代々木上原で出逢う「和と伊」の理想的コラボ、東西夫々の味覚の冴えを堪能できる店が6月に移転オープン

【連載】幸食のすゝめ #073 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2018年08月30日
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代々木上原で出逢う「和と伊」の理想的コラボ、東西夫々の味覚の冴えを堪能できる店が6月に移転オープン
Summary
1.和は安住さん、伊は中澤さん。2つのジャンルの料理が同時に堪能できる店
2.和伊の創作料理ではなく、和は和、伊は伊、道を極めた2人の料理がしなやかに寄り添う
3.必要最小限の伝達で料理をサーヴし合う、阿吽の名コンビの新しい城。その店の名は…

幸食のすゝめ#073、東西の共存には幸いが住む、代々木上原

「いやぁ、どれもこれも野菜がうまいね。俺たち田舎育ちだからさ、やっぱりこういう濃い味の野菜がいちばんだな」。

近所のお客さんだろうか、それとも西麻布時代か、もしかしたら安住(壮一)さんがカウンター割烹を開いていた桜新町時代のご常連かもしれない。開店と同時に通り側の席に着き、飲み口が優しいイタリア産のナチュラルワインをボトルで頼んで、3人で話が弾んでいる。

最初に綺麗な大皿に盛られて出されるおばんざいは、言わば食べ放題。野菜の持ち味を活かした和のあしらいが中心なので、いくらでも食べられそうだが、あまり欲張っていてはこれから始まる晩餐の途中でおなかが一杯になってしまう。

そんなことを考えながら、キャベツが細切りにされた和え物を口に運ぶと、クミンとパンチェッタの香りが鼻腔まで広がる。ほんの少し加えられたゴーヤの仄(ほの)かな苦みが、さらに味わいの重奏に彩りを与えている。
これはきっとイタリアの田舎料理、中澤(泰徳)さんの調理だろうか。和伊厨房の名前の通り、ここでは和食とイタリアンが互いへの敬意のもと仲良く共存している。

天然木とポリエチレンの俎板(まないた)、盛箸(もりばし)とトング。90度にカーブしたカウンターの向こうとこちら側で、客の会話に応えながら2人は黙々と自分の仕事に向かっている。

目の前でハモ切りをし、キュウリと水ナス、ミョウガの和え物を作る安住さんの向こう。先ほどの3人組の前では、中澤さんが山形産の短角牛に丁寧な火入れを施している。

手が空けば各々が洗い物をして、必要最小限の伝達で料理をサーヴし合う、まさに阿吽の名コンビだ。
駒沢大学のワインバーで常連同士として知り合った2人は、やがて互いに鳥取県出身だと分かり意気投合。西麻布で最初のコラボレーションが始まった。

「実は和食もイタリアンも、調理方法自体は一緒なんです。生で出すか、焼くか、揚げるか、蒸すか、炒めるか。でも、そのどこにピークを持ってくるか?その箇所が違うんだと思います」、研ぎ澄まされた包丁で刺身を引く安住さんの後ろから、中澤さんが覗き込むように声をかける。

「僕らは肉の焼きに対して、やっぱり何よりも気を使います。フライパンでこんがりとした焼き目を付けたら、オーブンでの穏やかな加熱、その後の余熱調理まで…」。
「でも、そこまでしたらお客さんの目の前にナイフとフォークを添えてドーンと出す、もしお刺身がサクのまま出て来たらビックリしませんか?刀の伝統が綿々と息づいている和食では、切ることが文化なんです」と安住さん。

和と伊、それぞれの素晴らしさをそのままに

「でもね、その分、和食の焼きは割と大雑把なんです。とにかく炭火で焼けばいい、みたいな。ミディアムとかレアとか焼き方の段階も選べないし、どうおいしく焼き上げるかという工夫はあまりしないんです」。
「スパイスやハーブ使いも、全然違いますね。和食は圧倒的に複雑な香りを使わない」、そんな中澤さんまわりのスパイス棚に比べると、確かに和のコーナーでは定番のものしか目に映らない。

「冬は柚子、夏は木の芽、以上!みたいな」、安住さんの言葉にカウンターが沸く。

この気さくで心地いい空気は、割烹にもイタリアンにも感じられない。それでいて、無国籍でも創作料理でもなく、2人が極めた自分の料理をきちんと出す。それがありそうでどこにもなかった、新しい空間の秘訣かもしれない。

ある時には中澤さんが焼いた牛肉を、安住さんが刺身を引くように切って提供する。官能的な断面は、身を蕩けさせる禁断の味わいに満ちていた。

自由気ままな東洋と西洋の出逢い

自由が丘『モンド』や代官山の『ファロ』など。今を体現するイタリアンの名店を通過して来た中澤さんならではのナチュラルワイン。
安住さんが選び抜いた、なかなか店頭で見かけることがない日本酒。選ばれたドリンクは、どれも2人が料理人として生きてきた軌跡のようなチョイスだ。

〆にはパスタの名手として有名な中澤さんのパスタやリゾットが並ぶ、もちろんデザートもお手の物だ。
たっぷりの野菜や旬の海の幸を和の装いで楽しんだ後、イタリアン屈指の焼きで肉を頬張り、超絶のパスタで〆る。
こんなに自由なレストランは、きっと容易に見つからないだろう。

東洋の静と西洋の動、東洋の引き算と西洋の足し算。醤油とオリーブオイル、クミンと七味唐辛子。
西麻布の『オステリアあんじゅ』から、注目店の『sio』や老舗『ル・キャバレ』などが点在する閑静な代々木上原へ。

さらに2人の魅力が開花する新店の名前は…

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