「東京いちじく」は必食! 八王子の新鋭農家とコラボした、自然に寄り添う江戸割烹『平成楽吉屋』

2019年10月20日
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「東京いちじく」は必食! 八王子の新鋭農家とコラボした、自然に寄り添う江戸割烹『平成楽吉屋』
Summary
1.他では味わえない料理への並みならぬこだわり。割烹『平成楽吉屋』
2.八王子の若手農家を牽引する新鋭農家。イチオシは「東京いちじく」!
3.旬の食材と料理がとことん楽しい! 緻密に仕上げられた絶品の数々

都市生活の身近で育まれる新鮮な農作物。料理人たちがその恩恵にあずかれることが都市農業の最大の魅力のひとつであることは、以前ご紹介したとおりである。(畑の味をそのままに! 主役級の「野菜」が超おいしい、農家とレストランのビストロ『ボンクラージュ』

都内随一の農業生産額を誇る八王子市でも、あふれる魅力を持つ農家と料理人がコラボレーションを演じていた。

隠れた良いものを見つける楽しさ。割烹『平成楽吉屋』

風情豊かな花街・黒塀通を横目に、八王子の街を歩く。お店の名前が記された行灯を頼りに地下へ下りれば、月灯りに照らされたような和の空間が出迎える。並みならぬこだわりで粋な料理を供する割烹『平成楽吉屋』である。

店主の吉田諭さんは、江戸料理の名店『太古八』で修業していた経歴を持つ。なんと高校時代から修業をはじめ、昼間は学校で勉強し、夜はお店で料理を学んだ。終電で家まで帰り、翌朝また学校へ通う、という生活を送っていた。

高級ホテルで腕を振るい、数々のコンクールで入賞したりと輝かしい実績を積んだ後、店を構えることになったのが地元の八王子だ。『平成楽吉屋』は都心から外れたところにあるが、場所ではなく、何をやるかが重要だと吉田さんは言う。そのこだわりの一つが、「隠れた良いものを提供する」ことだ。

▲新鮮な食材を仕入れるため、毎日市場に通う

「隠れているけどいいものが、世の中にはたくさんあります。それを見つける楽しさを人々に伝えたい」と吉田さん。後述する未熟な青いいちじくや、熟成して甘みが増した京野菜のつくね芋、冬季には奈良・吉野から猪を仕入れたりと、選りすぐりの食材を揃える。

季節外れの食材を無理して使わず、生産者、そして自然に寄り添い、地元の八王子野菜を取り入れることも吉田さんのこだわりだ。「八王子の方たちは非常に良い野菜を作ってくださいます。手間暇や投資を惜しまない。肥料や品種に気を遣い、畑もとてもきれいです」。

『平成楽吉屋』の八王子野菜を扱うにあたって欠かせない人物がいる。地元の若手農家、『Altte Farm(アルッテファーム)』の舩木(ふなき)翔平さんだ。

農の可能性を探り、魅力を伝える新鋭の農家

『平成楽吉屋』で使用する多くの八王子野菜は舩木さんの紹介によるもの。吉田さんは、真っすぐに農に向き合う舩木さんに信頼を寄せている。「八王子の野菜と言ったら舩木」と謳う人もいるほどで、既存の農家の枠組みにとらわれず、さまざまな取組みを活発に進めている。

舩木さんが畑の周辺を歩くと、「畑はどうだい?」と頻繁に声をかけられる。近隣の人々も舩木さんの活動に心を惹かれているようだ。

▲『Altte Farm』の舩木さん。笑顔がまぶしい

舩木さんの求心力とも言えるこの強い魅力は何だろう。それは舩木さんの、農に対しての真摯でひたむきな姿勢から来るものかもしれない。

八王子の新規就農者第一号の舩木さんは、2013年に八王子で法人を立ち上げ、20~30代の農業者グループで農薬不使用の野菜を作って販売したり、農業イベントの開催などに力を入れた。その後、別の団体で体験農園運営サポートに従事し、遊休農地の引き受けや農家の支援をしながら、エンターテインメントとしての農の可能性を追求している。
これらの経歴が評価され、自治体に招かれ農業を主体とした街づくりについて意見を述べている。都市農業の「トップランナー」と言えるだろう。
この活動をつづけながら2019年1月、『Altte Farm』を開設する。

▲『Altte Farm』での収穫イベント

「アルッテ」とは北関東の方言で「歩いて」という意味で、八王子出身の舩木さんも何気なく使っていて面白いと感じ、畑の名前に採用した。農場を庭のようにして、人々に「歩って」もらいたいと言う。小比企(こびき)丘陵と呼ばれるこの大地は、畑が連なり、丘の向こうまで散歩ができる。『Altte Farm』もこの丘陵風景の一部になりたいという想いがある。

他の農家からの信頼も厚い舩木さんには、今も多くの相談が寄せられる。農業仲間が多く、飲食店から野菜の在庫の相談を受ければ、他の作り手も積極的に紹介する。ニーズを独り占めするよりも、農業をみんなで一緒に盛り上げたい。そんな強い気概を感じる。

アルッテファームのイチ押し、「東京いちじく」

舩木さんが今、力を入れるのがいちじくだ。農に積極的に関わってきた中で、東京の農を看板としたお土産を作りたいという想いを秘めていた。そこで目を付けたのがいちじくである。上品な甘みと香りという強い魅力がありながら、傷みやすく日持ちがしない。都市近郊産で売り出すのにぴったりの果物だろう。

