「だし巻き玉子」と「厚焼き玉子」の違いって? お弁当にピッタリのおいしい「玉子焼き」の作り方

日本古来の伝統食は、日本の気候や風土、歴史によって長年育まれてきた大切な食文化です。中でも、暮らしの節目節目にくり返される「行事食」には、日本人のスピリットが凝縮されています。本連載は、日本の伝統食、行事食にスポットを当て、知っておきたい基本知識について、日本料理研究家の柳原尚之さんにお話しいただき、さらに覚えておけば日々の食ライフがランクアップする、日本料理の基本レシピも随時紹介!

2018年03月29日
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「だし巻き玉子」と「厚焼き玉子」の違いって? お弁当にピッタリのおいしい「玉子焼き」の作り方
Summary
1.お花見のルーツは? お花見弁当はいつから食べるようになったのか
2.お花見弁当の基本! 美しい盛りつけのコツは?
3.お花見弁当にぴったり! 近茶流直伝、絶品「江戸厚焼き玉子」の決定版レシピ

連載6回:「お花見弁当」について【日本料理研究家/近茶流嗣家・柳原尚之】

桜の開花宣言とともに、お花見の予定を立てている方も多いはず。お花見に欠かせないのが、おいしい「お花見弁当」。ところでお花見はいつ頃から、どのように行うようになったか、昔の人はどんなお花見弁当を食べていたのか、ご存知だろうか。

江戸懐石近茶流嗣家(きんさりゅうしか)の柳原尚之さんに、お花見のルーツや歴史、江戸時代のお花見の様子など、さまざまな角度から「お花見」にまつわる「食文化」について解説していただいた。さらに、お花見弁当に欠かせない、甘さのおいしい玉子焼きである「江戸厚焼き玉子」のレシピを公開。お花見に限らず、ふだんのお弁当がランクアップすること間違いなしだ。

もともと日本の“お花”といえば「梅」だった!? お花見の歴史と「桜」について

戸外や野山で桜を愛でる「お花見」はいつから始まったのでしょうか。かつて日本では、中国の文化の影響で、花といえば梅のことをさしていました。

奈良期に、編さんされ、漢詩で書かれた『万葉集』では梅を詠んだ歌が桜の歌よりも多かったが、平安期、日本独自に発展させたやまとの言葉「仮名」で書かれた歌を集めた『古今和歌集』では桜のほうが多く登場するようになりました。約1週間で散ってしまう桜のはかない美しさを愛でるのは、日本人の美的センスにより合ったのではないでしょうか。

▲写真は真鯛。「桜鯛」とも呼ばれている。


その後、桜の美しさは愛でるだけではなく、食べることにも大きく影響を与えています。食材の名前もそのひとつ。桜鯛、桜鱒、桜海老など本名は別にありますが、その食材の旬と桜の時季が重なることから、桜の字があてられるようになりました。

その代表が桜鯛です。本来の名は真鯛ですが、春になるとメスは卵をもち、体の色もピンクの桜色になり、1年の中でも特に脂がのっておいしくなるので、桜鯛と呼ぶようになったのでしょう。余談ですが、本名がサクラダイというきれいな赤色の魚もいますが、味の方は真鯛におよびません。

桜餅の“葉”は食べる? 食べない? 桜餅の秘密について

お花見の時期に心惹かれるお菓子といえば、桜餅です。生地を薄く焼き、あんをくるっと巻いた関東風のものと、道明寺粉の生地であんを包んだ関西風のものの2種類があります。

桜餅には桜の葉を塩漬けにしたものを使いますが、葉は私たちがよく見るソメイヨシノの桜ではなくヤマザクラ郡のオオシマザクラを使います。西伊豆の松崎町は多くの生産量を誇ります。しかし、産地を訪ねても桜を見ることはあまりありません。食用の桜は高さ1m程度の、花を咲かせない若い木から葉をとります。若葉はやわらかく料理に適しているのです。

生の桜の葉には香りがついておらず、独特の香り成分は塩漬けして初めて香りが出ます。この葉を食べるか食べないかで意見が分かれます。ちなみに私は食べる派です。最終的に好みでよいと思いますが、有名な『長命寺桜もち 山本や』の桜餅は大きめの葉2~3枚で包んであります。長命寺桜もちの発祥が大川(隅田川)の土手の桜を使っていたことから、今でも葉っぱを外して食べるのを、お店では勧めているそうです。

「お花見弁当」の発祥は?

