたれを塗って焼き、表面がこんがりしたら、もう1回たれを塗って焼いてみてください。このたれはうなぎ以外にも、照り焼きや焼き鳥にも使えるし、アナゴに使ってもおいしいです。

近茶流・うなぎのアレンジ料理、おしえます!

写真:柳原尚之

さらに、うなぎの蒲焼きをちょっとアレンジしたおいしい食べ方をご紹介しましょう。私が以前、2015年の「ミラノ国際博覧会(万博)」で京都の料理人さんたちと懐石料理をお出しした際に、コースの最後に作った「うなぎの生姜めし」(写真上)がそれです。

うなぎの蒲焼きとたれ、生姜(なるべく新生姜)を薄切りにして茹でて、甘酢に漬け込んで作った「生姜の甘酢漬け」を用意します。ごはんが炊き上がった時に、生姜の甘酢漬けを刻んで加えて、蒸らします。蒸らし終えたら、うなぎのたれをご飯に混ぜ合わせてお茶碗に盛り、食べやすく切ったうなぎをのせます。刻んだ青ネギや錦糸玉子を散らすと、一層うなぎのおいしさが引き立ちます。

写真:柳原尚之

生姜のおかげでうなぎをよりさっぱりと食べられるため、食欲の落ちる夏の暑気払いにもぴったりなので、ぜひ試してみてください。


※写真はイメージです
写真提供元(一部):PIXTA
編集協力:糸田麻里子(フードライター/エディター)

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