いちじくを東京を代表する作物へ育てるため、2017年から「東京いちじく」としてその価値を広めている。

畑はいちじくの香気に満ちている。実だけでなく、緑葉からも香りを発するためだ。葉なども「東京いちじく」の商品として研究し、東京のお土産にしたいという。

管理しきれなくなった農地を借りていちじくの栽培を始めるなど、耕作放棄地の問題にも一役買っている。舩木さんへの耕作放棄地の相談は少なくない。これも舩木さんのネームバリューがなせる業だ。

畑では20種ものいちじくを育てている。一般的な品種から黒いちじく、黄色のものや白いものなど、実にさまざまな種でにぎわっている。いちじく好きにはたまらないだろう。

舩木さんがメインで育てているのは代表的な「桝井ドーフィン」という品種で、大ぶりな実が特徴だ。熟したものはもちろんだが、未熟な青いいちじくも多く提供している。甘露煮やお吸い物、天ぷらにすれば、立派なごちそうだ。

生産だけでなく、加工や販売、さらにエンターテインメントとしての農にも目を向ける舩木さんは、次代の農を担う一人になるだろう。

吉田さんが舩木さんを頼りにするように、舩木さんもまた、生産者に寄り添った視点で料理を作る吉田さんに全幅の信頼を寄せている。百戦錬磨の吉田さんは、料理の中の食材の姿を熟知している。食材の目利き、状態ごとの最良の調理法、食材の組み合わせについての造詣は、果敢にチャレンジする舩木さんの強い味方だ。

舩木さんが持ち込む多様な品種は、吉田さんの手によって巧みに割烹料理に姿を変えていく。

珍しいが楽しい! 会話が楽しい! 旬が楽しい!

「おいしいものを作ることは料理を提供する者として当たり前。おいしいものでいかに楽しんでもらうかということに全力を注いでいます」と吉田さん。

隠れたおいしいものを見つける楽しさ、顔を合わせて食事をする楽しさ、1年に一度しかない食材の旬を吟味する楽しさ。「『楽』しく『吉』田の店(『屋』)で」という想いが込められた『平成楽吉屋』には、無限の楽しみ方がある。

供される一品一品へのこだわりを聞きながら、吉田さんとの会話は弾んでいく。

▲焼きなす
シンプルだが、八王子のなすのうまみを存分に味わえる。生姜も八王子産である。煌めく表面が実においしそう。たまらずかぶりつくと、実は口の中でとろけ、香ばしい香りが鼻孔を突き抜ける。

▲ごま豆腐 いちじく入り
突飛なようだが、ごまといちじくは古典的な組合せだという。点心を思わせるもっちりとした出で立ちのごま豆腐を割ると、舩木さんのいちじくが芳香とともにお披露目となる。こちらもたまらず頬張ってみる。繊細ないちじくの甘さを引き立てるよう薄口醤油を使い、豆腐の甘さも絶妙に調整されている。とても上品な逸品だ。

▲牛タン味噌漬け焼き
牛タンの味付けは、癖が強くなりがちな八丁味噌を田舎味噌と合わせることで絶妙な味わいに。そこにデミグラスソースが添えられている。牛タンとソースが寸分の違和感もなく調和しているのは、デミグラスソースが味噌と醤油で仕立てられているからだ。味が濃く思われるだろうが、ソースの塩分が緻密に整えられている。すべてが吉田さんの計算の内なのだろう。

付け合わせはじゃがいもと丸オクラ。オクラは丸く筋張っておらず優しい食感。吉田さんによれば、八王子野菜は「さりげなく入ってくるが、料理に欠かせないおいしい口直し」である。

▲白なすの田楽
大きめのさいの目に切られた白なすを贅沢に頬張れる。たれは八丁味噌を練ったもので、コクがあり引き締まっている。数種類あるなすの中から白なすを選ぶのは、油との相性が良いから。揚げることで食感はもはや消え、ふわふわの食べ心地である。食味も非常に香り高く、食べ終えた後も余韻が残る。

▲季節の野菜の天婦羅
丸オクラ、生姜、さつまいも、白なす、舞茸、万願寺とうがらし、そしていちじくの天婦羅。旬の野菜を、一度にこれだけ味わえるのが天婦羅のすばらしさだ。いちじくの天婦羅も古典的な料理であるという。伝統的に天婦羅にされる果物は、いちじくだけだそうだ。温度が上がることで甘さが増し、お菓子のように仕上がる。いちじくの別の顔がうかがえる。

舩木さんと吉田さん。二人との会話からは熱い想いが伝わってくる。何よりどちらもすごく楽しそうだ。そんな二人に会いに、八王子へ赴いてはいかがだろうか。『Altte Farm』を「歩って」、『平成楽吉屋』で会話を弾ませれば、たちまち虜になるだろう。

【メニュー】
焼きなす 500円
牛タン味噌漬け焼き 1,200円
白なすの田楽 700円
季節の野菜の天婦羅 800円
※本記事に掲載された情報は、取材時点のものです。現在は異なる場合があります。また、価格はすべて税別です

【農園】
農園名:Altte Farm
所在地:東京都八王子市小比企町
https://alttefarm.hateblo.jp/

取材:NKB farm 都市型農業研究員 石島秀彬

割烹 平成楽吉屋

住所
東京都八王子市横山町6-5 B1
電話番号
050-3491-0355
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
営業時間
月~土
ディナー 17:00~24:00
(L.O.23:30)
ランチ 11:30~14:00
(L.O.13:30)
ご用意した食材が無くなった場合、閉店時間を早める場合がございます。
定休日
日曜日
2日前までに2名様以上の御予約で営業致します
ぐるなび
http://r.gnavi.co.jp/3tc72zb30000/

上記は取材時点での情報です。現在は異なる場合があります。

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柳原尚之
江戸懐石近茶流嗣家(きんさりゅうしか)/「柳原料理教室」副主宰