現在のスタイルに近い、弁当や飲み物を持ち出してのお花見は、江戸時代に流行しました。「提重(さげじゅう)」という、花見弁当を運ぶための道具が江戸時代に普及し、身分の高い人も一般庶民もみんながお花見に出かけていたそうです。

▲「提重(さげじゅう)」は、花見弁当に用いられた道具で、取っ手のついた外枠の中に重箱や方盆、徳利などが納められ、持ち運びしやすくなっている。写真は、柳原家所蔵の塗りの提重。

▲引き出し式になっていて、大小の重箱と、10人分の銘々皿などが納まっている。いちばん下の引き出しには箸を入れることができ、上面には持ち手として提輪(さげわ)という鉄の輪がついている。



身分の高い人は豪華絢爛な塗りの提重に料理やお菓子、錫の徳利に入れたお酒を詰めたりしていました。さらに周りを幕で囲い、音楽を演奏したりして豪華な酒宴を楽しむ人もいたそうです。一方、庶民たちも、出前の岡持ちに似た簡素な提重を持ち、思い思いにお花見を楽しんでいたことが文献などからわかります。浮世絵には、豆腐の田楽をその場で作って、炭火で焼いている様子も見られます。

江戸時代から明治にかけての行事弁当には、お花見に限らず、「玉子焼き」と「かまぼこ」が欠かせないものでした。甘みのきいた江戸風の玉子焼きは、砂糖の貴重な時代はごちそうでしたし、かまぼこは魚そのままよりも傷みにくいため、弁当向きの食材だったのです。

“お花見弁当”におすすめのおかずは?

お花見弁当に詰めるおかずに、とくに決まりというものはありませんが、せっかくですから、桜にちなんだ料理があると、お花見の雰囲気が出ます。この季節ならではの江戸料理に「桜煮(さくらに)」があります。

江戸料理で桜煮といえば、タコの煮物を言いました。タコを煮ると自然と桜のような色に仕上がることから、この名が付いたのだと思います。タコをやわらかく煮るにはポイントがあります。それは、炭酸です。重曹でもよいのですが、家庭では炭酸水を使うとよいでしょう。まず炭酸水で煮てやわらかくしてから、醤油、砂糖、みりんなどで味を付けます。

また桜めしというのもあり、これはタコを小口切りにして炊き込みご飯にするとタコがちぢれて桜の花のようになり風流なひと品になります。

お弁当の盛り付けのコツは、なるべくスペースを作らないこと。初心者は市松などの仕切りがついた弁当箱を使うことも一つの手です。動かしにくい料理から盛り付けて、そこから手前に向かってだんだん小さいおかずを盛ると、見た目が美しくなります。

▲近茶流のお弁当。手前はちらしずし。おかずはとりの竜田揚げ、だし巻玉子、サツマイモの含め煮、精進揚げ、インゲンのごま和え、粉ふき芋。


お弁当のおかずは全体的に色合いが茶色くなりがちですが、彩りには「五色」を意識し、緑や赤、黄色や白で華やかに。また、海苔や黒ごまなどの黒い色を効果的に使うと、見た目が引き締まります。

お花見弁当の定番、関東と関西の玉子焼きはこんなに違う

お花見をはじめ、江戸時代からの行楽弁当の定番「玉子焼き」はぜひ作りたい一品です。その玉子焼きですが、関東風と関西風があるのをご存知でしょうか。

関東風の玉子焼きは甘い味のものです。甘露だしといって砂糖や醤油を入れただしを作り、溶いた卵を合わせてから焼き上げます。一方、関西風のだし巻玉子はだしが多く入り、直接、みりんや塩が入れます。だしが多いことから卵をかためるために、浮粉や片栗粉などのデンプンが少量入ります。

▲写真左が関西風の「だし巻玉子」。右が関東風の「厚焼き玉子」。



また、玉子焼きを作る道具の「玉子焼き器」も、関東と関西では形が違います。関東式の玉子焼き器は、正方形に近くなっています(写真下・左)。一方、関西式は「巻く」作業がしやすいように、長方形になっています(同・右)。ただ、現代では、扱いやすい関西型が一般的で、私の料理教室でもどちらの玉子焼きも関西型で焼きます。

▲関東風(左)と関西風(右)の玉子焼き器



巻き方も違い、関東は向こう側から手前に折りたたむように焼きますが、関西は手前からくるくる巻くように焼きます。この違いも形の違いに出ているのだと思います。

江戸風! お花見弁当にぴったりの、絶品「江戸厚焼き玉子」の作り方

ここで、私の料理教室でも教えている、江戸風の玉子焼き「江戸厚焼き玉子」の作り方をご紹介しましょう。調味料として、あらかじめ作っておいた「甘露だし」を使うのがポイントです。ほんのり醤油がきいた、やや濃いめの味つけが、お弁当のおかずにもお酒にもぴったりです。

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森一起
ライター/作詞家/ミュージシャン